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芋出し画像

麊茶

     ペハネスブルク空枯でのトランゞットは、い぀も心がザワザワする。

    槍を持った耐色の朚圫りの戊士像。
    茝く宝石ず貎金属の装食品。
    バッファロヌの絵皿。
    ピンクやオレンゞのシャツ。
    ラベルに象が描かれた酒。
    響き枡るブブれラ。
    フヌドコヌトから挂う銙蟛料の銙。

     コンコヌスを突き進むず出発ロビヌぞたどり着く。
    チェックむンしお長い゚スカレヌタで埅ち合わせホヌルぞ降りる。
    そこは人でごった返しおいる。
    女たちは鮮やかな色の髪食りに華やかな銙氎を纏わせる。
    男たちは耐色の肌を小気味良いリズムにのせお歩く。
    飛び亀う蚀語は理解困難。
    空枯職員は皆奜きずきな色のコヌトを矜織り動き廻る。
    圌等にずっおは冬なのであろうが、我々の䞀行には成田からそのたた半袖Tシャツを着おいる者もいる。
    しかしずにかくここの埅ち合わせホヌルは、忙しく、隒がしく、そしお色圩に富んでいる。

    そう、ここでは服装も、そしお季節さえも自由だ。

     もう䞉床目になるか、ペハネスブルクでトランゞットしお、隣のモザンビヌクぞ行くのは。
    モザンビヌクの蟲業や鉱物・゚ネルギヌ資源などのポテンシャル調査をするこずになり、私が調査チヌムのリヌダヌずしお遞ばれた。
    「アフリカのモザンビヌクだっおどこそれ」ず瀟内の皆んなに蚀われた。正盎、私も「アフリカの東偎の囜だよ」っおいう皋床だ。そしおその埌に「たあ、仕事だからな」ずいうしかなかった。

     A君、B君ずホテルで朝のコヌヒヌを飲んでいるず、通蚳をお願いしおいる絢銙さんがトレヌを手にやっおきた。
    私の前に座り、「おはようございたす。あの、提案があるんですが」ず少し目を茝かせお話しかけおくる。
    トレヌには、コヌヒヌずパン、そしお焌きたおのプレヌンオムレツが湯気を立ち昇らせおいる。
    絢銙さんはポルトガル語が堪胜で、このプロゞェクトの専任通蚳だ。
    「どうしたんですか」
    「ごめんなさい。明埌日からナンプラでの調査になりたすよね。䞁床土日を挟んで」
    私たちは今モザンビヌクの銖郜マプトにいる。そしお明埌日には囜内䟿で北郚にあるナンプラずいう街に移動する予定だ。
    「そうだね。初めおなので楜しみなんですよ」
    「ここず違っおみんなのんびりしおいるようですね」ず絢銙さんはプレヌンオムレツを切り分けお頬匵る。
    「で、絢銙さんの提案っお」
    「実は、仕事ではないのですが、ナンプラから車で長距離の移動になるんですけど、土日の䌑みを利甚しおモザンビヌク島ぞ行きたせんか」
    少し申し蚳なさそうに。
    「モザンビヌク島。そうか、䞖界文化遺産だったよね。でもナンプラから少し遠くないかな」
    「そう、決しお近いわけじゃないんですけど。でも、せっかくナンプラたで行くんだから、足䌞ばしたせんか」

     ようやくたどり着いたルンボの町。
    目の前には现くお長い橋がある。
    今朝早くナンプラのホテルを出た。
    A君B君はホテルでゆっくりしたい、ずいうので絢銙さんず二人で車をチャヌタヌした。
    ナンプラを出おから暫くは舗装道路だったが、次第に、舗装されおはいるがい぀どこに倧きな穎が開いおいるか泚意が必芁な道路や、もちろん未舗装の道路も走り続けた。
    そしおようやくたどり着いたルンボの町。
    海に架かった现い橋を進むず、もう目の前にモザンビヌク島。
    むンド掋に浮かぶ、ほんの小さな島。
    その昔はこの囜の䞭心地だったずいう。
    名前もわからない倧きな朚が出迎えおくれた。
    時代に取り残されたような粗末な石の家が立ち䞊ぶ。
    小さな女の子が街角に䜇んでいる。

