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【SF群像劇】I.V.A 12 (終)

    99日目2 記録:トラッシュ

    僕は今技術者としてのプライドと、好奇心と、イヴァやみんなの気持ちを汲む常識的な男としての狭間で揺れ動いている。
    ルーファス博士のアンドロイド君の記憶を部分的に消去することは可能なのか?イエス。
    それができるだけの技術を自分は持っているのか?グレー。
    もし可能だとしても、それをすることでイヴァを悲しませるのではないか?イエス。
    そして一番危惧しているのは、失敗した場合、彼は…彼の中が空っぽになってしまったら、今よりももっと、完全に壊れてしまうのではないかということだ。
    これは答えが出る日がくるのだろうか。
    ドミニクからの肉を頬張りながら、机の上に専門書や関連書を積み上げて考える。隣にはマーガレットが座っている。
    明日また彼らがやってくる。
    まあ少しづつトライしてみようじゃないか。
    そんなことを言ってる僕は無責任すぎるのか?



    100日目 記録:ルーファス

    目を開いたら、過去の記憶の中を漂っていた。
    これはまだスリープ状態のまま?
    ここは、どこなんだ?

    機械がたくさん並んでいる。
    博士の研究室か。
    机の上に書類と写真が置いてある。
    ジューンだ。亡くなった彼女の写真だ。
    腕の血管をチェックしている。
    液体が流れているのがわかる。
    もうすぐ新しい生命が誕生する。
    ジューン?
    いや、イヴァだ。
    彼女は新しい生命体。
    彼女ならきっと大丈夫。その命を全うする。
    機械なのにおかしな話だ。
    私は本気でそれを信じている。
    苦しい。
    体がもう長くないことは私自身が一番よくわかっている。
    自分そっくりのものまで用意するなんて、どうかしている。
    元がこれだから、イヴァほど期待はできまい。
    それでも私の魂のかけらがほんの少しでも彼にうつればそれでいい。
    そうすることで自分が安心したいだけだ。
    こうすることでしか自我を保てない。
    頭の中心に接近すればするほど、体中の神経がおかしくなりそうだ。
    それも納得だ。
    元々壊れているんだ。
    修復のしようがない。

    最期に見るものがイヴァならよかったのに。
    心の底からそう望んでいる。
    それだけは私もルーファス博士も同じだったようだ。
    イヴァがあの扉を開けたとき、博士の視界に彼女は入っていたんだろうか。
    そうだ、きっと彼は見たに違いない。
    脅威となっていた男を消し去り、博士の最期に駆け付けた。
    イヴァは一番彼の望むことを成し遂げたのかもしれない。
    ルーファス博士の最期が安らかなものであったことを願う。

    「…ん!博士さん!」
    彼女の声がする。
    「ここはひとつ、名前を呼んでみてもいいんじゃないか?」
    トラッシュの声だ。
    「ル、ルーファスさん、聞こえますか?」
    彼女が初めてわたしの名前を呼んだ。
    イヴァ。これは現実の彼女の声なのか。
    「しっかりしろよ!白衣メカ!」
    …まったくうるさい小娘だ。

    目を開いてもまた記憶の中を彷徨うのではないかと一瞬方向を見失った。
    手の先にかすかなぬくもりを感じる。
    もう目を開いても大丈夫なのだろうか。
    戻って来れていたら、本望だ。



    100日目 記録:イヴァ

    わたしは必死で涙腺機能に命令を出してる。動かないで、いいから作動しないで。笑顔。笑顔で迎えたい。
    彼が戻ってきてくれたら、最初に見るのは泣き顔より笑顔がいい。

    なかなか彼が動かないからまわりが騒ぎ出しちゃって。
    早く起きろよ、ってジューンさんはずっと同じ調子。
    トラッシュさんも緊張の面持ち。
    わたしは笑顔の準備。
    機能停止コードがあるんだから、万が一の時でも苦しませないよ。そう、最後までわたしが見守っているから。
    だからゆっくりこっちに戻ってきてね。

    ルーファスさん、早く起きて。また一緒にお話ししたい。
    手をにぎりしめてずっと名前を呼んでる。
    起きてくれれば、それで十分。
    本当に、記憶をいじったり、できているのかな?
    彼が目を覚ましたら、なんて言ってくれるのかな。
    わたしの名前を憶えていてくれたら、嬉しい。
    いけない。すぐ欲が出る。
    起きてくれれば、それで十分だよ。
    「あ」
    彼の指先の動きにわたしが反応すると、みんな近づいて彼に呼びかける。
    ちょっと騒がしすぎるから。思わずふつうに笑ってしまった。
    ゆっくり彼のまぶたが開く。
    「おはよう、ルーファスさん」


     
     
    【SF群像劇・ヒューマンドラマ・ログ形式・多視点・考察・海外ドラマ風イメージ・ディストピアSF・AI倫理】 全12回 イヴァ、博士、ジューン、トラッシュ、アンドロイドと人間、複数の人物の視点が交錯する、静かで騒がしいSF物語です。 ⚠一部センシティブな表現を含みます

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