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ポロン。

    これは母から聞かされた、私の「ちょっとだけ誇れる」お話──。

    ♪

    それは幼稚園の授業参観に起こった出来事だった。
    先生から課せられたミッションは──「牛乳パックと輪ゴムを使って、楽器を作れ」。
    さあ、この難問にどれだけの勇者(と書いて園児と読む)が挑むのかっ!


    授業なので、みんなやります。はい。
    お手本は先生の手に収まっている。
    牛乳パックを箱状に切って、切れ込みを入れ、輪ゴムをひっかける。
    それだけ。
    それだけでも園児は興奮するもので「すごーい!」とキャッキャする。


    しかし、その中で難しく考えている園児、一名。


    それが、現在「オガワヒカリ」と名乗っている私──「ヒカリちゃん(仮名)」だった。 牛乳パックを切るのではなく、くっつけたりゴムを伸ばしたり格闘していた。

    それに気づいたのが、幼なじみのお母さん。


    「ヒカリちゃん、何を作ってるの?」


    私はクールに答えた。


    「ギター(真顔)」


    その言葉を聞いた幼なじみのお母さんは、オガワ母にこう言ったらしい。


    「ヒカリちゃんの才能はすごいから、伸ばしてあげてね」


    その時、母がどんな顔をしていたのかは分からない。 そして私はギターを完成させるべく、そんな会話には気づかず集中していた。


    みんなが楽器を完成させていくなか、私は後れを取りながらもなんとかギターを創り上げた。


    ポロン。


    音が鳴る。


    ポロン。


    楽しい。


    「ママー、ギターできたよー!!」


    ♪

    うちの親は叩くではなく「殴る」系の親で、「親が絶対で子供は従え」というスタンスの教育方法をとっていた。
    しかし、習い事に関しては子供の「やりたい」に応えてくれていたと思う。


    親は私にバイオリンをやらせたかったらしい。
    しかし、暮らしている町が田舎すぎてバイオリン教室がなかった。


    ──でもねママ。
    わたしはね、あのギターをほめてくれるだけでよかったんだよ。


    ほめてもらうこと、それが私には欠落していた。
    思い出せる限りの記憶をたどっても、一度だけ「歩」という漢字練習を父に褒められただけ。

    しかし、それだけでは生きていけない。

    ほめてほしいだけだった。
    絵を描いて掲示されることも、脚本が県の代表作品になったときも、やっぱり一番は「親にほめてもらいたかった」。


    そして私は夢見た。

    アイドル。
    漫画家。
    舞台女優。
    作詞家。


    どれも志半ばでだめだった。手が届きそうだったのに、だめだった。


    ポロン。


    あのときのギターの音が聞こえる。伸びきった輪ゴムのたるんだ音。


    そしてようやく見つけた、私が表現したい場所。 ああ、やっぱりコトバだったんだ、と。
    私は小説を書くようになった。



    ポロン。


    下手なりに音を鳴らし続けた。 時折ギターを放り投げて、布団に包まる日もあった。


    ポロン。


    同じフレーズしか弾けなくて、ギターを壊そうと思ったことがある。


    ポロン……。


    いつからだろう、私が「あの時作ったギター」そのものであると気づいたのは。


    手にはなにも持ってはいない。
    でも音は聞こえる。何から聞こえてくるのだろう。


    私だ。
    私が紡ぐコトバから音が鳴っているのだ。


    ポロロン。


    少しずつ綺麗な音になっていく。


    ポロロロン。


    ああ、奏でたかったのはこの音だ。



    あの時の私を、今の私が抱きしめてあげたい。
    上手に作れなくてもいい。遅れてもいい。
    「ギター、できたよ」って笑ったあの子を。
    よくやったねって、何度でも、何度でも。


    今も私は、コトバの弦を張っている。


    ポロン。


    今日も、小さな音が鳴った。



    「今度はなにつくろっか?」

     
     
     
    小説執筆時:緒川、それ以外のエッセイなど:オガワ|創作大賞2024・2025中間選考通過のフッ軽系モノガタリスト|夫こと菩薩はがんサバイバー(白血病)|全裸文学・豚汁文学創設者|書くことは魂をさらけ出すこと|かわいいものがすき

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