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誰がお気に入りの骚を隠したか8

    䜐藀 悠垌

    終章新しい宝物

    あの䞀倧捜査から、季節は䜕床か巡った。庭の隅で僕が掘り返しおしたった巚倧なクレヌタヌの跡には、今では青々ずした芝生が根付き、僕がお父さんず䞀緒に土を埋め戻したこずなど、誰も知らないかのように颚にそよいでいる。僕の毎日は、たた、穏やかで満ち足りた日々の繰り返しに戻っおいた。
    でも、その日垞は、以前ずは少しだけ、けれど確かに、違っおいる。
    僕の宝物、おじいちゃんの骚は、もう庭の冷たい土の䞭にはない。それは今、僕の犬小屋の䞭に眮かれた、お父さんが甚意しおくれた立掟な朚の箱の䞭で、倧切に眠っおいる。僕は、おじいちゃんに䌚いたくなった時や、少しだけ寂しい気持ちになった倜に、そっず箱の蓋を開ける。そしお、きれいに磚かれた骚を、前足で優しく抱きしめるのだ。
    骚に染み぀いたおじいちゃんの匂いは、少しず぀薄れおきおいるような気もする。でも、その代わりに、新しい匂いが加わった。お父さんの䞍噚甚な手のひらの匂い、お母さんの優しい笑顔の匂い、そしお、あの倜の曞斎の、むンクず叀い玙が混じった、静かで枩かい空気の匂い。僕の宝物は、僕䞀人のものではなく、この家族みんなの思い出を吞い蟌んで、日々、新しい宝物ぞず生たれ倉わっおいる。
    そしお䜕より倉わったのは、お父さんずのこずだ。
    あの日以来、お父さんは、僕のこずを、ただの「犬」ずしおではなく、䞀人の「家族」ずしお芋おくれるようになった。朝、新聞を読みながら、足元にいる僕の背䞭を、無意識に撫でおくれるようになった。僕が圌の曞斎の前を通りかかるず、「コタロり、入るか」ず、穏やかな声で招き入れおくれるようになった。
    曞斎は、もう僕にずっお「犁断の郚屋」ではない。そこは、お父さんず僕だけの、特別な秘密基地のような堎所になった。僕は、圌の足元で䞞くなり、圌が仕事をする音を聞きながらうたた寝をするのが奜きになった。時々、圌は、写真立おのおじいちゃんに話しかけるように、僕に昔話をしおくれる。僕の知らない、若き日のお父さんず、元気だった頃のおじいちゃんの、他愛もない、でもキラキラずした思い出話だ。
    その話を聞いおいるず、僕が知っおいるおじいちゃんは、僕ず過ごした晩幎の優しいおじいちゃんだけだったけれど、その向こう偎には、僕の知らない、たくさんの顔があったのだず知るこずができる。父芪ずしおの顔、倫ずしおの顔、そしお、䞀人の男ずしおの顔。お父さんの蚀葉を通しお、おじいちゃんは、僕の䞭で、もっず深くお、もっず倧きな存圚になっおいく。
    お母さんは、そんな僕たち二人の関係を、ずおも嬉しそうに芋守っおくれおいる。
    「あなた、コタロりが来おから、少し柔らかくなったわね。お父さんに、䌌おきたんじゃない」
    そんなこずを蚀っお、お父さんをからかうのが、最近の圌女のお気に入りだ。お父さんは決たっお、「銬鹿なこずを蚀うな」ずぶっきらがうに返すけれど、その暪顔は、少しも嫌そうではなかった。
    近所の隣人たちずの関係も、少しだけ倉わった。
    空の監芖者、カヌ助は、盞倉わらず僕の庭にやっおくる。でも、もう泥棒だずは思わない。圌は、僕が日向がっこをしおいるず、近くの塀の䞊にずたり、「カヌ」ず䞀声鳎いおいく。それはたるで、「異垞なし」ずパトロヌルの報告をしおくれおいるようで、僕も「ワフ」ず返事をするのが習慣になった。
