[ちょびっとエッセイ#23]眠れぬ夜のカレーライス
梅雨に入って、いよいよ夏が目前に迫ってきた。
寝苦しい日が続く。
寝具を夏用に変えるタイミングを逃し、まだ冬用なのが寝苦しさに拍車をかけている気がする。
おそらく梅雨明けまで寝具入れ替えはできないだろうな……なんて、過去の自分を呪いながら、なんとか睡魔が来てくれないかと必死に目を瞑る。
しかし眠れないと、考えなくて良いような事を悶々と考えてしまうものだ。
ーーここ数ヶ月のクレジットカードの引き落とし額が、収入額を超えている。
ーー自分がやった仕事が全部中途半端で、色んな人に迷惑かけている気がする。
ーー数ヶ月前、駅ですれ違ったおじさんに暴言を吐かれたのが辛い。
……ぁあ、辛い。辛いな。
考えれば考えるほど落ち込んで、自己嫌悪の沼に沈んでいく。
これはいけないと思い、気晴らしに何か食べるかと冷蔵庫を開けた。
扉のポケットに、いつからあるのか分からないカレー粉が入っているのを見つけ、野菜室の玉ねぎ、ピーマンと目が合う。
パッケージを開けてカレー粉の香りを嗅いでいると、胃のあたりがキュッと自己主張をしてきた。
よし、カレーでも作るか。
0時近くの料理は初めてで、少し心が躍った。
普段は絶対にやらないが、時間は腐るほどあるので、初めて玉ねぎを飴色になるまで炒めてみた。
余談だが、玉ねぎはなかなか飴色にならない。いつまで経っても透明だから、最後は少し火を強めた。
肉も欲しいと、冷凍庫の奥から発掘された豚なのか牛なのか分からない謎肉もついでに入れて、大きめにカットしたピーマンを投入。
じゃがいももにんじんも無かったが、さつまいもはあったので輪切りにし、かさ増しした。ついでにカピカピになりかけていたしめじも入れる。
テキトーな食材たちを入れて煮たからか、信じられない量の灰汁が出てきた。
それらをオタマですくい、流しに捨てていると、隣の部屋の住人がご機嫌で帰宅した音が聞こえた。
何か良い事があったのか、口ずさまれる聞いたことのない歌が玄関に消えて行った。
そうこうしているうちに灰汁が出なくなってきたので、箸でさつまいもを突き刺す。
火が通り、黄色く色づいた芋肌はみるからにホクホク。そのまま口に放り込みたい気持ちをグッと抑えて火を止め、ルーを投入した。
スパイシーな香りがたち、部屋中に広がって、たまらなくお腹が空いてしまう。
最初はシャバシャバだった鍋の中身が、ルーが溶けて徐々にとろみがついていくのを見ていると、料理に取り掛かる前まで抱いていたモヤモヤも溶けて消えていくような感覚があった。
料理をする時って、まず「〇〇が食べたい!」と言う動機がある。
そしてその動機に対して「料理を作る」と言う行動をし、できたものを「食べて満たされる」と言う結果をもたらす。
匂い立つスパイスの香りの前に、私の脳みその容量は「早くカレーを食べたい」と言う欲望で満たされ、数ヶ月前の見ず知らずのおっさんの事に構っている余裕は無くなったのであろう。
深夜1時前、出来上がったカレーを食パンにつけて食べた。
食道から胃がぽっと温かくなり、なんだか無性に安心した。
入れた肉はなんと牛肉だった。
得した気分。嬉しかった。
結局その日は寝れずに朝を迎えたが、寝れない夜には料理をしてみるのも良いかもしれない。
#創作大賞2026
