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Photo bysoeji

【短線小説】そこは酷く春であった

    少しず぀剥がれ萜ちた営みが、私の居堎所を奪っおいた。

    郚屋に転がっおるあれもこれも、぀い䞉ヶ月皋前たでは私の暮らしにほんの少し圩りをくれたもの達だ。

    ただその豊かさを受け取るにはほんの少し、心に䜙分な隙間が必芁だったらしい。
    明確な理由こそわからないが、日々に忙殺され、自分で貌り付けた仮面の重さに擊り朰されるような感じがした。

    そんな自分に気が付いたのも぀いさっきのこずだ。

    い぀も通りに最寄りで降り、い぀も行くスヌパヌの暪を抜け、人通りの枛った现道。

    自宅のドアが芋えるかどうか、その少し前には、巊埌ろのポケットに定䜏させおる鍵を取り出しおおく。

    玄関で靎を脱ぎ、ワンルヌムに明かりを灯す。
    くたびれたスリッパが転がっおいお煩わしかったので、䞊を跚いで通った。


    煩わしいず思った。


    前たでだったら玄関で最初に私を出迎えおくれたのはこい぀だった。
    それが今は、間仕切り戞すら超えられず居宀に転がっおいた。

    い぀からか。
    呜に関わらない営みから少しず぀剥がれ萜ちおいた。
    剥がれ萜ちたそのかけらには、結局垰宅しおからただ䞀床も觊れられおいない。


    この䞀週間、この郚屋の物のうちいく぀に觊れただろうか。

    軜くほこりを被った空気枅浄機、食卓の端にたずめられたサプリメント、読みかけの小説。

    芁らないな。

    明日は䌑みだから、郚屋の片付けでもしようか。



    起きたのは昌過ぎ。ずいうのも随分過ぎただろうかずいう頃だった。

    ずはいえ元から、片付けをするぞず意気蟌んだ䌑日が順調に進むなんお期埅しおいなかった。
    そんなのよくあるこずだからだ。

    軜やかな萜胆ず、予定調和ぞの安堵。
    あるいは、片付けを先延ばしできた安堵だろうか。
    向き合わなければいけないず思い眠りに぀いた昚晩から、うっすら予感しおいた逃げ道を匕き圓おたず。

    それが本音なのかもしれない。

    ただやはり、芁らない物をゎロゎロ郚屋に眮いおおくのは性に合わなかった。
    䜓力ずいう維持費が払えないだけであっお、こんな暮らしを望んでいるわけではない。

    浅はかにも折衷案に萜ち着いた。

    手圓たり次第、クロヌれットの䞭ぞ。

    掃陀ずも片付けずも呌べないにしろ、今の自分にはそれが限床だった。

    するずどうだ。
    敎頓され掗緎された、雑味のない味。
    生掻の骚栌がむき出しになったような肌觊り。

    その色がそこにある意味など無い、䜿い蟌んだパレットのようだった郚屋は、氎墚画を思わせる圩床に萜ち着いた。

    快適だった。

    この郚屋の䜕も、自分を圧迫しない。

    この郚屋の空間党おが自分のためにあり、自分䞀人をすっぜりず受け入れるためにドアが開くのだ。

    ひんやりずした色味が、日々を生きるだけで熱を持った頭には心地良かった。



    日々ずの摩擊はさほど倉わらなかった。
    結局私ず他人の関わり合いはワンルヌムには到底収たりきらず、枋々アりェむな環境ぞ出向き、アりェむではないかのような顔をしお振る舞う。

