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Photo bydorobe56

三日目の既読 恋の常温保存の原理


    恋の始まりというものは、少々様子がおかしい。

    普段なら返信に二、三時間かかるような人間が、五分以内に返してくる。

    「おはよう☺️」

    ただそれだけの文字列に、胸がふわっと温かくなる。

    もはや朝ではない。

    祭りである。

    スマホが震えれば見る。

    震えてなくても見る。

    テーブルに置いても見る。

    お風呂にも持っていく。

    トイレにも持っていく。

    恋愛初期の人間ほど、スマホに人生を握られている生き物はいない。

    それなのに本人は、

    「別に平気だよ?」

    などと強がる。

    平気な人は、一分おきにLINEを開きませんの。

    さて。

    そんな恋にも、少しずつ変化がやってくる。

    あんなに頻繁だった連絡。

    「おはよう」

    「仕事どう?」

    「帰ったよ〜」

    「寝る?」

    もはや安否確認なのか恋なのかわからないほど密だった会話が、少しずつ減ってくる。

    最初は気づかない。

    次に気づく。

    そのあと、急に不安になる。

    人間というものは、幸せに慣れると不安を探し始める。

    困った生き物ですわね。

    昨日まで二時間おきに来ていたLINE。

    今日は来ない。

    まぁ忙しいのかな。

    そう思う。

    大人ですもの。

    仕事もある。

    疲れもある。

    人生、恋だけでは回りません。

    そう思う。

    そう思うのです。

    ——しかし。

    夜になる。

    来ない。

    次の日。

    来ない。

    三日目。

    ここからが本番である。

    スマホを見る回数が異様に増える。

    通知など来ていない。

    来ていないのに開く。

    もはや確認ではない。

    願いである。

    しかも、こういう時に限って来るのは、
    PayPay。

    楽天。

    「あなたへのおすすめ商品」

    いや今じゃない。

    恋愛に効くクーポンをください。

    心は静かに荒れ始める。

    忙しいのかな。

    疲れてる?

    でも…。

    前は違った。

    前はもっと来た。

    あんなに。

    好きだった感じ。

    あった。

    いや今もある?

    ない?

    ある?

    どっち?

    人間、不安になると勝手にドラマを書く。

    しかもだいたい昼ドラ寄り。

    相手は普通に残業してカップラーメン食べて寝ただけかもしれないのに、

    こちらの脳内では既に

    「気持ちが離れ始めた男」主演ドラマ

    が始まっている。

    そして三日目。

    夕方。

    心の中で、少し覚悟が始まる。

    あぁ…。

    終わりの始まりかもしれない。

    恋って、こうやって静かに薄くなるのかも。

    なんて。

    切ない音楽まで脳内に流れ始める。

    しかし。

    ピロン。

    スマホが震える。

    ——「何してる?元気?」

    来た。

    普通に来た。

    何事もなかったかのように。

    まるで昨日ぶりくらいの顔で。

    こちらは三日間、感情ジェットコースターに乗っていたというのに。

    恋愛というのは少々理不尽です。

    相手は悪気なく暮らし、

    こちらだけ勝手に物語を作り、勝手に傷つき、勝手に再生する。

    でも。

    不思議なもので。

    三日目に来る。

    完全には放っておかない。

    こちらが忘れそうな頃、

    いや、少し不安になった頃、

    ちゃんと現れる。

    会えば変わらない。

    優しい。

    気遣う。

    温度も変わらない。

    それなのに、

    連絡だけ少し減る。

    これ、何なのかしら。

    冷めた?

    違う?

    安心?

    慣れ?

    それとも——。

    でも、ある日ふと思ったんですの。

    ——待てよ、と。

    私、そんなに悪くない。

    いやむしろ。

    いけてる。

    ちゃんと生きてる。仕事してる。気遣いもできる。たまに疲れてスーパーのお惣菜に全力で感謝してるけれど、それも人間味。

    鏡を見て、

    「……私、美人よね?」

    と、小さく言ってみる。

    誰もいない洗面所。

    言うだけは自由ですもの。

    少し角度を変える。

    照明も気にする。

    顎を引く。

    ——あら。

    悪くない。

    むしろ今日、ちょっと良い。

    恋愛で心がザワつく日は、自分を下げがちですけれど、

    “向こうの返信速度=自分の価値”ではありませんの。

    私は私。

    三日連絡なくても、ちゃんと魅力はある。

    そう思った瞬間、少し楽になった。

    そして次の日。

    久しぶりに来たLINE。

    「元気?」

    ……なんだ。

    普通の回答かい。

    こちら、二日ほど主演女優ばりに失恋の準備しておりましたのに。

    しかも返信しながら鏡を見る。

    —あら私。

    ちょっと浮かれてる顔、してますわね。

     
     
    私のゴールド日記📔 日本の40代主婦から見た、ごく普通の日常。 Just an Ordinary Japanese Mom in Her 40s

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