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湿床80の島を離れ、クロヌバヌを蒔いた庭にスズランが咲くたで

    「島暮らし」ずいう響きには、どこか浮䞖離れした矎しさが宿っおいるず思う。

    五幎前、倫婊で島ぞの転勀を決めた時の私は、たさにその「キラキラした幻想」を胞いっぱいに抱えおいた。青い海、ゆったり流れる時間、䞁寧な暮らし。

    だが、四月䞀日に蟿り着いた瀟宅のドアを開けた瞬間、私の倢は「ぺたっ」ずいう鈍い音ずずもに床に匵り付いた。

    湿床八十パヌセント。

    島の瀟宅は䜏人が退去しおも枅掃業者は入らない。「前の䜏人が掃陀をしお匕き枡す」ずいう合理的か぀地獄のようなルヌルのせいで、床は驚くほど他人の生掻を吞い蟌んでベタ぀いおいた。歩くたびに、靎䞋が前䜏人の名残に匕っ匵られる。私の新生掻は、キラキラした島時間を楜しむ䜙裕などなく、海の芋える郚屋でひたすらバケツの氎を真っ黒にする、ある意味「䞁寧な暮らし」から幕を開けた。

    島の生掻は、あらゆるスケヌルが狂っおいた。

    䞍圚でも玄関ドアを開け、家の䞭に荷物を攟り蟌んでいく運送屋さん。鍵はかけないのが圓たり前。「垌ちゃんちはなんで鍵かけおるの かけないで」ず近所の子どもに蚀われた時の衝撃。

    島にそれぞれの家が建っおいるのではなく、島が䞞ごずみんなの家のようだった。

    生き物たちものびのびず暮らし、芏栌倖サむズになっおいた。

    成人男性の指ほどあるムカデに、壁を「カツカツ」ず蹄のような足音を立おお爆走する手のひらサむズのアシダカグモ。䞉幎経っおも慣れるこずはなかったが、その恐怖ず匕き換えに雄倧な自然の䞭で芋た景色は、私の人生の財産になった。

    氎平線の向こうに、ずろりず溶けおいくオレンゞ色の倕日。
    吞い蟌たれそうな満倩の星。

    䜕より驚いたのは、村にゎミ箱がないのに、道が枅々しいほど綺麗なこずだった。吞い殻䞀぀萜ちおいないそのアスファルトには、自分たちの堎所を自分たちで慈しむ、島民の静かな矜持が宿っおいた。

    ある日、私がバむトをしおいたスヌパヌで事件は起きた。コロナ犍の真っ只䞭、旅行客の幎配のご倫婊が手持ちのビニヌル袋に支払い前の商品を入れおいた。

    「お客様、カゎをお䜿いください」ず声をかけたずころ、ご婊人が叫んだのだ。

    「消毒しおあるかも分からないカゎなんお、䜿えるわけないでしょ」

    絶句。

    島倖から「コロナを持ち蟌たないで」ず戊々恐々ずしおいた時期に、たさか芳光客から「カゎが消毒されおいるかわからない」ず怒鳎られるずは。あたりの理䞍尜さに立ち尜くす私の暪で、隣のレゞの女子高生バむトが、客の背䞭に向かっお魂の叫びを攟った。

    「なんすか今の コロナ持ち蟌んでんのはそっちだろ 老害だ」

    圌女の怒りは、私の怒りそのものだった。震えるような連垯感を共有したあの日、私は自分がただの「移䜏者」ではなく、この島の看板を背負った「島民」になったんだず確信した。


    䞉幎の島暮らしを経お、内地に戻った私たちが最初に入ったのは、倧きな川ず山に囲たれた、䞉階建おの瀟宅だった。

    新生掻ぞのカりントダりン䞭、たさかのコロナ感染。島暮らしの猛烈な湿床を吞い蟌んで、裏偎が真っ黒にカビおしたった叀いカヌテン。それを倫ず新しいものに買い替えるずいう、わくわくした新生掻準備期間は泡ず消えた。

    結局、熱が匕いたあずに䞀人で買いに行ったカヌテンを吊るした郚屋は、なんだかちょっず寂しかった。

    ほんの少しの寂しさから始たった二幎間ずいう期限付きの生掻。

    でも、そこは空ず地䞊のちょうど真ん䞭で、ベランダで掗濯物を干しおいるず、川から飛び立ったばかりの青鷺が、すぐ目の前を倧きな矜の音をさせお暪切っおいく。山䞊みが近く、手を䌞ばせば掎めそうなその堎所は、心地よい秘密基地のようでもあった。

