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〜Heart to Heart〜あの春の続きを生きる私たち〜

    消せなかったメールアドレスが、10年越しの奇跡を連れてきた。

    " Thank you for finding me"

    愛おしそうに、優しい瞳で私を見つめながら嚙みしめるようにあなたが伝えてくれた言葉。
    私こそだよ、誰よりも愛情深くて情熱的なあなたの腕に包まれて、誰よりも幸せを感じているんだよ。


    あなたとの出会いは、窓からあたたかな光が差し込む教室だった。
    私はきっとあの春をこれからもずっと、忘れないだろう。

    あれからどれほど季節が巡っただろう。
    それでも不思議なくらい、あの日の光景だけは色褪せない――。


    学生と講師。

    週に一度、教室で顔を合わせるだけの関係だった。

    それなのに私は、あなたと出会った日のことを今でも覚えている。

    「君はすごく恥ずかしがり屋だったね。
    でも本当はね、君は僕にとってずっと特別な教え子だったんだよ」
    と深夜の電話で教えてくれた。

    あの頃からお互いがなぜか、特別な存在だったんだね。

    もしあの日、私が予定通りに課題を提出していたら。
    もしあの時、彼が私用のメールアドレスではなく大学のメールアドレスを私に手渡していたら。
    今の二人は存在していなかったんだね。
    そう思うと、私は「奇跡」というものを信じたくなってしまうんだよ。

    私たちが最後に会ったのは大学の謝恩会だった。
    それから気付けば、人生の景色がすっかり変わるほどの時間が流れていた。

    それでも不思議なことに、私たちは一時期、同じ街の空の下で暮らしていたことがあったけれど、会うことはなかった。

    一度だけ、彼から誘いの連絡をもらったことがある。

    けれど私は返事ができなかった。

    会いたくなかったわけじゃない。

    ただ、怖かった。

    言葉が通じないことも。

    純粋で瑞々しい世界に生きていたあの頃の私とは変わっているかもしれないことも。

    きっと彼と私は違う世界を必死で生きていたし、
    お互いに全く違う人生を築いている真っただ中。

    そして、長い月日を重ねる中でいつの間にか消えてしまったお互いのライン。
    もう繋がることはないと思っていた。

    だけど。
    何度機種変更をしても、何度アドレス帳を整理しても、あのときに手渡されたアドレスだけは残り続けていた。

    消そうと思ったこともある。

    けれど、そのたびに指が止まった。

    どうしてなのか、自分でもわからなかった。

    時々あなたの名前を眺めては、

    「どうしているかな?元気かな?連絡してみようかな。でも、今さら連絡しても迷惑かな。
    そもそも、このアドレスがまだ使えるのかもわからないものね…」

    そんな、どこか切ない気持ちで送ることも消すこともできず、
    でも、ずっと大切に守ってきた彼のアドレス。

    そしてその日も、いつものように彼の名前を眺めていた。

    元気だろうか。

    幸せだろうか。

    もう私のことなんて忘れているだろうか。

    そんなことを考えながら、閉じるはずだった画面を、その日は閉じられなかった。

    後悔したくない。

    ただ、それだけだった。

    返事が来なくてもいい。

    届かなくてもいい。

    それでも私は、勇気を出して震える指で送信ボタンを押した。

    「先生、お元気でしょうか?覚えていますか?あなたの元教え子です」

    少し不安な気持ちと期待の混じった複雑な感情で返信が来るのを待った。

    そして—

    ”I do remember you!"

    あなたはすぐに返信をくれたね。
    そのメールを見た瞬間、すごく嬉しくて、温かい気持ちになったんだ。

    それからは毎日連絡を取り合い、時間を合わせて電話を重ねた。
    それはいつも決まって二人がゆっくり時間をとれる深夜で、数時間の会話は当たり前。
    気付けば夜が明けて朝日が昇り始めるまで続けていたこともあった。

    「あの頃の私たちの情熱はどうかしていたよね!」

    今では私たちの愛の武勇伝として笑い合える、そんな最高に幸せなルーティンで、気付けばそれが私たちにとって自然な”日常” になっていたね。

    彼は英語、私は日本語で話すという一見奇妙な二人かもしれない。

    でも、言葉の壁があることも忘れさせるくらい、お互いがお互いの「心の声」に耳を傾けながら、いつまでも止まらない言葉たち。

    あなたの言葉を、そしてその裏にあるあなたの本当の気持ちを理解したい…

    でも私は英語はほとんどわからない…もっと言いたいこともたくさんあるし、彼のことも知りたいのに…

    そんなもどかしさを抱えることもあるけれど、
    そんなときあなたはいつもこう言ってくれる。

    "Heart to heart, okay?"
    (大丈夫だよ、僕たちは心と心で通じ合えるよ、そうでしょ?)

