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空に返した日


    わが家のレモンの木に、ナミアゲハが卵を産んだ。
    小さな幼虫を虫かごに入れて育てた。
    葉っぱを食べて、少しずつ大きくなって、やがてさなぎになった。
    そして今朝、羽化した。

    大きな羽根を広げている。
    まだ飛ばない。
    羽根が乾くのを待っているのだろうか。
    しばらくすると、いっぱいに羽根を広げ、
    わが家のベランダから飛び立った。
    夏の青い空に向かって
    私は、ナミアゲハが飛んでいった空を、ずっと見上げていた。

    ーーすると、ふいに思い出した空がある。

    25年前。
    娘が長い入院生活で病院の窓から見ていた空だ。
    窓の向こうに、四角く区切られた小さな空だ。
    「娘はいつ退院できるのかなぁ。」
    「私たちは、いつここから出られるのかなぁ。」
    あの頃の私は、そんな寂しい気持ちで空を見ていた。

    あれから25年。

    今日の私は、ナミアゲハが飛び立っていった、どこまでも続く空を見上げている。
    行きたいところへ行ける。
    会いたい人に会える。
    やりたいことができる。
    そんな毎日を、当たり前のように過ごしている。
    でも、当たり前じゃなかったんだなぁ
    、と深く思う。
    夏の青い空を見上げながら、
    今の自由な幸せを噛み締めた。

    そして、25年前――
    四角く区切られた小さな空の下で、必死に前を向こうとしていたあの頃の自分のことも、愛おしく抱きしめたいような気持ちになった。

     
     
     
    呼吸、声、命、余白。 日々の小さな感動を言葉にしています。 日々の生活を、 響きある旋律で繋ぎながら🍃

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