メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【小説】視覚障害のおはなし ーあんまの仕事ー

    二人の仕事は、按摩。
    けれど私は、その響きが昔から好きになれなかった。

    幼い頃、テレビでは『座頭市』が流れていた。盲目の侍が杖を鳴らしながら歩き、敵を斬る。彼の生業もまた、按摩だった。

    ある日、近所の誰かが、何気なく両親のことを「あんまさん」と呼んだ。
    たったそれだけの言葉だったのに、胸の奥がひりついた。子どもながらに、そこには“普通とは違う人”を見るような響きが混じっている気がしたのだ。哀れみとも、見下しともつかない、冷たいものを感じてしまった。

    だから私は、「按摩」という言葉を聞くたび、どこか身を縮めていた。

    ――そんなふうに思ってしまう自分を、両親に対して申し訳なく感じながら。

    けれど、時代は今ほど優しくなかった。
    目の見えない人が生きていくために選べる仕事など、そう多くはなかったのだと思う。父も母も、その限られた道の中で、懸命に生きていた。

    そして父は、その世界で確かな成功を掴んだ人だった。

    店が最も忙しかった頃には、五人もの従業員がいた。
    按摩という仕事は、品物を仕入れる必要もなければ、大きな設備もいらない。ただ己の指先ひとつで、人の疲れをほぐし、信頼を積み重ねていく仕事だった。

    父の指は、不思議なくらい多くの客を呼んだ。
    「あの人に揉んでもらうと違う」
    そんな評判が町に広がり、店はいつも繁盛していた。

    だから、私たち家族は決して貧しくはなかった。

    いや、むしろ父は、人並み以上に豊かに生きていたのかもしれない。

    そして何より――父は、とても頭の切れる人だった。

    この記事が参加している募集

     
     
    大人の勉強方法・モチベーション維持・時間の作り方・図書館やカフェ・読書や勉強におすすめスポットなどを発信していきます。 趣味:カフェ巡り/図書館巡り/18キロ減量成功/資格取得/美容オタク/収納術... 好きな言葉:「自分がちっぽけに思えたら、その旅はきっと正しい」 HIS

    あなたへのおすすめ