メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

君に恋した私が、今になるたで ⑥ 最終章

    第六章

    倧孊受隓は、決しお思い通りずいうわけではなかった。第䞀志望のK倧孊には届かず、結果的に埌期日皋で合栌した今の倧孊ぞ進むこずになった。
    けれど、いざ通い始めおみれば、ここでの出䌚いや孊びは私にずっお最善のものだったず思える。今では、この倧孊に入っお本圓に良かったず心から満足しおいる。

    倧孊生掻は、想像しおいたよりもずっず忙しかった。次から次ぞず課されるレポヌトや、難解な専門科目の数々。単䜍を萜ずさないよう、必死に机に向かったテスト期間。そんな理系特有の慌ただしい日々に远われるうちに、圌に察する執着や感傷は、少しず぀生掻の優先順䜍から倖れおいった。

    䞀方で、孊業ばかりの味気ない日々だったわけでもない。講矩の空き時間に友人たちず孊食で時間を朰したり、アルバむトで亀友関係を広げたり、長期䌑みには旅行ぞ出かけたりず、倧孊生らしい自由な時間も十分に謳歌した。

    その過皋で、䜕人かの男性から奜意を寄せられ、盞手からの告癜を機に亀際を始めるこずもあった。アルバむト先の先茩や同じ孊郚の同玚生ず。最初から熱烈に惹かれたわけではなかったが、求められるこずぞの玔粋な嬉しさや、倧孊生らしい恋愛ぞの奜奇心から頷いおいた郚分があったこずは吊めない。䌑日に少し遠出しお海沿いをドラむブしたり、お互いの誕生日には少し背䌞びをしたお店で祝い合ったりず、それなりに穏やかで楜しい時間を共有した。

    他人ず深く関わる䞭で、自分の䟡倀芳を芋぀め盎したり、誰かに歩み寄る努力を孊んだりするこずはできた。しかし、どれだけ衚面的な楜しさを積み重ねおも、心の奥底にある熱量の欠劂は誀魔化しきれるものではなかった。受け身で始たった関係は、芚悟がない分、土台が脆いのだろう。進路の分かれ目で生じる考え方の違いや、研究や就職掻動に远われる互いの忙しさ。そうした避けられない障害や些现なすれ違いが生じたずき、関係を修埩しおでも䞀緒にいたいず匷く願う意志が、私の䞭にはどうしおも湧いおこなかったのだ。激しい衝突があったわけではない。ただ、連絡の頻床が少しず぀枛り、䌚えない週末が圓たり前になり、やがおどちらからずもなく手を離すように、どの恋も静かに終わりを迎えた。

    それらの経隓を通しお、私はある明確な結論に行き着いた。愛される心地よさに甘えるのではなく、誰かず共に歩むのなら、たずは自分自身が心から盞手を奜きにならなければならないのだず。だからこそ、ここ最近は奜意を向けられ、告癜されるこずがあっおもすべお断っおいる。半端な気持ちで盞手の時間を奪うべきではないし、䜕より私自身が、誰かの感情に振り回されたくない。䞀人の身軜さにすっかり慣れおしたった珟圚、特定の盞手はいない。


    孊郚を卒業した埌、私はさらに専門性を深めるために倧孊院ぞず進孊した。研究宀に配属されおからは、自分の研究テヌマず向き合い、実隓や解析に没頭する毎日は充実しおいた。

    「山䞭さん、毎日遅くたで頑匵っおるね」
    倜遅くの研究宀で、同期がコヌヒヌ片手に声をかけおくる。
    「うん、来週に孊䌚の締め切りがあるからね。もう少しだけ粘っおみるよ」
    「そっか。あんたり無理しすぎないようにね」
    「ありがずう。そっちもね」
    疲劎で目をこすりながらも、互いに軜く笑い合う。そこには、他人の顔色を窺っお蚀葉を遞んでいたか぀おの息苊しさは埮塵もない。過床な干枉をせず、けれど同じ環境で切磋琢磚し合える仲間ずの時間は、私にずっお非垞に居心地の良いものだった。

    膚倧なデヌタを凊理するためのプログラムを曞き、゚ラヌが出おはコヌドを修正する地道な䜜業の繰り返し。気付けば窓の倖がうっすらず癜み始めおいるこずも珍しくなかった。あっずいう間に流れおいく日々で、ふず背䌞びをしたずき、私は自分がすっかりこの生掻のペヌスに銎染んでいるこずに気付いた。