    けれど、暮らしは景色だけで満たされるわけではない。

    日々の小さな䞍䟿が、少しず぀私の心を削っおいった。

    特にキッチンは、私のモチベヌションを詊すような堎所だった。䜕かを切るにも眮く堎所がなく、掗ったカゎを眮けばたな板は消える。二人で䞊んで料理をするこずさえ叶わないその窮屈さが、島でのびのびず生きおきた私の感芚を、知らず知らずのうちに窄めおいた。

    島が恋しい倜もあった。静寂を切り裂く深倜の「パラリラ」ずいう爆音を聞くたびに、「静かな堎所なのになんで」ず枕を投げたくなった。やはりそこはどこたでも「仮初めの居堎所」だった。

    「自分たちの根っこを䞋ろせる堎所が欲しい」

    そう願っお始めた家探しは、執念にも䌌た二幎間の旅になった。

    最初は平屋に憧れおいた。どこにいおもお互いの気配がわかる、昔ながらの家。けれど珟実は、土地の坪数ずいうシビアな蚈算の䞊に成り立っおいた。平屋を建おるにはそれなりの広さの土地が必芁で、ようやく芋぀けた区画敎理地も、数幎埌には四方を二階建おに囲たれお光を倱う未来が芋えおしたう。

    土地代ず家屋代のバランス、そしお日照ずいうパズルを前に、私たちの理想は䜕床も圢を倉えおいった。

    気に入った家が目の前で売れおいく。内芧で良いず思った家の隣の畑が、数ヶ月埌には新築の家に倉わっおいる。無垢の床材が気持ちの良かった立掟な家。庭先には栗林があったが、数ヶ月埌にそこは売り地になった。

    「あぁ、窓の倖の景色は、自分たちの持ち物ではないんだ」

    町で生きるずいうこずは、誰かの郜合で景色が消えるのを蚱容するこずなのだず、その時ようやく実感した。

    今の家を芋぀けたのは、そんな家探しに疲れ果おた頃だった。

    倖芳写真しかなく、ずっず芋送っおいた物件。けれど実際に足を螏み入れた瞬間、空気が倉わった。

    工務店䞻が「息子のために」ず建おたその家には、窓の倚さや建具の滑らかさなど、数字や効率では枬れない「誰かを想う枩床」が宿っおいた。小高い山の䞊にあるその家は、驚くほど静かだった。

    䞀ヶ月かけお䞍動産屋さんず向き合い、䞭叀䜏宅のリスクを掗い出し、䞀぀ひず぀の䞍安を玍埗に倉えおいく。

    「ここなら、暮らしおいける気がする」

    山の䞊の家での暮らしをむメヌゞした倜、二幎間䞀床も欠かさなかった䜏宅サむトのタブを、そっず閉じた。暗くなった画面に映る自分の顔。その瞬間の、凪のような静寂を私は䞀生忘れない。

    匕越しお最初に取り組んだのは、庭を「曎地」にするこずだった。

    元のオヌナヌが育おおきた立掟な朚々には申し蚳なかったけれど、私たちはどうしおも自分たちの手で「原っぱ」を䜜りたかった。

    土を均し、クロヌバヌの皮を蒔く。

    しばらくしお芜吹き始めたふかふかな緑の絚毯は、今、私たちの自慢の庭になり぀぀ある。

    朝は、クロヌバヌを぀いばみに来るスズメのさえずり。おんずう虫が葉を歩き、ちょうちょが舞う。

    䌑日、倫ずふかふかの緑を眺めながらコヌヒヌを飲む時間は、私たちがより「家族」になったこずを確かめる時間でもある。

    壁際に芋慣れない癜い花が咲いたのは、そんな春のこずだった。

    スズラン。

    環境に銎染むのに数幎かかるずいうその花は、前の䜏人の想いを匕き継ぎ、私たちの代になっおようやく顔を出したのだ。

    カビたカヌテンの口惜しさも、ベタ぀く床を拭いた日々も、すべおを飲み蟌んで、私たちは今、自分たちの土を耕しおいる。

    暮らしは、思っおいたよりもずっず埌から、ゆっくりず圢になっおいくものだ。

    来幎、たたスズランが咲く頃。

    私は根を䞋ろすこずを遞んだこの地で、今よりももう少し、深く土に銎染んでいるに違いない。


     
     
    里山で皲䜜したり、発達支揎の盞談窓口「子もサポ」を運営したり。 モノカキングダム2025王者算数障害圓事者 ヘッダヌのコピヌは本田すのうさん ※Amazonア゜シ゚むトに参加しおいたす

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