水羊羹は、ひとり暮らしに向いていない
「あんこちゃんにも誰かいい人がいるといいんだけれどねぇ。ひとりでごはんとか、さみしいでしょ?」
とんでもない。
誰かとの食事もたのしいが、わたしにとって、ひとりのごはんも、しあわせなことだ。食べたいものを、食べたいときに、自分のペースで食べる。食いしん坊にとっては、ありがたいことだ。
そんなわたしでも、食べ物を前に、ひとりであることを感じることがある。
水羊羹だ。
先日、日光にひさしぶりに行った。お目当ては自然散策だが、予定が決まったときから、鬼平の水羊羹を買って帰ることを楽しみにしていた。
何を隠そう、わたしは鬼平の水羊羹が大好物だ。固すぎずやわらかすぎず、口の中に入れるととろけて、みずみずしく、サッと消える甘さがたまらない。
それほど愛しているのに、いざ買おうとして躊躇してしまった。水羊羹の賞味期限は5日程度、いちばん小さくて5切れ入り。それも小分けにされていないので、人に分けることも難しい。
5切れくらい、ひとりで食べられるじゃないか。そういうことじゃない。おいしいものは、ちょっと物足りないくらいでやめておきたい。そうすると、1日1切れが限界だ。
賞味期限が5日なら1日1切れでいいじゃないか。違うんだ。水羊羹も鮮度が命。みずみずしさがひと味違ってくる、気がする。
ひとり暮らしが長いわたしは、たいていの食べきれないものは冷凍することで解決してきた。買いすぎてしまったパンや、特売の豚コマ、まいたけやシメジ。大福、今川焼きだって冷凍できる。
でも、水羊羹、お前はダメだ。
冷凍には向いていない。調べていないから、実はできるかもしれないけれど、なんとなくわたしは許さん。水羊羹としての大事な何かが失われてしまう気がする。
おいしいうちに食べきれないなら、いっそ買わなくても…。一瞬迷ったが、結局5切れ入りを買って帰った。
その日の夜、冷やした水羊羹を早速いただく。これだよ、これ、たまらないなぁと、味わいながら、思う
「あと4つ、どうしよう…」
おいしいものを、おいしいうちに食べきれない。
誰かに分けたいのに、分けたい人がすぐ隣にいない。
食べても、ひとり。
結局、残り2つは自分で食べて、残り2つは仕事場の人に聞いてみた。
「箱を開けてしまっていて申し訳ないのですが、よかったら食べますか? 私の大好物なんですけどね、たぶんお好きだと思うんですよね…。ただ賞味期限が短くて…」
だいぶ言い訳がましく、食べてもらった。
ひとりであることが問題なのか。はたまた、わたしの食い意地がはっていることが問題なのか。とりあえず、鬼平の水羊羹がおいしいうちに、誰かのお腹に収まってホッとした。