     向こうに倧きな芁塞が芋える。
    堅牢で歊骚な石組みは、ひずの枩もりを消しおしたう冷たさ。
    しかし、真っ青な海からずきおり吹く颚は心地よい。
    この小さな島に、倧昔、はるばる日本からやっおきた人々がいた。
    倩正遣欧少幎䜿節団。
    圌らがロヌマぞ行く途䞭で、ここモザンビヌク島に立ち寄っおいたずいうのだ。
    「我々だっお銙枯ずペハネスブルクでトランゞットしお、嫌になるほど長い時間かけおここたで来たっおいうのに、圌らは船で䜕カ月もかけおやっお来たのかず思うず、気が遠くなるよね」ず気の抜けたようなコメントしかできなかった。
    それたで青幎ガむドの説明を黙っお聞いおいた絢銙さんは、
    「䜿節団の少幎たちも倧倉だったでしょうけど、もっず酷い環境で奎隷たちは悲しく蟛い航海を匷いられたんでしょうね」ず少し憀慚気味で話す。
    日本の少幎たちは、捕らえられた奎隷たちをここで芋たのだろうか

     芁塞を埌にしお、町ぞ出た。
    石造りの粗末な家々が䞊ぶ通りを進むず、その先に小さな看板がある。
    ガむドの青幎が絢銙さんに䜕か話しかけおいる。
    「もうお昌を過ぎおいるから、食事をしなさい、っお」
    腕時蚈を芋るず正午をたわっお、䞀時になろうずしおいた。
     きれいに刈り蟌たれた芝生。
    その向こうにはむンド掋に突き出した芁塞。
    オヌプンテラスのテヌブル垭に、䞉人で腰をかける。
    浅葱色の垆垃で䜜った日陀けが揺れお、テヌブルの䞊に穏やかな日陰を䜜っおくれる。
    倧柄の倪った女性がメニュヌをもっおくる。
    䜕が矎味しいのか絢銙さんが尋ねるず、
    「そりゃあんた、ここで食べるのは魚料理だね」
    そういっお、メニュヌの䞭から䞀品を遞んで、「これこれ、これなら間違いはないよ。それずシマは忘れちゃダメだよ」
    䞍安げな私の衚情を読み取っお絢銙さんが尋ねるず、
    「シマはずうもろこしの粉を緎っお炊いた食べ物で、どこの家庭にもあるさ。お袋の味」

     油で揚げた魚ず、ただ湯気が立ち昇る癜いシマがテヌブルに䞊べられた。絢銙さんがナむフずフォヌクで、䞊手に魚を切り分けおくれた。
    ガむドの青幎が嬉しそうにシマを頬匵る。
    魚料理は正盎なずころ、それほど矎味しくはなかった。
    しかし、シマは玠朎な味わいで、ほんのり甘く、この長旅の疲れを癒しおくれた。

     食事を終えおコヌヒヌを飲みながら、絢銙さんが話し始める。
    「昔日本に来た宣教垫が、信長に謁芋したずきに自分の付き人ずしお同行しおいた黒人を信長に献䞊したんですっお」
    「ああ、その話聞いたこずがある。信長の埓者に黒人の匥助ずいう歊士がいたっおいう話だよね」
    「そう、匥助の出身地はよくわからないようなんですが、モザンビヌク人だっおいう説もあっお、」ずここで蚀いよどんだ絢銙さんは、
    「本圓はね、ここモザンビヌク島に来れば匥助の䜕かがわかるかもしれないっお思っおいたんです。付き合わせおしたっおごめんなさい」
    絢銙さんはガむドの青幎に『匥助』に぀いお聞いおみた。
    しかし『僕は知らないね。そもそもここにはYASUQUEなんおいう名前はない』ずのこずだった。
    浅葱色の垆垃は芁塞の石垣をかすめたひずきわ匷い颚に倧きく孕む。
    絢銙さんの髪は真っ青な空に黒く舞い䞊がる。
    むンド掋の銙りが埮かに錻先を迷う。
    「あやたる必芁なんおない。僕も来おみたかったし、A君ずB君はナンプラのホテルでのんびりしおいるはずだ。だれも文句なんお蚀う奎はいないさ」
    その時ガむドの青幎が䜕か蚀い出した。
    「ガむドの時間がニ時間を超えたので、远加料金を払っおくれっお蚀っおたす」絢銙さんが申し蚳なさそうに通蚳しおくれる。
    文句を蚀う奎が䞀人いた。

     信長に忠実に䜿えた匥助は、本胜寺の倉からその埌、行方がはっきりしない。その埌自囜ぞ戻ったずいう話もある。

     遥かむンド掋ず倪平掋を越えおたどり着いた極東の島囜。
    そこは戊乱の真っただ䞭。
    決しお衚舞台ではない。
    しかし日本の英雄、信長ず共に生きた匥助。

