
アンプシミュレーターはライブで使えない?──現場に持ち込んで考えたこと(2025年版)
この記事はアンプシミュレーターをライブに使いたい、使ったけどうまくいかなかった人向け記事です。DTMや録音用途などには言及していません。
なお、アンプシミュレーターに関しては用語が複雑なため、下記の入門編のような記事を読んでいただいてから、当記事を読んでいただいたほうがわかりやすいと思います。
1.アンプシミュレーターのメリット
まずは、僕が考えるアンプシミュレーターをライブで使用するメリットをお伝えします。
1.1.運搬上の利点
理想を言えば、演奏する場所やセットリストによって適切なアンプ持ち込んで演奏することです。しかし、車も所有していない、集合住宅住みの僕には、運搬も厳しければ、家で音を鳴らすこともままなりません。そこで、アンプシミュレーターならば、自分の好みのアンプの音を気軽に運搬することが可能です。
1.2.現地のアンプに頼らなくて済む
演奏現場にあるギターアンプを使用する場合、まずどういうアンプがあるのか調べて、それに合わせて音作りする必要があります。細かい話をすれば、スタジオに無いアンプの場合、バンドアンサンブルの中での音色に関しては現地のリハーサルですべて調整する必要があります。その点、アンプシミュレーターであれば、かなり近い環境で音作りすることができます。現地では、箱の大きさなど外部要因に対する微調整だけで完結します。
1.3.エフェクターボード内ですべてが完結する
実機のアンプを使って、歪ませる場合は、通常インプットの前に空間系ペダル(ディレイ、リバーブ)などを置くことはせず、アンプのセンド・リターンを使用するのが一般的です。そのため、セッティングが煩雑になり、ジャンクボックスを使ったりしますが、やはり15分でセッティングとなればなかなか難しいでしょう。しかし、アンプシミュレーターを使用すると、アンプがボード内にある状態なので、そこで空間系ペダルなどをを接続した状態でボードを組むことができ、スムーズにセッティングすることができます。
【補足】
Tonex Pedal のようにセンドリターンがない場合、説明書には「空間系のエフェクターは単純に後ろに接続する」と書いていますが個人的に、キャビネットシミュレート機能の後ろにギターのペダルを置くことに疑問がありました。そこで、僕の場合、アンプシミュレーターをキャビネットシミュレート機能をオフにして、その後ろに空間系を接続してから、最後にまた別のアンプシミュレーターをプリアンプをオフにして接続しています。これなら疑似的にセンドリターンに空間系をつないで形になります。
1.4.いくつものアンプを使い分けれる
シミュレーターの機能にもよりますが、多くの場合、フットスイッチでアンプを切り替えることができます。そのため、曲ごとにアンプの種類を変えたり、曲中にアンプを変えるという実機では不可能なことができるようになります。
2.アンプシミュレーターをライブで使用する場合の問題点
さて、ここからが本題です。音質はライブで使用するのに問題ないレベルまで進化したアンプシミュレーターですが、実際にライブで使用すると思わぬ弊害を感じることになります。
2.1.「ギターアンプ」が無い弊害
アンプシミュレーターをPAに直接接続した場合、単純にアンプから音が鳴らないため、背中から感じる圧のようなものがありません。また、返しがしっかりしている環境では問題ありませんが、そうではない場合、かなり感覚がかわるので弾きにくいと感じる人が多いと思います。
2.2.PAスピーカーの落とし穴
小さいハコなど、PAスピーカーは奥のお客さん用に高い位置に取り付けられている場合があります。その場合、前列のお客さんはデッドスポットになってあまり聞こえない事があります。通常であれば、アンプの生音が聞こえる良い位置になるんですが、アンプを使わないとギターの音が聞こえづらい位置になります。
2.3.リターン挿しは本末転倒?
