
『もう終わった恋なのに、夜だけ戻ってくる』最終話
あなたへ
ねえ。
あなたは今、幸せですか。
こんなこと、聞く資格なんてないって分かってる。
もうとっくに終わった恋だし。
私はあなたの“今”を知らない。
でも時々、夜になると思ってしまう。
ちゃんと眠れてるかな、とか。
相変わらず寝癖ひどいのかな、とか。
まだカフェオレばっかり飲んでるのかな、とか。
そんなことばかり。
高校二年の春。
クラス替えの日。
あなたは私の隣の席だった。
たぶんあなたは覚えてない。
でも私は、全部覚えてる。
放課後のコンビニ。
文化祭の帰り道。
深夜のLINE。
あなたの通知だけで、生きてた頃の私。
好きって、もっと簡単なものだと思ってた。
付き合えたら幸せになれて。
両想いになれたら終わりじゃなく始まりで。
ずっと一緒にいられるものだと思ってた。
でも違った。
恋って、終わったあとも続くんだね。
むしろ終わったあとに、本当に始まる感情もあるんだって。
私はあなたを失ってから、初めて“好きだったんだ”って気づいた。
遅すぎたけど。
あの頃の私は、怖かった。
重いって思われるのが。
嫌われるのが。
離れていくのが。
だから最後まで、本当のことが言えなかった。
「好き」
たった五文字だったのに。
もし言えてたら、何か変わってたのかな。
今でもたまに考える。
でもたぶん。
たとえ結末が同じだったとしても。
私はちゃんと伝えればよかった。
好きだったよ。
本当に。
人生で一番。
苦しいくらい。
あなたがいなくなったあと、世界から音が消えた。
冷蔵庫の音だけが響く部屋。
真っ暗な天井。
何回も開いたLINE。
送れなかった言葉。
あの頃の私は、
本当に壊れそうだった。
でも今なら少し分かる。
私はあなたを失っただけじゃなかった。
“あなたを好きだった自分”ごと、
失うのが怖かったんだと思う。
あんなに誰かを好きになれたこと。
通知一つで笑えてしまったこと。
会えるだけで嬉しかったこと。
全部、人生で一番純粋だった。
だから忘れられなかった。
大人になった今でも、
夜だけはあの頃へ戻ってしまう。
深夜二時。
静かな部屋。
スマホの光。
私は今でも、たまにあなたを思い出す。
でももう、
前みたいに泣いたりはしない。
会いたくて壊れそうになる夜も、少なくなった。
ただ。
人生には、
忘れられない人がいるって知った。
もう会えなくても。
隣を歩けなくても。
声が聞けなくても。
心の奥で、
ずっと消えない人。
あなたは、たぶんその人です。
ねえ。
もしどこかで偶然会えたら。
その時は、
ちゃんと笑って話せるかな。
「久しぶり」
って。
あの頃みたいに。
そしてもし。
ほんの少しだけでも、
私を思い出してくれる瞬間があったなら。
それだけでいいです。
もう終わった恋なのに。
私は今でも、
夜だけあなたのところへ戻ってしまう。
でもきっと。
それでよかったんだと思う。
あなたを好きだった私を、
私はこれからも、
ずっと忘れない。
あなたにも、夜だけ思い出す人はいますか。