
救命艇・救助艇のWeekly / Monthly点検|新人航海士が最初に覚えたい確認ポイント
三等航海士になって、初めて救命艇(Lifeboat)や救助艇(Rescue Boat)のWeekly / Monthly Checkを任された。
Checklistはある。
でも、
「どこまで見れば点検したことになる?」
「Engineを掛ければWeeklyは終わり?」
「MonthlyはWeeklyと何が違う?」
最初は意外と分かりにくい仕事です。
一等航海士として新人に一番伝えたいのは、
Checklistに✓を付けることが点検ではない
ということです。
大事なのは、
「今この瞬間に使えと言われたら、本当に使える状態か?」
という目線で見ること。
この記事では、救命艇・救助艇のWeekly / Monthly点検を、新人航海士向けに整理します。
1.WeeklyとMonthlyの違い
まず覚え方はシンプルです。
Weekly=すぐ使える状態か確認する
Monthly=装備を含め、Complete and Good Orderか詳しく確認する
SOLAS Chapter III Regulation 20.6では、毎週、Survival Craft、Rescue Boat、Launching Applianceを目視し、使用可能な状態であることを確認するよう求めています。
Lifeboat / Rescue BoatのEngineについても、条件を満たす場合は合計3分以上運転し、Gear Box等が正常にEngageすることを確認します。
一方Monthlyは、SOLAS III/20.7に基づき、Regulation 36.1のOn-board Maintenance Checklistを使用して、Life-saving AppliancesとLifeboat EquipmentがComplete and in Good Orderであることを確認します。
ここを最初に分けて考えると理解しやすいです。
2.Weekly Checkで何を見るか
まず艇を遠くから眺めて終わらないこと。
艇まで行って、
「Emergencyになったとき、この状態からLaunchingできるか」
という順番で見ます。
一般的には、
Boat本体に明らかな損傷がないか
Stowage状態に異常がないか
周囲にLaunchingを妨げる物がないか
Davit / Launching Applianceに明らかな異常がないか
Falls、Hooks、Attachmentの状態
On-load Release Gearが正しくResetされているか
などを確認します。
SOLAS III/20.6.1でも、Weekly Visual InspectionにはHook、そのLifeboatへのAttachment、On-load Release Gearが正しく完全にResetされていることの確認が含まれています。
ここで注意。
Release Gearを勝手に分解・調整しないこと。
救命艇のRelease Gearは事故につながる重要設備です。InspectionやMaintenanceはMakerのMaintenance Manual等に従う必要があり、Weekly / MonthlyのRoutine MaintenanceはSenior Officerの指揮下で実施する枠組みになっています。
分からないMechanismを触って確認するくらいなら、一等航海士へ確認してください。
3.Engine Testは「掛かった」で終わらせない
新人のWeekly Checkでありがちなのが、
Engine Start → 掛かった → OK
です。
ここでもう一歩見ます。
SOLAS III/20.6.2では、Lifeboat / Rescue Boat Engineを条件に応じて合計3分以上運転し、その間にGear Box / Gear Trainが正常にEngageすることを確認するよう求めています。
実際の点検では、本船のMaker ManualとChecklistに従いながら、
Startは正常か
回転は安定しているか
異音・異常振動はないか
Fuel / Oil / Cooling Water等のLeakはないか
Indicator / Alarmに異常がないか
Ahead / Astern操作が正常か
などを見ます。
ただし、艇の種類やPropulsion Systemによって運転方法は異なります。
特にOutboard Motorでは、Propellerを水中に入れずに長時間運転できない機種があります。
SOLAS上も、そのようなRescue BoatのOutboard Motorについては適切なWater Supplyを使用するケースが考慮されています。
「前の船ではこうやった」ではなく、本船のManualを見る。
これが基本です。
4.Monthly Checkでは何が増える?