アンプシミュレーターのキャビネットシミュレート機能をオフにして、ギターアンプのリターンに繋げるという方法があります。これでも、アンプシミュレーターの有効な利用方法ではあります。しかし、キャビネットによる音の違いを同時に感じると思います。音の抜け方、EQのバランス、歪みの質感などキャビネットの重要性を体感することができるでしょう。
3.アンプシミュレーターをライブで使用する場合の対策
僕は演奏環境によって対策を変えています。なので、演奏環境は可能な限り調べてから、本番を迎えるようにしています。分からない場合は、悪い事を想定して準備をしていきます。
3.1.理想的な環境
専属PAさんがいて、返しもメンバー個々にある(最低でも自分用の返しがある)。また、外向きのPAスピーカーもしっかりお客さんへ届くような環境になっている。
このような理想的な環境の場合、アンプシミュレーターはPAに直接つなぐだけで、その実力を遺憾無く発揮してくれます。
3.2.自分の返しが確保できない場合
返しがしっかり聞こえないと、自分の音が聞こえない状態になります。また、転がし自体はあっても自分でPAのセッティングまでやらないといけない場合、時間的な制約があります。
このような場合は2つの方法があります。1つ目はPAに直接つなぐことは諦めて、実機のアンプに接続する方法です。但し、この方法は前述の通り、キャビネットシミュレート機能はオフにする必要があり、実機のキャビネットを使うため音が変わる可能性があります。
もう一つの方法は、外音はPAに直接接続し、中音はギターアンプもしくは FRFRスピーカー を持ち込むことです。このとき、ギターアンプなどは完全にモニターとして使うため、音色はあまり気にせずボリュームやアンプの向きでどのあたりに置くかが重要になります。そのため、ボリューム操作のできないリターン指しよりも通常のインプットに接続して、ボリューム操作ができるようにするのも1つの選択肢としておくのも良いかとも思います。ただ、この2つ目の方法はアンプシミュレーター側にキャビネットシミュレート機能をオンとオフの2系統を同時に出力できる機能がないと、使えないので注意して下さい。
3.3.PAにデッドスポットがある場合
小さなバーや歪な形のライブハウス、またPAの設置方法が悪いと、デッドスポット(客席でバランスよく聞こえない位置)がある場合があります。アンプシミュレーターでPAのみで音をだすとその影響をそのままうける事になります。
対処法は基本的に前述の「3.2.自分の返しが確保できない場合」と同じになりますが、2つ目の方法の意図が全く変わります。
1つ目の実機アンプのみを使う場合は全く同じなので、割愛します。2つ目のPAを使いつつ、サポートとしてギターアンプや FRFRスピーカー を使うことになります。この時、モニターではなくデッドスポットのフォローとして、客席側に音を届ける形になるため、ギターアンプを使うと2種類の違う音に混ざってしまいます。そのため、FRFRスピーカーがあれば問題ありませんが、一般的なギターアンプを使用する場合、あまりお勧めしません。
3.4.環境の見極めに関して
そもそも、環境の見極めが難しいという問題があります。実際に出演経験のある店であればわかりますが、初出演の店や野外イベントの場合は現地に行ってみてから判断するというのが現実的です。
僕の場合は、不安がある場合は小さいFRFRスピーカー(HEADRUSH / FRFR-GO)を持って行くということをしています。
ただ、日本国内では販売されていませんので、もし個人輸入をしたいということであれば、下記ページを参考にしていただけると違法状態を回避できるので参考にして下さい。
4.アンプシミュレーターの未来予測
現在はお店側がアンプシミュレーターへの対応に困っている状態だと思います。しかし、プロミュージシャンほど受け入れがたいかもしれませんが、今後はアンプシミュレーターが主流になっていき、実機の特に真空管アンプは残念ながら廃れていく傾向にあります。
これは、日本の住環境や若者の車の所有率などからも、実機のアンプを常に持ち歩くことは1部の人間に限られます。また、実機のアンプは新機種に関しても、部品の問題からどんどん制約が多くなっていく可能性が高いと思われます。それに対して、アンプシミュレーターは部品の心配はほとんどない上に、キャプチャー式であればAIで様々な挙動を再現することができるようになったり、モデリング式であれば今までに無い発想のアンプを開発するという技術的な可能性が残されています。
僕も純粋にどちらの音が好みかと言われれば、当然実機のアンプを鳴らしている方が気持ちがいいですが、最初に述べさせていただいた利点を考えるとアンプシミュレーターを積極的に使っていくようになりました。今後はそういった人が増えていくように思っています。