
第1章 妊娠①【奇跡のはじまり】
同棲して1年。結婚して、3ヶ月が経った頃。
ある日、私たちのところに、赤ちゃんが来てくれた。
結婚相談所で出会った私たちは、付き合う前から、子どもの話をしていた。
「子どもは授かりもの。できたら嬉しい。
でも、不妊治療までは考えてないかな」
正直、こういう話って、もっと関係が深まってからするものだと思ってた。
でも私たちは、結婚の意思を確かめ合う中で、自然とその話題にたどり着いてた。
彼が、言葉を選びながらも自分の気持ちをちゃんと話してくれたこと。
「それ、わかるよ」って、
私の想いにもちゃんと寄り添ってくれたこと。
あのとき感じたあたたかさと安心感は、
今でもすごくよく覚えてる。
「あ、この人には、本音を出して大丈夫なんだ」って、ふっと肩の力が抜けた気がした。
私は、人生で初めて付き合った人と結婚した。
だから彼と一緒に積み重ねていく毎日が、どれもこれも“はじめて”だった。
ちょっと怖くて、でも、それ以上に嬉しくて——
「いつか、自然に授かれたらいいな」って、思いながら過ごしていた。
その頃、
「もしかして妊娠したかも」って彼に話したら、「そういえば母さんが、なんとなくそんな気がするって言ってたよ」って、
ふと思い出したように教えてくれた。
直接言われたわけじゃないけれど、その言葉がじんわりと胸に広がって、
小さな期待が、そっと灯った気がした。
それからは、気づけばスマホで妊娠関連の動画を流し見したり、
「妊娠検査薬 いつから反応」なんて検索したりする時間が増えていった。
あの頃の私は、ほんの少し“検索魔”になりかけていたと思う。
でもまだ確信はない。
そんな日々を過ごすうちに、気づけばあっという間に時間が過ぎていた。
「今夜は焼き肉にしよう!」って決めていた日。
旦那さんが昼寝している静かな時間に、なんとなく「今だ」と思って、勢いで検査をしてみた。
検査薬を握る手が、ほんの少し震えていた。
どこかで「きっとそうだ」と思っていたけど、やっぱり少しだけ緊張してたんだと思う。
彼を起こして、そっと結果を伝えると、まだ夢の中にいるみたいな顔で
「ほんとに...?」ってつぶやいた。
笑ってたけど、それは嬉しさだけじゃなかった。たぶん戸惑いや、まだ信じきれない気持ちも混ざってたと思う。
検査薬って本当に信じていいの?っていう不安もあったし、
なにより、思ったより早く“次のステージ”が来たことに、ちょっとだけ驚いてる感じだった。
でもそのあとすぐに、
「なんかすごいね。」って小さく笑った彼の顔は、ちゃんと優しくて、
ああ、この人とだからこそ、今があるんだなって思った。
ウキウキしながら、近所の焼き肉屋さんまで歩く道の途中で、
「もし、赤ちゃんがいたらどんな名前にしようか?」とか、
「どっちに似るかな?」とか、
未来の話をいろいろと話し合った。
夜の風が気持ちよくて、
住宅街の静けさの中を歩くその時間が、
なんだかすごく尊く思えた。
まだ確信なんてなかったけれど、
心のどこかではもう、彼も私も、
この子の存在を信じはじめていたんだと思う。
数日後、初めて病院へ行った日。
真夏の、まっすぐな太陽が照りつける日だった。
コロナの影響で、彼は院内に入れなかった。
そんなこと、私たち二人とも知らなかったから、「じゃあ外で待ってるね」と言って、
彼は病院の近くのコンビニでブリトーを買って食べたり、
ベンチに座って時間をつぶしていたらしい。
「さすがにもうコンビニは入られなかったからさ。」
「家まで戻るのも違う気がして、ドンキに行ったんだよ。」
あとでそう聞いて、びっくりして笑ってしまった。
しかもそのとき買った車の芳香剤が、病院に戻ってきたときにはほとんど蒸発してたらしくて、
「なにこの2時間…!」って、ふたりで大笑いしたのを覚えてる。
2時間近く経って、ようやく名前が呼ばれた。
「おめでとうございます」
その瞬間、
「この子が、本当に来てくれたんだ」って、
じわっと実感が湧いた。
あの日から、私の中にもう一つの命がある日々が始まった。