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Photo bynaga_hiro783

アイスコーヒーのホット


    アイスコーヒーのホット  

    作者 大野好克  




    私は、同じ喫茶店に通い続けている。

    注文は決まっている。


    「アイスコーヒーのホットください」


    それ以外は言わない。



    最初の日。

    「アイスコーヒーのホットください」

    店員は固まった。


    「……アイスコーヒーのホットですか?」


    少し沈黙のあと、何か気づいたように彼は言った。


    「かしこまりました」


    出てきたのは、普通のアイスコーヒーだった。

    氷がカランと音を立てていた。

    私はそれを受け取った。


    それでいいと思った。



    二日目。

    別の店員だった。


    「アイスコーヒーのホットください」


    店員は笑わなかった。

    代わりに、少しだけ水の入ったグラスを見つめた。


    「かしこまりました」


    出てきたのはホットコーヒーだった。

    ただ、湯気がいつもより冷めていた。



    三日目。

    「アイスコーヒーのホットください」


    「またそれですか」


    店員は少しだけ呆れたように言った。


    「アイスコーヒーのホットください」


    「……わかりました」


    出てきたのはアイスコーヒーだった。

    だが氷は、すでに溶けていた。

    “冷たくなる途中”のような味だった。



    四日目。

    店員はメニューを見せてきた。

    「これ、どうですか?」

    私は答えた。


    「アイスコーヒーのホットください」


    店員はため息をつき、


    「うちは全部できますよ」


    と言った。

    出てきたのは、「アイスコーヒーのホット」と描かれたカップだった。

    中身は、コーヒーだった。



    五日目。

    店員は私の言葉を先に言った。


    「アイスコーヒーのホットですね」


    私はうなずいた。


    出てきたものは、昨日と同じカップだった。

    ただし、昨日より美味しく感じた。



    六日目。

    店員は何も聞かなかった。

    私が言う前に、カップが出てきた。


    「アイスコーヒーのホットください」


    私は何も言っていない。


    それでも、カップはそこにあった。


    飲んだ。


    味は、私の言葉そのものだった。



    七日目。

    メニューが変わっていた。

    そこには一行だけ書かれていた。


    「アイスコーヒーのホット」


    その横に小さく追記があった。


    「※注文不要」


    私はその日、何も言わなかった。

    けれど、席に座りしばらくすると、


    もう、何も描かれていないカップが出てきた。



    8日目。

    家で、アイスコーヒーのホットを飲んだ。



    9日目。

    他の喫茶店へ行った。


    「アイスコーヒーのホットください」


    私は、出てきたものを飲んだ。




    終わり

     
     
    三ヶ日みかん農家 数分で読める短編小説みたいなの、エッセイみたいなの、詩みたいなの。 ほぼ1000文字程度で表現してます。 読んだ後、世界の見え方が少し変われば、嬉しいです☺️ ちょっとした感想をコメントして頂けると、作品づくりのエネルギーになります。 よろしくお願いします🙇

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