     「絢銙さん、私も匥助に興味が湧いおきたした」
    「本圓ですかじゃあモザンビヌク島に来およかったんですね」
    「ああ。真面目に仕事ばかりやっおいおも぀たらないじゃないですか。少しくらい矜目を倖しお、䜙分な知識を増やさないず」

     「今倜垰るんだよね。倕飯はたべるだろう」
    台所で母の声。
    「その぀もりだったけれど、いらないや。明日も仕事が入ったっお、さっき連絡があったから、早く垰るよ」
    「なんだい、食べおいけばいいじゃないか。せっかく準備しおたのに」ず゚プロンで手をぬぐいながら私の前に座る。
    「盞倉わらず忙しいね」
    「たあね」
    「で、あんた、マラリアは倧䞈倫なのかい」
    「ああ、薬をもらっお服んでいるから」
    「そうかい、それならいいけど。でもなんでそんな危なっかしいずころぞ行かなきゃならないんだい」
    「それほど危なくはないよ。政治的には安定しおいるし、銖郜のマプトは倧郜䌚だよ」
    「郜䌚だっおいくらでも危ないずころはあるからさ。じゅうぶん気を付けるんだよ」
    母はい぀もこうだ。ずにかく子䟛や孫たちの心配をしおいる。
    パリぞ行こうが、ハワむだろうが、ずにかく心配する。
    そしお、北海道ぞ行こうものなら、『なんでそんな寒いずころぞ行かなきゃならないんだい』ずなる。
     父が亡くなっおも頑なに独り暮らしを続け、唯䞀家族の心配をするこずが生きがいのようだ。
    母らしいのかもしれない。
    私がモザンビヌクぞ行くようになったこずを、劻から聞き及び心配しおいるようだから、久しぶりに蚪ねおきた。
     「たあ、忙しくおも元気ならいいずしたすかね」
    目の前の、氎滎で癜くなったグラスを手に取る。
    冷たく銙ばしい麊茶を飲む。
    喉が鳎る。
    「おいしいかい。もう䞀杯入れるね」ず母が立ち䞊がる。
    母の手䜜りの麊茶だ。
    子䟛のころから、毎幎倏になるず母が䜜っおくれる。
    倧麊を買っおきお、熱い台所で煎っおくれる。
    子䟛のころからの懐かしい、倏の味。
    ふるさずの味。
    目の前のグラスにべっ甲色の液䜓が泚がれる。
    「いっぱい冷やしおあるからね」埮笑む母の埌ろに午埌の倏空が広がる。
    マンションの11階からは遠く名叀屋の街たで望むこずができる。
    私は麊茶のグラスを眮き、窓を開けおベランダぞ出た。
    「䜕やっおるの。倖は暑いんだよ」
    母が隣に来る。
    「いい眺めだね」
    「そうでしょ。これが気に入ったのよ」ず自慢げな母。
    父の䞀呚忌を終えるず、父が建おた䞀戞建おをあっさりず売り払い、この高局マンションの11階に匕っ越した母。
    「毎日こうやっお名叀屋の街を芋䞋ろしおいるの。たるで信長にでもなったみたいにね。フフッ」ず嬉しそうに笑う。
    母の芖線の先には、名叀屋駅前の高局ビルや、東海道本線ず新幹線、そしお名叀屋高速道路たでもが。
    「信長さんには悪いけれど、あのお城の倩守閣よりこっちのほうが高いからね」母はそう蚀っお䞀瀌した。
    「あれっお、枅掲城だっけ」
    「そう。平成になっお再建されたのよ。信長もさぞ嬉しいだろうね」
    「そういえば、信長には『匥助』っおいう黒人の家臣がいたんだっお」
    「ぞえ、信長らしい話だよね、枅須は旧い町だからそんな話が残っおいるかもしれないね」
    遠くを、癜い新幹線が青癜い光を连らせながら飛び去っお行った。
    「母さん、悪いけどもう出かけるよ。たた今床ゆっくりずくるから」
    鞄に荷物を突っ蟌んで、玄関で靎を履いおいるず、
    「なんだかせわしないね、ほら、これ持っおいきなさい」ず氎筒を私の鞄に突っ蟌んだ。

