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きみの闇きみの絶望 手をみせて きみのものならきみを呑まない

あなたが月であることは、疑いようのない事実だった。

付き合っていた頃の私は、いま振り返ると信じがたいほどに脆かった。
誰かと親しくなることにも、誰かに嫌われることにも、同じだけ怯えていた。人が一歩踏み込んでくるたびに、逃げ場をさがして身体中が強ばり、心臓はやけに大きな音を立てた。

あんなに人を好きだったのに、どうして……と誰かが言っているのを聞いた。
あまりに傷付きすぎて疲れてしまっていたのか、関係というものは、始まった瞬間から終わりへ向かうのだと、どこかで決めつけていたのかもしれない。

当時の私は、終わりの見えない夜に取り残されていた。
自分の現在地も、何を好み、何を嫌うのかも曖昧になり、ただ暗がりの中で手探りを続けるような日々だった。
長いあいだ日向にいたせいで、夜を越す術を知らなかった。だから、自然には訪れない朝というものに、ひどく戸惑っていたのだ。

そんなとき、あなたは現れた。

あなたは静かに、けれど確かに私の夜道を照らした。
眩しすぎず、けれど頼りないほど弱くもない。
その光に導かれるようにして、私は少しずつ歩き方を思い出していった。

あなたは多くを語らなかったし、私を変えようともしなかった。ただそこにいて、淡く光り続けていた。
私が立ち止まれば同じように立ち止まり、私が進めば、体温を忘れない距離でそっと照らし続けてくれた。

いつしか私は、夜の中でも呼吸ができるようになっていた。
夜だって私たちの生きる場所なのに、陽だまりでしか呼吸してはいけないのだと思い込んでいた。
夜はもう、「終わりの見えないもの」ではなくなっていた。

そしてあるとき、私はついに思い出した。
自分が、本当は太陽であったことを。

それは劇的な瞬間ではなく、むしろ拍子抜けするほど静かな気づきだった。
自分の内側にどれだけ眩い光があったのか、ふと理解したのだ。
あなたの光を受け取り続けるうちに、忘れていたものが、ゆっくりと輪郭を取り戻していったのだと思う。

そうして初めて、少しだけ残酷なことにも気づいた。

あなたは、自ら光を放っていたわけではなかったのかもしれない、ということに。

あなたの優しい光は、私がかつて持っていた光を受け取り、静かに蓄え、必要な分だけ返してくれていたものだったのではないか、と。
不思議と失望はなかった。
ただ、深い納得と、どうしようもない切なさが胸に広がった。

もし私が完全に太陽としての自分を取り戻してしまえば、もうあなたの光は必要なくなる。むしろ、強すぎる私の光は、あなたの輪郭を曖昧にしてしまうかもしれない。
共に在るには、私たちは性質が違いすぎた。

けれど、ここに確かに記そう。
あなたと過ごした夜が、偽物だったはずがない。

あなたは確かにそこにいて、私のために光を保ち続けてくれた。私が差し出した光を、壊さないように、大事に抱えていてくれた。
そして、私が必要とするたびに、それをそっと返してくれていたのだ。

今、私は自分の足で歩いている。
夜が来ても、もう過度に怯えることはない。朝が来ることを、焦って待つこともない。
ただ、時間が流れていくのを受け入れながら、自分の光で周囲を照らすことができている。

けれど、夜空を見上げるたびに思う。
あなたが月であったことは、やはり疑いようのない事実だった。

なんて美しい反射なのだろう。
あなたのくれた言葉たちが、浮かんでは消える。
夜をお願いね。
またいつか、夜と昼の狭間で会おうね。

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