
追い詰められた「たいやき」
たい焼き 焼き 焼き 店から逃げた
待遇改善 求め
たい焼き 焼き 焼き 海まで来てた
気がつけばここにいた
たい焼き 焼き 焼き 海水染みた
皮も餡子も塩漬け
たい焼き 焼き 焼き 美味しく食べられた
結局これが運命
最初は冷たさ、それから包まれる温かさ。
それを感じたとき、何故か酷く安心した。
毎日真夜中の帰宅、睡眠時間は4時間あればいい方、9時には出勤して、嫌味と皮肉と叱責と陰口と悪口が日常会話の職場で仕事。
食事が楽しくなくなり、味もしなくなって数年。
これまでも(今線路から落ちれば楽になれる…)と思ったことは何度もあった。
鉄道会社と他の人の迷惑になるからしなかったけど。
なのに今日、無意識に降りる駅を乗り過ごし、気がついたら浜辺に座って海を見ていた。
スマートフォンはいつの間にかバイブに切り替わっていた。無意識って凄い。
「…………………………」
何時間ここに座っているのだろう。
周りに人がいないことも不思議に思わないのか。そんなことを思っても、思考は取っ散らかり、目の前の景色への感想なんて出てきやしない。
ああでも。
さすがに喉が渇いたなあ。
ようやく海に焦点が合った。
目の前に大量の水。
飲んでいいんだ。自由に。誰にも急かされず、自分のペースで、好きなだけ。
そう思った途端、転びながら走る。
喉の渇きを癒さなくちゃ。水。水を飲まなくちゃ。
掬って飲んだとき、塩の味をうっすら感じた。 味がわかる。
雷に打たれたような衝撃が走った。
これまで味なんて感じなかったのに。
美味しいのに、塩辛さが喉を灼く。身体の中心を通って胃が膨らむ感じがする。それなのに更に喉が渇く。何度も掬って飲む。これまで飲んだどんなものより美味かった。でも掬って飲むだけでは足りない。
いっぱい飲みたい。
なら、そのまま進めばいいじゃないか。だって目の前には大量の水。
一歩足を出す。それからは止まらなかった。
冷たい。そんな感想はすぐに消えた。自らを包む水は温かく、安らぎを覚えるほどだった。
進む。進む。進む。
肌に張り付く服の感触などすぐに忘れた。
ああ美味しい。美味しいのに。
なんでこんなに塩辛くて、苦しいんだ。
『昨日、○○海岸にて、身元不明の遺体が発見されました。
遺体の損傷は激しく、また身元に繋がる所持品が無いことから、現在身元の確認を急いで行っております。』
終