
第4章 おはなと、いまを生きる①【言えなかった言葉と、伝わらなかった愛の記録】
育休が取れなかったので、
想像よりも早く、仕事に復帰することになった。
産後は、ほとんど家族と過ごしていたこともあって、初出勤の日は⸻
身体の奥がギュッと固まるくらい、緊張してた。
そんな私を、出迎えてくれた仲間たちは、
何も言わずに「おかえり〜」と自然に受け入れてくれた。
そのさりげなさに、私は救われたし、
そこに愛を感じた。
大好きなおはなの話を、
大好きな仲間に聞いてもらえると思うと嬉しくて、私は、つい勝手に、期待してしまっていた。
でも⸻
あっという間に過ぎていく時間の流れの中で、おはなのことを話す時間は、
どこにも見つけられなかった。
話そうとしたこともあったが、
気付けば、話題が思春期の子育ての苦労話しに変わり、
「くよくよしてたら娘が悲しむと思うよ」と励ましの言葉をもらった。
ありがたかったし、気を遣ってくれた優しさだってわかってる。
でも、欲しかったのは「アドバイス」じゃなかった。
私は、ただ、
おはなの話を聞いてほしかったんだ。
死産は、きっと世間的には“珍しくないこと”。
だけど私にとってはおはなは、“たったひとつの、大切な命”だった。
実際に経験しなければ、この痛みはきっとわからない。
同じ経験をしたって、環境が違えば、全く違う痛みになる。
感じる孤独だって、まるで別ものになる。
誰のせいでもないことは、ちゃんとわかっていた。
誰も悪くない。
でも⸻
それでも、私は傷ついてた。
私は、ただ⸻
おはなとの関係を、大切にしたかっただけ。
ただ、それだけだったのに⸻
その気持ちが伝えきれなかったことに、
私は、
静かに怒っていたんだと思う。
自分に?
周囲に?
「何に」って、はっきりは言えないけど、
胸の奥が、確かに、毎日ざわついていた。
私のチームのメンバーは、みんなそれぞれ大切な人を亡くしていた。
店長はおばあちゃんを。先輩は弟を。後輩はお母さんを。
だからこそ、私は自分だけがウジウジしてるような気がして、本当は話したかったのに、さらに何も言えなくなっていた。
「私だけが引きずってる」
「もう切り替えなきゃ」
でも、心は追いついてこなかった。
自分の痛みを自分で否定してしまったんだと思う。
本当はただ、話したかったんだ。
おはなのことを知ってほしかったし、
聞いてほしかった。
だけど、話すタイミングが見つからなかった。
日々の忙しさと、みんなの空気感の中で、私の気持ちを置く場所が、どこにも見つけられなかった。
そう気づいたとき、
私はそっと心を閉ざしてしまった。
話したくなくなったし、
話しても通じないと勝手に感じてしまった。
「もっと気軽に話せばよかったのに」って思う。
でも、あの頃の私にとって「話す」っていうシンプルなことが、どうしても選べない空気と気持ちの中にいた。
あれから、少しずつ、「あのとき話せなかった私」と一緒に、今を歩いてる気がしてる。
こうして書いているこの時間が、私とおはなとの、新しい関係のかたちになっていくのかもしれない。
笑える日はもちろんある。
でも笑ってるからって、大丈夫なわけじゃない。
しんどさを感じる日も、まだまだたくさんある。
わたしは今でも、おはなのことを考えすぎて、ふと頭が止まる日もある。
黄色い花や青空を見て笑顔になると同時に、
どうしようもなく、泣きたくなる瞬間もあるんだ。
それでも今日も、
私は生きている。
おはなと一緒に、
静かに、
確かに。