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第3章 産後と意味づけの時間①【おはな胎盤つんつん説と、命の線】

    私はどん底まで気持ちが沈んだまま、流れに身を任せて過ごしていた。

    でも、旦那さんや助産師さんとたくさん話すうちに、悲しみだけじゃない感情が生まれてきた。

    「なんで、こんなことになってしまったのだろう?」

    そう思うようになってきた。

    死産届に記載されていた原因が「常位胎盤早期剥離」だったと、旦那さんが教えてくれた。

    そのことを初めて聞いたときの私は、
    おはながいなくなった悲しみに沈んでいたので、
    あんまりピンと来なかったが、

    「お前も死ぬ可能性が11%もあったって知って、本気で怖くなったよ」
    と言ってくれたのを思い出した。


    『常位胎盤早期剥離』


    これは、本来は赤ちゃんが生まれたあとに自然に剥がれるはずの胎盤が、出産前に剥がれてしまう状態のこと。

    (正常な位置に胎盤があるにもかかわらず、なぜか剥離してしまう)

    妊婦さん100〜200人に1人くらいの割合で起こるとされていて、
    重症の場合は大量出血を引き起こし、
    母体が命の危険にさらされることもある。

    胎盤は赤ちゃんに酸素や栄養を届ける大事な役割を担っているから、途中で剥がれてしまうと、赤ちゃんにも深刻なリスクがある。

    ⸻そんな状態だったみたい。

    おはなと私は、こんなヤバい症例に当たってしまったのだ。

    でもなんで、私の胎盤は剥がれてしまったんだろう?

    なんで、私も死ぬかもしれなかった症例なのに、私はこんなに元気なんだろう?

    私の考察が始まった。

    きっと胎盤が急にベリッと剥がれたら、
    大量出血するに違いない。

    (おそらく私の胎盤は少しずつゆっくり剥がれていったのではないだろうか?)

    (ではなんで、胎盤がゆっくりと剥がれてしまったのだろうか?)

    そういえば、オプションの3Dエコーを撮ったとき、「顔が胎盤に隠れてて見えないね〜」って言われて、撮影に時間がかかった。

    ……ってことは、
    きっと顔のすぐそばに胎盤があったってことだ。


    (胎盤、、、胎盤、、、胎盤、、、)

    (そういえば!)

    (検診のときに、初めて人間の顔ってわかるエコー写真が撮れたとき、アフロみたいなモフモフ、
    あれって…胎盤だったのかな?)

    慌ててエコー写真を確認した。

    おはなのあの表情。

    思い返してみると、なんだかおかしくて笑ってしまった。

    おかしさと一緒に、ふいにこみ上げるような愛しさも込み上げてきた。


    「おはな!あいつ!胎盤を枕にして寝てたんじゃないかな?!!」


    「おい、ちょっと!枕にしてんのそれ、母との大事な命綱なんだぞ〜!」


    ツッコミたくなるくらい、おはなの表情は満足げだった。

    調べたら、ママさんブログで「胎盤はレバーみたいだった」と書いてあった。胎盤って、実はふわふわぷにぷにしてるらしい。


    私は、確信した。

    きっとおはなは、
    気持ちよすぎて胎盤をつんつんしてたんだ。

    これが、私が考えた「おはな胎盤つんつん説」。


    後日、胎盤を調べてもらったけど、なんで胎盤が剥がれてしまったのかわからないことがわかった。

    原因がわからなかったとしても、こんな想像ができたことで、おはなとの時間が少しだけ増えたような気がして、嬉しかった。


    おはな胎盤つんつん説の他に、もうひとつ、思い当たることがある。

    おはなを取り上げてくれた助産師さんが言っていた。

    「へその緒が、たすき掛けのように体に巻きついていたんです」

    それを聞いたときは、
    「ああ、そんなこともあるんだな」くらいにしか思っていなかったけど、

    少しずつ心の余裕が戻ってくる中で、私はまた
    “なんで?”を考えはじめた。

    妊娠中、母親学級で助産師さんに教えてもらった言葉が強く印象に残っている。

    「陣痛は、痛くてお母さんが力んでしまうと、赤ちゃんも苦しくなるって言われているの。

    だから、息をゆっくり吐いて、力を抜いてあげると、赤ちゃんにも酸素が届いて、赤ちゃんも楽になるんだよ。」

    あの日の夜、
    私は、お腹が痛むたびに、
    おはなと呼吸を合わせていた感覚がある。

    大好きなGLAYの曲を聴きながら、
    「おはな、いくよ」
    「がんばろうね」って、声をかけて。
    お腹が張るたびに息を吐いて、力を抜いて。
    おはなと一緒に頑張っていた感覚。

    だからふと思ったの。

    もしかしたら、私が頑張りすぎちゃったから、おはなも頑張りすぎちゃったのかもしれないなって。

    もしかしたら、たすき掛けになってしまったへその緒がすごく短くなっていて、

    もしかしたら、本当は子宮口まで届かなかったのに、

    もしかしたら、それでも、おはなが「でるよー!がんばるよー!」って向かってきてくれたのかもしれない。


    勝手な想像なのはわかってる。

    けど、もしかしたら、そのときにへその緒が引っ張られすぎて、胎盤が剥がれてしまったのかもしれない。

    ⸻なんて、そんな想像までしてしまった。

     

    真実なんて、きっと誰にもわからない。
    おはな自身だって、わからないかもしれない。

    でも、ひとつだけ言えるのは、

    あの時間、
    たしかに私は、
    おはなと一緒にいたんだってこと。

    呼吸も、
    鼓動も、
    頑張りも、
    ちゃんとつながっていた。

    ⸻母子って、ほんとうに不思議なくらい、
    近いんだね。


    だからね、おはな。
    胎盤はつんつんしてもいいけど、やりすぎはホントに注意!

    へその緒も、母と子をつなぐ、大切な命の線なんだ。

    もし、またお腹に来てくれたら、

    今度はもっと、おはなが安心して過ごせるように、母もしっかり準備して待ってるね。


     
     

    heteru

     
     
    死産を経験し、おはなとの物語を書いた先で、 私自身がどう生きていきたいのかを模索しています。 家族との時間も、社会とのつながりも、 自分の表現も。 どれも諦めずに生きていく、 その途中を綴っています。 娘・おはなとの物語 「私とあなたとおはなちゃん」も公開中。

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