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第2章 出産と感情の回復③【「チームだよ。がんばろうね。」】

    葬儀の日取りが決まり、
    葬祭場へ見送るまでの少しの時間だけ、
    おはなと過ごせる時間が与えられた。

    小さなベッドの上に横たわるおはなを、
    夫婦でそっと囲んだ。

    まじまじとおはなを見たのは
    その時が初めて。

    「今にも起きるんじゃないかな」って思うくらい穏やかでかわいい顔をして、
    まるで、眠っているみたいだった。

    爪の形が私の家系と同じで、
    血の繋がりを感じて嬉しかった。

    おくるみをそっとめくって、
    小さな足を見た。
    ふわふわだった。

    足形を取るために、
    助産師さんがインクを用意してくれた。

    私たちは顔を見合わせて、
    「名前、どうする?」って静かに話しはじめた。


    「……波奈、がいいな」
    「うん。波奈にしよう」


    そのときの会話は、短くて、
    でも自然なものだった。

    名前をつけたのは、ごく自然な流れだった。

    「特別な理由」があったわけじゃない。

    でもきっと、
    “あなたはうちの子だよ”って
    伝えたかったんだと思う。

    一緒にいられるのは、ほんの少しの時間⸻
    そうわかっていたからか、
    涙より先に、何かをしなきゃという気持ちが先に立っていた。

    悲しみすらも、どこか置き去りになっていたような、そんな必死さがあった。

    胸の上で手を組むおはな。

    その手の上に、
    私と旦那さんは手重ねて
    写真を撮った。

    「チームだよ。がんばろうね。」

    いろんな写真を撮った中でも、
    かなりお気に入りの1枚だ。

    静かで、
    あたたかくて、
    愛おしくて。

    それでもやっぱり、
    苦しかった。


    病院で家族の宿泊は出来ないルールだったけど、「寝具は準備できないけど、旦那さんを呼んで一緒に寝てもいいよ」って言われた。

    「ひとりで考えたいこともあるのかな」とか、「ソファで寝かせるわけにもいかないし」とか、いろんな理由を並べて、
    私はなんとなく声をかけることをためらっていた。

    でも⸻ふとした瞬間に、
    「今、話すべき相手はきっと旦那さんなんだ」って思えた。

    聞いてみたら、すぐに行くよって言ってくれた。

    消灯時間がきて、電気切って、寝転がりながら旦那さんと話した。

    風が強い日で、空気口の蓋が開いたり閉まったりする音がバタバタバタと病室に鳴り響いていた。

    隣のソファに寝転がった旦那さんが、
    小さな声でぽつりとつぶやいた。

    「なんで俺、ずっと寝てたんだろうな……
    起きてれば、無理矢理にでも病院に連れて行けたのに。」

    その言葉で、彼もまた自分を責めていたことを私は初めて知った。

    「しかもさ、君が俺のこと恨んでるんじゃないかって思ってた。
    なんで何も言ってこないんだろう、って。」

    そんなこと、1ミリも思っていなかったので、
    びっくりした。

    まさか彼がそんなふうに思ってたなんて。

    私はただ、自分を責めていただけだったのに。

    そこから、
    お互いが抱えていたものをひとつずつ、
    ゆっくり出し合った。

    私は、自分の中に渦巻いていた自責の念を
    初めて言葉に出せた。

    彼はそれを、
    うんうんと頷きながら、
    最後まで聞いてくれた。


    「今回のこと、
    親としての責任は、五分五分だね。」


    そう言ってくれたとき、
    胸の奥にぎゅっと詰まっていた何かがふわっとほどけて、涙が出そうになった。

    この人と家族になれて、本当によかった⸻
    そんな気持ちが、じんわりとあふれてきた。

    私たちはずっと「家族はチーム」だと言っていた。

    依存ではなく、支え合う。

    一緒にいれば、もっと強くなれる。

    そんなチームを目指してきた。

    「チームとしては……」
    彼がぽつりとつぶやいたあと、
    少しだけ間を置いて続けた。

    「おはなも含めて、
    みんな、うまくやれなかったね。」

    彼がそう言って、私たちは少しだけ笑った。

    私は妊娠中、おはなに話しかけていた。

    「早く会いたいよ、来てくれてありがとう。
    ……でも母もちょっと不安でね、一緒に成長していこうね」

    もしかしたら⸻
    その“ちょっと不安”っていう気持ちが、重かったのかな。
    それが嫌で、行っちゃったのかな。

    ……そんなことを思うと、どうしようもなく悲しくなるけど、真実はわからない。

    事故だったのか、
    不運だったのか。
    それとも、おはなの意思だったのか。

    ただひとつ確かなのは、
    わからないままってこと。

    それが、
    悔しくてたまらない。


     
     

    heteru

     
     
    死産を経験し、おはなとの物語を書いた先で、 私自身がどう生きていきたいのかを模索しています。 家族との時間も、社会とのつながりも、 自分の表現も。 どれも諦めずに生きていく、 その途中を綴っています。 娘・おはなとの物語 「私とあなたとおはなちゃん」も公開中。

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