
コンビニ店員がお客様の食卓の献立を狂わせたら、どんな罰を受けるのだろう
私は高校生時代、コンビニでアルバイトをしていた。
ベッドタウンのような街で、客層は幅広かった。
高校生のアルバイトがコンビニで任される仕事内容は簡単なものが多く、ほぼレジ打ちと袋詰め。
ゆうパックはややこしくて嫌だったが、ほとんど依頼してくるお客様はいなかった。
私は小さい時からレジの操作に憧れを抱いており、保育園の七夕で短冊に書いたお願い事は“レジの人になれますように”だった。
(高校生で小さい時からの夢を叶えてしまったので、今やりたいことが見つからなくて困っている。)
そんな、夢だった“レジの人”になれた時、私はノリノリで商品をピッピとスキャンして、袋詰めをこなし、1番やりたかった“小銭を文鎮がわりにしてレシートを置く”を繰り返し、大満足の日々だった。
高校の友人とシフトを組むのがほとんどだったので、嫌な客がいればその場で愚痴として消化していた。
レジ打ちも楽しかったが、袋詰めも楽しかった。
袋詰めをしながら(この人は帰ったらこのお菓子食べるんだ)(カツ丼にコーヒー牛乳!?合うの…?)とか考えたりするのが好きだった。
ある日、仕事終わりの主婦っぽい人が商品を詰めたカゴを持ってきた。
同じシフトの友人がレジを打ち、私が袋に詰める。
牛乳、麻婆豆腐の素、ネギ、豆腐…。
豆腐はポリ袋に入れてから袋に詰める…!
この人の今日の晩ごはんは麻婆豆腐に違いない。
「お待たせしました〜」
お客様に袋を渡して見送る。
そして次のお客様の対応にうつる。
混雑の波が終わり一息ついた頃、私と友人はレジカウンターで雑談をしていた。
その時、プルルル…と電話が鳴った。
電話対応は、私も友人も好きではなかった。
アルバイトには分からない質問をされたり、変質者からの電話だったり、あまり碌なことが無い。
「はい!」と電話の子機を取ったのは私だった。
私の方が電話に違い位置にいた為、泣く泣くそうするしかなかった。
電話口の声は30代ほどの女性だった。
「あの…」と困ったような口調で、女性は続けた。
「先ほどお豆腐を買ったんですけど、入ってなくて…」
(絶対麻婆豆腐の人じゃん。)
私は膝の力が抜けるのがわかった。
確認したくない。袋詰めをしたレジ周りなんて見たくない。
何も知らない友人は、単なるクレームだと思いニヤニヤしながらこちらを見ている。
私は現実と子機を握りしめて、レジ周りをウロウロしながら豆腐を探す。
絶対に豆腐をレジ袋に詰めたという自信がない。
ポリ袋に入れて満足した後の記憶がない。
子機の置かれている場所から少し離れた方のレジが、私が袋詰めをした場所。
ニヤつく友人とレジカウンターの間を通り、辺りを見る。
あった。
ポリ袋に入った豆腐が、レジカウンターの隅に鎮座している。
そんな隅にいないで出てこいよ!
麻婆豆腐の素と手繋いでレジ袋に飛び込んでこいよ!!
そんなことを思いながら、電話越しのお客様に
「お豆腐、ありました…。」
とだけ言った。
電話対応マニュアルを読んでも、実践がなきゃ応用できない。謝罪をすることも忘れ、豆腐の有無だけを伝えていた。
女性は、困り果てた様な声で
「はぁ。わかりました…。お豆腐は明日取りに行きます。今日は麻婆豆腐だったんですけど、食べるのやめます…。」
と言った。
私が「お豆腐、ありました…」と言った時点で事態を察知した友人は、笑いを堪えて震えている。
「大変申し訳ございませんでした。」
私はそこで初めて謝罪した。
少し冷静になり、何時ごろに取りに来るか、お名前の確認をし、私は静かに受話器ボタンを押した。
その瞬間、友人は「ぷっ」と吹き出したあと豪快に笑った。
同じシフトが友人でよかった。先輩や後輩だったら恥ずかしすぎて蒸発している。
友人は笑ってくれるから、私も笑い話にできる。
私は「めっちゃ最悪〜!もうやだ〜!」と笑いながら言ったが、最悪なのはどっちだ。
あの女性から晩ごはんを奪った私ではないのか。
私が友人と笑っている間も、あの女性は麻婆豆腐の予定が狂い、何か他の料理を作らなくてはと奮闘しているはずだ。
もし、あの女性のお子さんの大好物が麻婆豆腐で、「誕生日は麻婆豆腐が食べたい。」という理由で麻婆豆腐を振る舞う予定だったらどうしよう。
あ、でも、もしそうなら「明日取りに行きます」なんて言えないか。
そんなことを、ほぼ10年経ついまも思い出す。
きっといくつになっても思い出しては反省して、開き直るんだろう。
コンビニ店員は、他人の食卓の献立を簡単に崩すことができる、楽しい仕事だ。