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ゴミ箱のゴミ箱

ゴミ箱のゴミ箱

作者 大野好克




カサッ。

ポトン。

ガサガサ……。


朝、家を出る前。

ゴミ箱の蓋を開ける。

昨日飲んだ缶コーヒー。

丸めたティッシュ。

レシート。

食べ終えたパンの袋。

もう使わないものばかりだ。


ポイ。


蓋が閉まる。

パタン。


何事もなかったように、ゴミ箱はそこにある。



夕方。

買い物から帰る。


ビリビリ。

ガサガサ。

パックを開ける。

ラップを剥がす。

値札を外す。


ポトン。

カサッ。


またゴミ箱に入る。


料理が始まる。


キャベツの外葉。

玉ねぎの皮。

魚の骨。

卵の殻。


トントントン……

ジュージュー……

コトコト……。


部屋には夕飯の匂いが広がる。

その隣で、生ゴミの匂いも少しだけ混じり始める。



夜。

歯を磨く。

空になった歯磨き粉。

ティッシュ。

綿棒。


ポイ、ポイ。


今日も一日分が、そこへ集まってくる。


ゴミ箱は、使わなくなったものを入れる場所。


でも、本当にそうだろうか。


ゴミ箱に入るものは、どれも役目を終えている。


必要だった。

使われた。

いらなくなった。


そして、もう持っていられなくなった。


だから、手放す。


ゴミ箱は、「手放したもの」を黙って受け止めている。


考えてみると、ゴミ箱は文句を言わない。


汚れても。

臭くなっても。

押し込まれても。

蓋を乱暴に閉められても。


何も言わない。


ただ、そこにある。



いっぱいになると、袋を縛る。

ギュッ。

持ち上げると、ズシッと重い。


昨日まで、軽かったはずなのに。

一つ一つは、大した重さではない。

でも、積み重なると、こんなにも重くなる。



世の中にも、ゴミ箱みたいな人がいる。


「聞いてよ。」

「ちょっと愚痴なんだけど。」

「誰にも言えなくて。」


その人は、何も遮らない。


うなずく。

笑う。

黙って聞く。


怒りも。

悲しみも。

不安も。

後悔も。


相手が抱えきれなくなったものを、

そっと受け取る。

話し終えた人は、少しだけ軽くなった足取りで、帰っていく。


でも、

受け止めた人は、

軽くなっているのだろうか。


ゴミ箱だって、いっぱいになれば、空にしなければならない。


袋を替える。


そのままでは、もう入らない。


誰かを受け止める人ほど、自分では、どこにも捨てられない。


私は、そんな人を見るたびに思う。


あの人にも、

ゴミ箱が必要だ。


誰かの愚痴を聞く人にも。

誰かを励ます人にも。

家族を支える人にも。

笑顔で「大丈夫」と言う人にも。


安心して重たい袋を下ろせる場所が。



カサッ。

ポトン。

ガサガサ……。


今日も、誰かが何かを手放している。


私は、誰かのゴミ箱になりたいのではない。



ゴミ箱の、ゴミ箱になりたい。





続く


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