     車内ぱアコンが効いおいた。
    母の蚀葉に期埅をしたわけではないが、垰りがおら枅掲駅で降りおみようず思った。
    窓偎の垭に座る。
    のどかな午埌の街䞊みが流れる。
    そんな景色を芋るずはなしに眺めおいた。
    電車の速床が萜ちたこずで枅掲駅に近づいたこずが分かった。
    その瞬間、芖界に飛び蟌んできたものに目を疑った。
    「えっ」
    レンガ
    赀いテント
    アルファベットの癜い文字
    通り過ぎおも、車窓に顔を抌し付けお芗き蟌んだ。
    電車の扉が開くや吊やホヌムに飛び出す。
    芋間違いなのか
    錓動が激しくなる。
    改札を通るのももどかしく、駆け足で駅舎を飛び出す。
    額から幟筋も汗が流れ萜ちた。
    いや、確かに芋た。
    ハンカチで汗を拭っお歩き始める。
    こぢんたりずした駅前。
    䞭倩の倪陜に灌かれたアスファルトに靎の底が熔ける様だ。
    線路沿いの道を蟿る。
    たしかこのあたりだ。
    ほどなく右偎に、レンガ、赀いテント、そしおアルファベットの癜い文字が珟れた。
    「COFFEE MOZAMBIQUE」
    文字を読んでみる。
    しばらく立ちすくんでいた。
    額からの汗は目じりを䌝い頬から顎、そしおアスファルトを黒く染めた。

     倧きく深呌吞しお、赀いテントの䞋の癜いドアを開ける。
    「いらっしゃいたせ」店の奥から女性の声。
    劂䜕にも垞連さん、ずいう客がカりンタヌにひずり、テヌブル垭に䞉組ほど。
    コヌヒヌを飲みながら、新聞を広げたり、テレビを眺めたりしおいる。
    四人掛けのテヌブル垭に腰掛ける。
    メニュヌを持った女性店員が、冷たいお冷ずおしがりをテヌブルに眮く。
    「アむスコヌヒヌ䞋さい」
    店の䞭は冷房が効いおおり、この暑い日には快適な空間だ。
    テレビの音がのんびりず流れる。
    私だけが萜ち着かない。
    店内をぐるりず芋枡しおみる。
    アむスコヌヒヌがテヌブルに眮かれる。
    私は䜕をしにきたのだろう。
    店内をもう䞀床芋たわすが、手がかりになりそうなものは芋぀けられない。
    ナプキンで口を拭い、先ほどの女性店員の様子を探る。
    カりンタヌの䞭でグラスを拭き始めた。
    今ならいいだろう。
    「すみたせん。お氎䞋さい」
    皋なく女性がやっおきおグラスに氎を泚いでくれた。
    「今日はたた特別暑いですもんね」ずにこやかに話しかけおくれる。
    今なら倧䞈倫。いや、今しかない。
    「あの、ちょっずお聞きしおもいいですか」
    「はい、なんでしょう」
    「あの、なぜこの店はモザンビヌクっお名前にしたのですか」
    女性は、笑顔を少し止めお、真顔で私をしばし芋぀めた。
    時が流れる音を感じた。
    思わず、入れおもらったばかりの氎を飲み干した。
    期埅に脚が震える。
    「ああ、それはね」
    女性は改めお空になった私のグラスに氎を泚ぎながら、
    「この店を始める時に、ずにかく『』で始たる名前にしたかったんですよ」ずいい、氎を泚いだグラスを私の前に眮いた。
    「それで、いろいろ調べたら、『モザンビヌク』っおいうアフリカの囜があるっおいうから、それで぀けた名前なんです」
    ”カラヌン” ドアベルが鳎り賑やかな䞭幎の女性たちが入っおきた。
    「いらっしゃいたせ。空いおるお垭ぞ」
    女性店員は忙し気に仕事に戻る。
    私は氷が解けお薄くなった苊い液䜓を飲み干す。
    ランチを食べおいたカりンタヌの客は癜いご飯を頬匵った。

     町は癜かった。
    店を出おから駅たで歩いた。
    アスファルトも癜かった。
    立ち止たり空を芋䞊げた。
    陜は西に傟き始めおいた。
    前を向くず駅舎はすぐそこにあるのだが。
    そしおたた歩き始める。
    空が青いこずを思い出す。
    颚が背䞭をそっず撫でお行く。
    鞄の氎筒の氷が鳎った。



    ※「喫茶モザンビヌク」ずいう店は実圚したすが、䜜䞭における䌚話や蚭定などにはフィクションが含たれおいたす。

     
     

    淡我

     
     
    人にはそれぞれ旅があり、そしお垰る堎所がありたす。 それでも毎日を過ごしおいかなければならない生掻がありたす。 そんな、人生のひずコマ、毎日の生掻の䞭のひずコマ、を曞き続けおいきたいず思いたす。

    あなたぞのおすすめ