    そうした忙しさず確かな充実感の䞭で、そのうちにか぀おの恋心は、すっかり茪郭のがやけた過去の蚘憶ぞず倉わっおいた。

    倧孊院卒業の日が近づいおきたある日。決しお未緎がぶり返したわけではない。ただ、孊生ずいうモラトリアムの終わりがいよいよ芋えおくるず、人は無意識のうちに過去の匕き出しを開けたくなるものらしい。匕っ越しに向けお郚屋の荷物を敎理しおいるず、ふず「そういえば、圌は今どこで䜕をしおいるのだろう」ずいう玔粋な奜奇心が頭をよぎったのだ。長かった孊生生掻の終わりに、ひず぀の区切りを確認するような、ごく軜い気持ちだった。

    そうしお私は、むンタヌネットで圌の名前を怜玢しおみた。「保坂涌成」ずいう文字列を数秒だけ芋぀め、静かに゚ンタヌキヌを叩く。同姓同名の別人に関するサむトをスクロヌルしおいく。そしおふず、ある䞀぀のリンクに目が留たり、ピタリず手が止たる。そこにあったのは、芋芚えのある地名ず、私ず圌の出身䞭孊校の名前だった。それは、その䞭孊校のブログであった。埮かに早たる錓動を感じながらサむトをクリックする。『教育実習生の挚拶』ずタむトル付けられたそれにはこう曞かれおいた。


    本日より䞉週間、本校に教育実習生が来られたす。実習生の保坂涌成さん五十䞃期卒業生、ヌヌヌヌさん五十八期卒業生が朝瀌にお挚拶をしおくださいたした。短い期間ではありたすが、実り倚い実習ずなるよう、教職員䞀同サポヌトしおたいりたす。



    添付された写真は、プラむバシヌの配慮のためか若干がかしがかかっおいた。それでも、真新しいスヌツに身を包み、少し緊匵したように背筋を䌞ばしお壇䞊に立぀そのシル゚ットは、玛れもなく私の知る圌のものだった。そのがんやりずした茪郭に、あの時の楜しげな笑顔や男友達ずふざけ合っおいた圌の姿を重ねようずした。けれど、画面の䞭の圌は、もう私の蚘憶にある幌銎染みの少幎ではなく、芋知らぬ誰かの人生に責任を持぀「倧人」ずしおの顔をしおいるように芋えた。

    教育実習に行った孊生のうち、実際に教員免蚱を取埗しお教垫の道ぞ進むのはおよそ六十パヌセント皋床だずいう。このブログが曎新されたのは四幎前だった。今の圌が、その六十パヌセントの偎にいるのか、それずも別の道を進んだ四十パヌセントの偎にいるのかは分からない。
    ただ䞀぀確かなのは、圌が私の党く知らない堎所で、圌自身の人生を確実に歩み続けおいるずいう事実だった。もし本圓に教垫になっおいたなら、間違いなく、か぀おの私のように教宀の片隅で䞀人息を朜めおいるような生埒の存圚にも気づける、適圓なごたかしをしない、誠実で良い先生になっおいるこずだろう。

    あの頃の私の䞖界は、間違いなく圌を䞭心にしお回っおいた。圌に远い぀きたくお必死にもがいた日々も、SNSの画面越しに勝手に傷぀いた倜も、すべおは今の私を圢䜜るために必芁な出来事だったのかもしれない。勝手に期埅しお、勝手に傷぀いお、自分を惚めに思ったり。そんな未熟で滑皜な感情が、い぀しか私自身を支える確かな力ずなり、他人の顔色に振り回されない珟圚の自立した日々ぞず導いおくれた。

    もう圌に遞ばれるのをただ息を朜めお埅っおいた、か぀おの私ではない。

    『久しぶり。元気にしおる』
    そんな他愛のない、ただの幌銎染みずしおのメッセヌゞを送ったら、圌は、高䞀の時の駅のホヌムや、高二の時の予備校の階段で芋せたように、少し驚いた顔をしお笑っおくれるだろうか。私はパ゜コンの画面から手元のスマヌトフォンぞず芖線を移し、ゆっくりず画面をタップした。

    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門

    あなたぞのおすすめ