    人付き合いが苊手ず蚀うほどでもないが、特段埗意ではない方だ。

    䞍和を生むような衝突が極力無いように、誰かの発蚀を吊定し過ぎず、螏み蟌み過ぎず、螏み蟌たせ過ぎず。

    倚分みんながしおいるこずだ。
    誰もが平等に苊悩しお、ずもすればその苊悩こそが矎埳だずも蚀われる。

    特段倉わったこずのない瀟䌚生掻を䞊手く受け流せないでいる。
    段々ず歪みが溜たっおいくように、嘘を吐く感芚だけが残る。

    この人ずいる時の自分、あの人ずいる時の自分。
    それを䜿い分けるのも無意識ではいられない。

    ずっず顔を䜿い分け続ける。

    たぁ、そういうものだろう。

    しかし自宅ぞ垰れば、けたたたしさも煩雑さも、すっず冷たしおくれた。
    それだけで少し、昌間の埮熱にも耐えられた。

    取り繕った仮面の䞭で蒞れたような䞍快さにも、この郚屋の空気は少し也きを䞎えおくれた。



    ここ最近手がかじかむ。
    埐々に厚着の人も増えおきたのが芋お取れる。

    冬は街が暗い。気分や日差しどうこうだけでは無い。
    どうしおああも冬物は黒ばかりなのだろうか。
    ダりンにコヌト、冬の亀差点で信号を埅぀集団は黒い塊に芋える。

    私は意味もなくコンビニぞ立ち寄った。
    意味がないかず蚀われるず実際、寒さに耐えかねお぀い぀い逃げ蟌んだずいうのが正しい。
    そろそろ秋服の重ね着では倪刀打ちできない。

    コンビニで英気を逊い、たた寒空を歩く芚悟をしお垰路ぞ。

    スヌパヌの暪を抜け、现道を歩く。

    巊埌ろのポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。

    郚屋も亀差点も倉わらない。せいぜい数色、あずはモノトヌンの景色。

    コンクリヌトず化孊繊維の䜎圩床の䞭では、むしろ空の青さに居堎所がなく、仕方なしに雲の癜の隙間に間借りしおいるような堎違いさを感じる。

    ただ郚屋から芋る空は少し違う。
    窓枠ずいう額瞁のおかげで、その青さは芳賞物ずしおの立堎を確立しおいる。

    空は私ずはそもそも別空間の物であり、ある意味ではフィクションを芳おいるのず倉わらない感芚。

    ある意味では、自分より遥かに倧きく蚈り知れないものに包たれる䞍安から逃れ、安党圏から芋るこずのできる特等垭のような。

    郚屋ずはやはりテリトリヌなのだなず思った。

    倖界を遮断したり郜合よく取り入れたり、倖から持ち蟌んだ過剰な色圩をリセットする滅菌宀。

    ただやはり無敵ではない。
    窓に近付き倖を芋おいたせいでなかなかに冷える。
    テリトリヌを䟵害された䞍機嫌から、いやそもそも䜓が冷えおいたのだったず思い出す。

    明日は冬物を着おいこう。
    私も黒塗りの䞀味ずなるのだ。

    倉に幌皚な劄想ず共にクロヌれットを開ける。


    ──えも蚀われぬ春を芋た。


    そこには䞀足先に冬眠を芚たされた、か぀おの色圩達が所狭しず溢れおいた。

    か぀お私を苛立たせた色の数々、そしおさらに前には確かに私の生掻を圩ったもの達。

    匕き戞のレヌルを境ずし、同じ䞖界ずは信じ難いコントラストが私の蚘憶を叩いた。

    䞀歩匕いおみれば、矚むほど生き生きずひしめく生呜力達は、䞀぀の額瞁の䞭から私に䜕かを蚎えかけおいた。


    どうしおもそれだけではいられなくお、䜜品に觊れる犁忌を犯しおみた。
    䞀぀手に取り、思い出す。あの時のお土産のキヌホルダヌだ。
    もう䞀぀手に取り、買うだけ買っお䜿っおいないなず、銙氎の蓋を開けおみる。

    その床に䜜品は壊れおいった。
    額瞁の䞭ぞ足を螏み入れ、あろうこずか顔料を剥ぎ取っおいく。

    私の手は枩かな絵の具に塗れた。


     
     
    玔文孊を曞きたす。 ふずした日垞に、心の動くきっかけが少しでも増えおくれたら嬉しいです。 普段は音楜をしおいたす。

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