Monthlyでは、Weeklyより広く見ます。
SOLAS III/20.7.2では、Regulation 36.1で要求されるChecklistを使ってLife-saving Appliancesを点検します。
つまりMonthlyの具体的な項目は、
本船のOn-board Maintenance Instruction / SMS / Maker Manual
を基準にしてください。
一般的には、
Boat Equipmentが規定数量揃っているか
Equipmentに損傷・劣化がないか
有効期限のある物品
Engine / Propulsion関連
Battery / Electrical Equipment
Searchlight等の装備
Launching Arrangement
Release Gear
Davit / Winch / Falls
などを、本船Checklistに沿って一つずつ確認します。
また、Free-fall Lifeboatを除くLifeboatについては、SOLAS III/20.7.1により、天候・海象が許す場合、Monthlyで無人のままStowed PositionからTurn Outする要求があります。
WeeklyにもCargo Shipの非Free-fall Lifeboatを無人でStowed Positionから必要な範囲だけ動かす要求があります。
つまり、
Weeklyの「Move」とMonthlyの「Turn Out」を混同しない
ことも新人のうちに覚えておきたいポイントです。
5.一等航海士が新人の点検で見るところ
私なら、「Checklist全部✓です」と言われるより、
「Starboard Lifeboat、Engine Run正常です。
Hook / Release Gear異常なし。
ただ、Fallのこの部分が少し気になったので見てもらえますか」
と言われる方が安心します。
全部自分で判断できる必要はありません。
むしろ新人のうちは、
正常と断定できないものを、そのまま流さないこと
の方が大事です。
特に、
前回と状態が違う
Corrosionが増えている
Wireに気になる箇所がある
EngineのStartが悪い
Leakがある
Release Indicatorがいつもと違う
Equipmentが不足している
Expiryが近い
こうしたものがあれば報告してください。
「これくらいなら大丈夫だろう」
と自分だけで終わらせない。
それだけで、点検の信頼度はかなり変わります。
6.異常を見つけたら、その場で✓を付けて終わらせない
Defectを見つけたら、
状態を確認
一等航海士へ報告
必要なら写真を残す
SMS / PMS等に従ってDefectを記録
Corrective Actionを決める
修理後に再確認
までつなげます。
特にRelease GearなどSafety Criticalな部分は、Crewが勝手にAdjustment / Repairするものではありません。
現在SOLAS III/20で参照されるMSC.402(96)では、Annual Thorough Examinationや5-yearly Overhaul等について、認定されたService Provider / Certified Personnelによる実施が求められています。
Weekly / Monthly Checkと、Annual / 5-year Serviceは別物です。
ここも混同しないようにしてください。
7.記録まで終わって点検完了
救命艇を見た。
Engineも回した。
異常なし。
そこで終わりではありません。
SOLAS III/20.6、20.7ではWeekly / Monthly InspectionのReportをLog-bookへ記録することが求められています。
本船ではこれに加えて、
Weekly / Monthly Checklist
PMS
Maintenance Record
Defect List
など、Company SMSで指定された記録がある場合があります。
日本籍船についても、船員法施行規則第三条の九で救命設備のMonthly点検、救命艇等・救助艇・進水装置のWeekly点検等が規定されています。
点検をしたら、
「現物確認 → 異常対応 → 記録」
まで一連の仕事として覚えてください。
まとめ|救命艇点検は「Emergencyで本当に使えるか」を見る
新人の頃はChecklistを見るだけで精一杯だと思います。
最初はそれで構いません。
でも少しずつ、
「このHookはこういう状態が正常」
「このEngineは普段この音」
「このEquipmentはここにある」
と正常状態を覚えてください。
そうすると点検は、
✓を付ける作業から、異常を見つける仕事
に変わります。
一等航海士として新人航海士に求めるのは、
何でも知っていることではありません。
実際に現物を見る。
前回との違いに気付く。
分からないものを勝手にOKにしない。
異常を見つけたら報告する。
まずはこれで十分です。
救命艇・救助艇は、普段ほとんど使わない設備です。
だからこそ、
使わない期間に、使える状態を維持する。
それがWeekly / Monthly Checkの意味です。