    そして、まるで会っていなかった空白の時間を必死に埋めるように言葉を紡ぐんだ。

    深夜の静寂に包まれる、とても穏やかな時間。

    あの夜、あなたは何気なく私に尋ねた。

    「○○になろうと思ったことはないの?」

    私は言葉を失った。

    それは、子どもの頃の私が憧れていた職業だった。

    けれど、どうせ自分には無理だと諦めてしまった夢。

    誰にも話したことがなかった。

    もちろん、あなたにも。

    どうしてわかったのだろう。

    電話越しに聞こえるあなたの声を聞きながら、私はただ驚いていた。

    そして少しだけ泣きたくなった。

    私自身さえ忘れていた私を、あなたは見つけてくれた気がしたから。

    "I truly want to cherish and support you.
    And I'd be really happy if I could somehow be part of your world and your future."
    (君を心から大切にし、支えていきたい。そして君のその輝かしい未来の一部になれたら、僕はどんなに幸せだろう!)

    その言葉を聞いたとき、胸の奥がじんわりと温かくなった。

    私が諦めてしまった未来を、あなたは信じてくれていたのだと嬉しくなったから。

    また別の日には、
    あなたは、あなた自身がとてもセンシティブな人間なのだと話してくれた。

    けれど続けて、こう言った。

    "But I thought you were even more sensitive than I am. That's why I never wanted to hurt you."
    (
    でも君は僕よりもっと繊細だと思った。だから僕は絶対に、君を傷つけたくないんだ。)

    私は驚いた。

    自分でも持て余していた、それまで家族にも理解されなかった私自身のこと。

    なのに彼は、

    それを欠点としてではなく、

    守りたいものとして見てくれた。

    日付が変わった深夜

    ふと目が覚めて時間を確認するためにスマホを開いた瞬間、
    あなたからのメッセージを受信していた。

    偶然だったのかもしれない。

    たまたま目が覚めただけかもしれない。

    それでもあの瞬間は、あなたとの繋がりをはっきりと感じられたんだ。

    そしてあなたが不意に言った、

    "Perhaps we're soulmates."
    (ひょっとすると僕たちはソウルメイトなのかもしれないね)

    という言葉。
    私は思わず笑ってしまったんだ。

    だって、その言葉を聞いた瞬間、

    「やっぱり」

    と思わず笑ってしまった。私も、まったく同じことを考えていたから。


    そして10年以上ぶりに再会したあの日、

    あなたは日本語で私にこう言ってくれたね。

    「本当に大好き」

    その瞬間、自然と涙が溢れていた。

    自分でもなぜ涙が出るのかかわからなかった。人生で初めての経験だったから。

    嬉しかったからだろうか。

    懐かしかったからだろうか。

    それとも、ようやく再会できたからだろうか。

    でも今なら少しだけわかる気がする。

    私はずっと、その言葉を待っていたんだ。

    あなたのその飾らない純粋な「大好き」という言葉が、私の緊張も、鎧もすべてを取り払ってくれた気がした。

    「本当に大好き」その一言が、私の鎧を溶かした。

    あなたはあの頃の私だけではなく、
    「今の私自身」を、愛してくれていると確信できたから、安心したのかもしれない。

    そして私も「あなたのことが大好き」と心から思ったんだ。

    その夜あなたがくれたメッセージ。

    "It feels like we're simply continuing a story that began long, long ago."

    (まるでずっと昔からの続きをしているような、不思議な感覚だよ)

    そうだね。
    私たちはきっと、ずっと前から続きを生きていたんだ。


    ”Thank you for finding me”

    あの日あなたは私にそう言った。

    けれど、本当は見つけ出してもらったのは私の方だったのかもしれない。

    私自身さえ忘れていた夢も。

    持て余していた繊細さも。

    愛される価値なんてないと思っていた私に、
    "愛し合う"ということの尊さを教えてくれた人。

    あなたが日本語で伝えてくれた「本当に大好き」という言葉は、

    そんな私をそっと抱きしめてくれた。

    "Thank you for being the light I’ve been waiting for"
    (僕が待ち続けていた光になってくれてありがとう)

    あなたが紡ぎ出す言葉はいつも美しいね。
    その言葉たちに、私は何度救われてきただろう。


    朝露が紫陽花を輝かせる季節になった。

    今日もあなたは、私の大切な人として隣にいてくれる。

    あなたが隣にいてくれる奇跡を噛みしめながら、私は今日も、未来を信じて歩いていくよ。





    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

     
     

    Lily

     
     
    日常で感じる何気ないことや、時にじっくり考えこんでしまうこと… ジャンルを問わず、言葉つむぎ、形にしていけたら… 言葉の持つ力と繊細さは、時に武器になると信じて。 *私と出会ってくれた人がみんな、幸せな気持ちになってくれますように* そんな気持ちを言葉にできたら幸せです。

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