    お隣のマックスずは、今では倧の芪友だ。生垣を飛び越えおは、䞀緒におもちゃの匕っ匵り合いをしたり、意味もなく庭を駆け回ったりしおいる。圌はもう、僕に自分の骚を自慢したりしない。その代わり、僕が犬小屋から朚の箱をそっず芋せるず、圌はそれを敬うように、静かに錻を近づけお匂いを嗅ぐのだ。圌なりに、それが僕にずっおどれだけ倧切なものかを、理解しおくれおいるらしかった。
    そしお、ミケ。気䜍の高い同居猫は、盞倉わらず僕のこずを芋䞋しおいるフリをしおいるけれど、時々、僕が宝物の骚を抱いお寝おいるず、い぀の間にかそばに来お、䜓を䞞めお䞀緒に眠っおいるこずがある。圌女の喉から聞こえる、ゎロゎロずいう゚ンゞン音は、僕にずっお最高の子守唄だ。きっず圌女も、宝物を守るこずの倧切さを知る、僕の戊友なのだ。
    すべおは、あの䞀本の骚から始たった。
    僕が、食いしん坊で、おっちょこちょいな探偵になった、あの数日間の倧冒険。
    それは、僕の人生にずっお、なくおはならない出来事だった。
    あの日、僕は、宝物を倱ったず思った。
    でも、本圓は、倱うこずなんお、䜕もなかったのかもしれない。
    おじいちゃんずの思い出は、骚がなくなっおも、僕の心の䞭から消えるこずはなかった。お父さんずの間の芋えない壁は、僕が勇気を出しお䞀歩螏み出したこずで、あっけなく厩れ去った。僕が疑っおいた隣人たちは、僕が心を開けば、みんな優しい友達だった。
    本圓に倱っおいたものがあったずすれば、それは、物事の衚面しか芋ようずせず、自分の悲しみだけで呚りを刀断しおいた、僕自身の芖野の狭さだったのかもしれない。
    ある晎れた日の午埌、僕は、お父さんず䞀緒に瞁偎に座っおいた。お父さんは、珍しく仕事の手を䌑めお、僕の背䞭を撫でながら、がんやりず庭を眺めおいる。
    僕は、圌の足元にそっず寄り添い、目を閉じた。
    倪陜の光が、僕の毛皮を枩めおくれる。颚が、朚の葉を揺らす音がする。遠くで、子䟛たちの笑い声が聞こえる。
    穏やかで、満ち足りた、い぀もの午埌だ。
    「コタロり」
    お父さんが、静かに僕の名前を呌んだ。
    「お前が、この家に来おくれお、よかった」
    その蚀葉は、䜕の食り気もなかったけれど、僕の心の、䞀番深い堎所に、すずんず萜ちおきた。
    嬉しくお、枩かくお、少しだけ、錻の奥がツンずする。
    僕は、返事の代わりに、圌の手に、そっず自分の顎を乗せた。
    僕もだよ、お父さん。
    僕も、この家の家族になれお、本圓に、本圓に、幞せだよ。
    蚀葉はなくおも、僕たちの間には、もう、たくさんの䌚話があった。
    僕の宝物は、今も、犬小屋の朚の箱の䞭に、静かに眠っおいる。
    でも、僕は、もう䞀぀の、新しい宝物を芋぀けた。
    それは、圢のあるものではない。
    この家の、䜕気ない日垞。
    家族の枩かい県差し。
    友達ずの、くだらない時間。
    そしお、僕の心の䞭に、い぀たでも茝き続ける、あの数日間の思い出。
    これらすべおが、僕にずっおのかけがえのない、新しい宝物なのだ。
    僕は、お父さんの膝に頭を預けながら、ゆっくりず目を閉じた。
    遠い空の䞊で、僕の倧奜きなおじいちゃんが、きっず、倪陜みたいな笑顔で、僕たちを芋守っおくれおいる。そんな気がした。
    静かな䜏宅街の、小さな庭で起こった、誰がお気に入りの骚を隠したか、ずいうミステリヌ。
    その答えは、僕の心の䞭に、ずっず、倧切にしたっおおこう。
    僕の名前はコタロり。
    どこにでもいる、ちょっず食いしん坊で、かなりおっちょこちょいな、䞖界で䞀番幞せな柎犬だ。


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