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Radiohead『OK Computer』を着る。高速道路の白さに残る、1997年の不安

1997年にリリースされたRadioheadの『OK Computer』は、しばしば「テクノロジーが人間をのみ込む未来を予見したアルバム」と説明される。
たしかに、コンピューターの声のような「Fitter Happier」や、車の事故から生還する場面を歌う「Airbag」、不穏な通信の断片のような音が、アルバム全体に漂っている。
でも、トム・ヨークは当時の不安について、テクノロジーそのものよりも「人が人とどう関わるか」に強く結びついていたと語っている。テクノロジーの言葉を使って、人間関係にまつわる感覚を表現していたのだという。
だから『OK Computer』は、未来の機械を描いた作品というより、便利さや速度のなかで、人間の感情が置き去りにされていく感覚を記録したアルバムなのだと思う。
白いジャケットにある、消しきれない跡
『OK Computer』のジャケットを手がけたのは、トム・ヨークとスタンリー・ドンウッド。
二人はスケッチブックの絵や見つけてきた画像を、当時のMacでコラージュしていった。制作中は「取り消し」機能を使わないというルールも決めていた。間違いは消しきらず、上から覆う。そうして画面に重なっていく跡が、アルバムの音と同じような落ち着かなさを生んでいる。
ドンウッドは、この作品を作っていた頃、核戦争後の風景や、視界の端に人影を見たような不穏さを考えていたと振り返っている。
ジャケットは、派手な未来都市を描いてはいない。むしろ白く、ぼやけていて、何が写っているのかすぐにはつかめない。高速道路のような線や、断片的な文字が、どこかの記録から切り取られたまま並んでいる。
見慣れた場所なのに、少しだけ自分の居場所ではない。『OK Computer』の音には、そんな風景がよく似合う。
曲が進むほど、居場所がなくなる
冒頭の「Airbag」は、事故のあとに生き残った人の視点から始まる。ギターはロックらしく鳴っているのに、リズムは機械のように細かく切り刻まれ、再生された記憶のように揺れる。
「Paranoid Android」では、曲そのものがいくつもの場面に分かれていく。穏やかな声から怒りへ、静けさからギターの轟音へ。ひとつの人格や感情に落ち着けないまま、世界のなかを移動していくようだ。
そして「Fitter Happier」。コンピューターの読み上げのような声が、健康で、効率的で、感じよく、社会に適応した人間の条件を並べていく。正しい生活のチェックリストを聞いているはずなのに、そこには人の体温がない。
「No Surprises」は、きらきらした音の上で、もう驚きたくない、これ以上の警報はいらないという気分を歌う。メロディーはやさしい。だからこそ、その静けさが少し怖い。
アルバムのなかで、孤独は大げさな叫びとしてだけ現れるわけではない。毎日の移動や仕事、誰かに合わせる会話のなかに、薄く広がっている。
『OK Computer』を着るなら
このアルバムを服に置き換えるなら、未来的なロゴや強い色を使ったスタイリングより、白、グレー、黒のあいだにある曖昧な色を選びたい。
少し大きめのジャケット。洗いざらしのシャツ。形はきちんとしているのに、どこか疲れて見える服。新しい服なのに、長いあいだ着ていたような気配があるもの。
『OK Computer』のジャケットと同じで、ひと目で意味が分かる服ではない。近づいて、見直して、ようやく小さな違和感に気づく。
それは、トム・ヨークがUndercoverやMargielaを着ることとも、僕のなかではつながっている。服の表面を飾るより、形や質感に残る引っかかりを選ぶ。すぐに説明できないものを、そのまま身につける。
もちろん、これは僕自身の読み方だ。けれど『OK Computer』を聴いていると、音だけでなく、ジャケットの白さや、印刷物のざらつきまで含めて、ひとつの世界に触れている気がする。
未来の予言ではなく、いまの手触り
インターネットも、スマートフォンも、いまでは生活の背景になった。だから『OK Computer』を「未来を当てたアルバム」と呼ぶだけでは、少し足りない。
この作品が残しているのは、技術が進むことへの単純な恐怖ではない。便利な仕組みのなかにいても、誰かとつながっている実感が持てないこと。ちゃんとやっているのに、自分がどこへ向かっているのか分からなくなること。
そういう感覚は、1997年から消えていない。
『OK Computer』は、未来の景色を先取りしたというより、私たちがそこへ向かう途中ですでに感じていた息苦しさを、音と絵に残したアルバムなのだと思う。
白くぼやけたジャケットを見ながら聴くと、曲が終わったあとも、あの風景のなかに立っているような気がする。

この記事で聴いた作品

参考資料

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