残された者
クラスメイトが死んだ。
事故死だったという。
全体集会で笑顔だった先生が、教室で突然泣き出し、彼の死について喋りだした情景は、今でも鮮明に思い出すことができる。
私と彼の関係性は、クラスメイト以上でもクラスメイト以下でも無かった。
ただ同じ教室でホームルームを行い、同じ授業を受けた。
だから亡くなったと聞いた時、特段悲しい気持ちになった訳ではなかった。
それまで触れた事がある死が、祖母が見せたものだけだったので、実感がなかったのかもしれない。
死は遠く、霞がかかったものだった。
周りが泣いていたので私も泣いた。もちろん悲しかったが、悲しくあろうとしていたのかもしれない。
彼とクラスメイト以上の関係だった人は沢山いた。そんな中で、自分ごときが泣いていいのか、悶々と考えていた。そんな考えが正しくないことも分かっていた。
・・・
彼が亡くなって数日が経った。
教室内では笑顔でいることが出来ない、独特な空気感があった。誰も彼について話さなかったけれど、彼の不在は皆が意識していた。
突然現れたカウンセラーは、確かこんな事を言っていた。
「この度は〜。皆は今、彼の死にピンと来ていないかもしれない。いずれ、突然それを理解し、重くのしかかってくるしれない。そんな時はすぐに相談して欲しい。」
何様だと、ムカついたのを今でも覚えている。
この人は彼について何も知らない。
この人は彼ではなく、残された我々だけを見ている。
残された我々は、彼の死をずっと見続けているのに。
・・・
彼が死んで1週間が経った。
教室を取り巻いていた、奇妙な圧力は気付けば霧散していた。
皆は以前のようにふざけて、以前のように笑った。
・・・
彼が死んで1年が経った。
この1年の間で、彼の不在を感じることはあまり無くなっていた。彼が居なくても、日常は当たり前に廻っていた。世界はたくましかった。
・・・
彼が死んで2年が経った。
私は高校を卒業した。第1志望の大学に合格したので、とても嬉しかった。
好きだった日本史は、最後まで私を支えてくれていた。彼も日本史が好きだった。
彼が生きていたら、どの大学を目指して、どんな結果になっていただろう。
彼には選択する機会すら訪れなかった。
・・・
彼が死んで5年が経った。
今でも時々、彼のことを思い出す。
記憶の中の彼は、あの時から歳をとっていない。
私はもう大学3年生になった。
高校時代の友達とは、あまり連絡を取っていない。彼が生きていたら、彼のことを思い出すことすら無かったのかもしれない。
彼との記憶は少しずつ亡くなっていく。
それでも時折、彼のことを思い出す。
