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E1:午前5時の「お揚げさん」

    おかぐちや源太

    祖父母の家は豆腐屋だった。
    2人とも彼岸に旅立ってしまったので、当然店はもうない。

    豆腐屋の朝はとても早い。
    近くにあった「国鉄」の踏切でさえ、まだ眠っている、
    そんな時刻に祖父母はお店を開けた。


    小学生の頃、泊まりに行くと、僕は決まって5時ごろ目を覚ました。
    普段はそんなに早起きではないのに、
    祖父母の家に行くと自然と目が覚めてしまう。


    朝5時……僕にとってはとんでもなく早起きだが、
    祖父母の仕事はとっくに始まっている。

    僕は飛び起きると、階段を駆け下り、
    豆腐を作っている祖父ではなく、
    「お揚げさん」を揚げている祖母の傍に立った。
    これでは祖父に可愛がられないわけだ。今思えば申し訳ないことをした。
    とにかく、僕は、ばあちゃん子だった。

    水分を抜いた豆腐が次々に油の中で踊り、キツネ色に染められて、
    「お揚げさん」になってゆく。
    僕はその様子を、飽きることなくただ眺め続けた…。
    「あんた、どっかお散歩でも行っておいでよ。こんなんずっと眺めても面白ないやろ」
    祖母は笑う。でも僕は動かない。

    朝の張り詰めた空気と、立ち上る香ばしい香り。
    僕の中にずっとある「香りの記憶」
    思い出すとほんのりあたたかい。

    「ほれ、ばあちゃんの手、見てみい。油が飛んで火傷だらけやで。あんた、こんな仕事がええのん?」
    豪快な、あの笑い声が今も僕の頭の中に響いている。

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