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勇者と魔王

    私は魔王と対峙した。
    「よくぞ、ここまで辿り着いた」
    昏い玉座に腰掛けた魔王は、想像していたような禍々しい姿ではなかった。
    しかし、肌から伝わる魔王の凄みに、怯む体を自覚した。

    「魔王と呼ばれるようになって久しいが、遂にこの日が来た。」
    剣を構える私を見ても、魔王の目には恐れも怒りもない。
    「斬りたければ斬るがいい。憎しみの矛先は一手に引き受けよう。」
    魔王は腰掛けたまま動く気配はない。
    私は剣を握り直した。
    震えている。
    怒りではない。
    目の前の男が放つ静けさに、
    本能が警鐘を鳴らしていた。
    目の前の威圧を払い除けるように、私は剣を振り下ろした。
    魔王は抵抗しなかった。
    地に伏した魔王を見下ろしたとき、
    底知れない穴を覗き込んでいるような感覚だけが残った。

    私は英雄となった。
    国中が魔王討伐に歓喜し、人々は私を称えた。
    王への謁見を許され、勲章を授かり、実質的に国を治める立場になった。
    誰もが言った。
    「これで平和な時代が来る。」
    私も、そう信じていた。

    最初は平穏だった。
    圧政は無くなり、街には笑顔が戻った。
    子どもたちは外を駆け回り、人々は明るい未来を語った。
    しかし、少しずつ歯車が狂い始める。
    敵がいなくなったのだ。
    貴族たちは功績を争い始めた。
    役人は賄賂を受け取り、税は増えた。
    豪商は飢饉を理由に穀物を買い占め、値を吊り上げる。
    昨日まで隣人だった者同士が、水利権を巡って争う。
    魔王軍と戦っていた頃は、一つだった国。
    仲間だった隣人は、今は敵として見ていた。

    一人の家臣が私に進言した。
    「このままでは国が壊れます。
    勇者様の功績を持って、悪事を糾すべきです」
    彼は腐敗した貴族を弾劾しようとした。
    ある日、その家臣は路地裏で殺害された。
    犯人は分からなかった。
    誰も口を開かなかった。

    私は話し合いを選んだ。
    法を整えた。
    税を見直した。
    何度も民の前に立ち、言葉を尽くした。
    しかし誰も聞かなかった。
    皆、自分の利益しか見ていなかった。
    ある日、家臣が国庫の金を横領した。
    私は王の命を受けたという名目で処刑した。
    国のためだと心を鬼にして処刑した。

    人々は拍手した。
    「勇者様は正しい。」
    私は安堵した。
    これで国は良くなる、と。
    しかし翌月には、また別の大臣が横領した。
    彼には家族がいた。
    幼い子もいた。
    それでも私は処刑を実行した。
    また一人。
    また一人と。
    処刑はいつしか日常になった。
    気付けば、処刑を実行する私に異を唱える者はいなくなっていた。
    私も、処刑する私に違和感を覚えなくなった。

    私は税の徴収を自ら行うようになった。
    役人を信用できなかったからだ。
    税を払えぬ者は牢へ送った。
    賄賂、強奪、不正があれば、
    家臣、貴族、平民を、分け隔てなく捌いた。
    反乱を企てた村は焼いた。
    飢えに耐えきれず盗みに走った者も、
    例外なく裁いた。
    皮肉なことに、国は静かになった。
    盗賊はいなくなった。
    汚職もなくなった。
    反乱も起きなくなった。
    人々は一致団結した。
    ただ一人を憎むことで。


    ある日、城門が破られた。
    一人の若者が現れる。
    その目は、かつての私と同じだった。
    真っ直ぐで、曇りがない。
    「魔王!」
    若者は叫んだ。
    「お前を倒し、この国を平和にするんだ!」
    私は若者を見つめた。

    あの日。私が勇者だった頃。
    ようやく分かった。

    ―― よくぞここまで辿り着いた ――

    若者は剣を構える。

    ―― 魔王と呼ばれるようになって久しいが、遂にこの日が来た ――

    若者は震える声で叫ぶ。
    「お前さえいなければ世界は平和になる!」
    その言葉に、私はかつての自分を見る。

    ―― 斬りたければ斬るがいい ――

    私は腰を玉座に据えたまま、訪問者を見下ろした。

    ―― 憎しみの矛先は、一手に引き受けよう ――

    勇者の剣が、私の胸を貫いた。
    薄れていく意識の中で、若き勇者は私を見ていた。
    その目には勝利の喜びはなかった。
    ただ、理解できないものを見るような、戸惑いだけがあった。
    私は静かに目を閉じる。
    この国はまた平和を望み、
    やがて新たな魔王を生み出す。


    魔王。
    私はお前と同じだった。


    #創作大賞2026
    #ファンタジー小説部門

     
     

    のっ

     
     
    自分が書いた文章を推敲してると、別にこんなんネットに公開しなくてもいいよなってなる病気

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