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【第47話】それでも、店を開け続けた

    S氏から渡された紙を読んだあと、
    僕はしばらく動けなかった。

    そこには、スタッフの本音が書かれていた。

    何を考えているか分からない。

    自己中。

    自信過剰。

    社長についていくのが不安。

    読めば読むほど、胸が重くなった。

    直接言われたわけではない。

    でも、紙に書かれた言葉は逃げ場がなかった。

    普段一緒に働いているスタッフが、
    僕のいない場所でそう感じていた。

    その事実がきつかった。

    でも、翌日も店は開けなければいけなかった。

    朝になれば、スタッフは出勤してくる。

    予約があれば、お客様も来る。

    電話も鳴る。

    鏡の前に立てば、美容師として笑わなければいけない。

    僕の気持ちがどれだけ沈んでいても、
    店は止まらなかった。

    朝、ルーチェの鍵を開けた。

    いつもと同じ店内だった。

    椅子もある。

    鏡もある。

    セット面もある。

    でも、空気だけが違って感じた。

    スタッフの目が怖かった。

    何を思われているのか。

    何を言われているのか。

    また陰で何か言われるのではないか。

    そんなことばかり考えていた。

    社長なのに、堂々としていられなかった。

    でも、逃げるわけにはいかなかった。

    お客様には関係ない。

    スタッフにも生活がある。

    店には支払いがある。

    どれだけ信用を失っても、
    店を閉めるわけにはいかなかった。

    僕は、何事もなかったように営業に入った。

    シャンプー台の音。

    ドライヤーの音。

    お客様との会話。

    いつもの店の音がしていた。

    でも僕の中だけは、まったくいつも通りではなかった。

    スタッフの本音を知ったまま、
    同じ店に立つ。

    これは想像以上に苦しかった。

    でも、この時に少しだけ分かった。

    信用は、言葉で戻るものではない。

    反省しています。

    これから変わります。

    そう言うだけでは戻らない。

    毎日どう働くか。

    何を判断するか。

    どんな態度で向き合うか。

    それを積み重ねるしかない。

    S氏からもらった匿名の紙は、
    僕にとってかなりきつい現実だった。

    でも、見ないふりはできなかった。

    あの日から僕は、
    スタッフにどう見られているかを怖がりながらも、
    それでも店を開け続けた。

    失った信用を、
    もう一度積み直すために。

     
     
    【200話完結!毎日更新】 華やかに見える今と、きれいではない原点。 挫折、失敗、弱さも含め、自分の人生を自分の言葉で書き残します。 誰かの救いに少しでもなれば嬉しいです。 愛知県岡崎市を中心に美容室・白髪染め専門店・飲食店等を経営。 白髪染専門店ツヤイロFC本部。

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