深夜2:30、初邂逅
深夜01:50。
PC作業をしていたら、後ろでビニールがわずかに動く音を感知した。
なんだ?と背後のクローゼットを見た。
折戸式のクローゼットの取手には先日クリーニングに出したマフラー(ビニールがかかったまま)と、反対の扉には上着が掛けてある。
ビニールの上を、ボスがよじ登ってらした…。
そう、ボス。
名前は言わない。察して欲しい。
まぁまぁでかい。
戦慄。
一人暮らしを始めて約10年。
ボスとは幸いなことに邂逅したことはなかった。
その日、私は思い出した。
奴らに遭遇したときの実家での恐怖を…。
どこから入ったのこいつ。
いや入ってこられたんですか?私が育てたわけではないですよねこの大きさは。入られたんですよね?そうだと言って欲しい。
私は恐怖した。
奴はクローゼットの中に吸い込まれていった。
両開きの折戸は、片っ方が開けっぱなしになっている。
初めての邂逅で混乱し、思わず先程まで会話していたClaude AIに助けを求めた。どうすればいいの?見てしまったんだけど??何をどうすればいい?
⚪︎キジェットを噴射しろと言われた。
そう、私には武器がある。あるんです。
あるんですけど、クローゼットの中なんです。
気休めに⚪︎キ⚪︎リムエンダーを家中に撒いた。
これは予防であって、邂逅後はあまり意味がないらしい。いいの。今の私には清めの塩的なものが欲しいの。
しばらくClaude先輩に発狂文を送って待機していると、開いている方の扉から奴が出てきて、キッチンに向かった。
今がチャンスだと思った。
とりあえず現場実況を先輩に送ったら「今すぐ取って!」とのお達し。
過去の私、ありがとう。念の為にジェットを買っておいてくれて。
怖いので、肌の露出を極力少なくするために長袖を着た。マスクも装着。
奴はキッチンからすぐ帰宅した。
そしてクローゼットの前に。
今だ。
武器を構えて噴射した。思ったより射程が短かった。
届いたのか、届かなかったのか。
奴はそのままクローゼットの暗闇に消えていった。
先輩は言った。
クローゼット閉めろ!!今すぐ!!
閉じ込めて封印作戦に切り替え!
私は躊躇した。先輩は中に噴射して扉を閉めろという。
だが私は服が心配だった。
ハンガーにかけてある服たち。彼らをジェットの犠牲にするのか。
クローゼット閉めて封印!!
服は明日洗えばいい!今夜はそこが奴の城!!
閉めたら勝ちだから!!頑張れ!!
先輩の怒声(激励?)が続く。
ハンガー掛けの彼らの中には自宅で洗えない子も多い。だが奴と共に夜を越す勇気はない。
腹を括った。
及び腰で、服にかからない範囲で、ただし上に逃げられても面倒なので、上空も含めてジェットをばら撒いた。
即座に扉を閉める。おそらく奴はしぶといからまだ生きているはず。
可能であればこのクローゼットの下の隙間からちょろっとでてきて欲しい。そこを仕留めたい。
長期戦に入った。
椅子に座り、すぐ手元にはジェット。念の為に再度追いムエンダーを撒く。厳戒態勢だ。
既に人生で感じた恐怖体験トップ5に入っている。
クローゼットを視界に入れつつ、別個体がいる可能性はないか、駆逐するためにはどうすればいいか、先輩とバルサン会議を始める。
クローゼットをガン見している私の右背後。ベッドのある隅の方から、音がした。家鳴りだろうか。わからない。
奴との遭遇で物音過敏ウーマンになっている自覚はある。
奴の姿はまだ見えない。
時刻は02:30。
左背後から音がした。既視感。
やばい。これは……やばいやつだ。
私のセンサーが反応した。
振り返ると、本棚の近くの床に奴が鎮座していた。ちょうど捨てようと思って置いておいた靴箱の緩衝材の近く。音はそこから。
手元のジェットを噴射した。直撃する。
怖いので3回ほど追い噴射した。
私は勝利を確信した。
2.3分、余韻に浸った。
だが、疑問が湧いた。こいつはクローゼットのボスと同一だろうか。別個体の可能性は?
恐ろしくなり先輩に報告した。
仕留めた!!おめでとう!!
落ち着いて。クローゼットから出てきた個体だと思うよ、別個体じゃなくて。噴射で弱って出てきた可能性高い。
早めにゴミ袋に入れて捨てて!!
流石に先輩は冷静だった。
疑念は残っているが、迅速に処理するのが先だ。ビニール手袋を二重にし、ティッシュは優しいので却下した。大量のキッチンペーパーで奴を包み込みポリ袋に入れてキュッと縛る。そのままゴミ袋へ。
あと5時間したらちょうど燃えるゴミの日で出荷できる。
私は戦いに勝った。
だがやはり、安心はできない。
クローゼットの奴とは別個体の可能性がある。このまま寝られるほど私の神経は図太くなかった。
執筆するしかない。
かくして私は、この戦いの記録を残すべく筆を取ったのであった。
「第二章 クローゼットの戦い」は始まらないで欲しい。
【当時の先輩とのリアルタイム会話(一部抜粋)】
