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第2章 出産と感情の回復① 【陣痛の夜⸻命との出会い、そして別れた日】

    前日の夜から、お腹が張ってきてあまり眠れなかった。

    そのまま朝を迎えた出産予定日の検診では、
    助産師さんに「痛みのない張りは、まだだね」と言われた。

    先生にも
    「急に進む可能性はあるけど、子宮口がほとんど開いてないから、まだだね」と言われた。

    とにかく、
    “異常なし”だった。

    予定日を1日過ぎたその日の夜も、
    お腹が張って一睡も眠れなかった。

    規則性ないお腹の張りが続いていて、
    とにかく耐えたっていう記憶。


    深夜2時くらい。


    おしるしかな?って思うような血が出た。

    そのあと、大判のナプキンを何枚も取り替えた。数えてないけど、5枚は軽く超えてたと思う。

    「ちょっとおかしいかも」

    そう思って、病院に電話したのはこのタイミングだった。

    不安はあったけど、

    「きっとまだ大丈夫」
    「ちゃんと準備できてるし」

    そうやって、自分に言い聞かせていた。

    あとになって思い出すたびに、
    あのときの“軽く見てしまったかもしれない”感じが、胸の奥をざわつかせる。

    ⸻あれが、
    すべての始まりだったのかもしれない。

    今思えば、あの時点でもっと真剣に
    “異常かもしれない”と受け止めるべきだった。
    そう、本気で思ってる。


    気づけば窓の外が明るくなっていて、
    もう朝だった。

    やっぱりまだちゃんと陣痛カウントが取れなくて、もう一度、病院に電話した。

    「もうすぐ会えるんだ」って舞い上がっていたんだと思う。

    呼吸を整えようとしたら、少し痛みが落ち着いたのを感じた。

    病院が開いたら診てもらう予定だった。

    旦那さんが起きてきて「寝てないの?」って声を掛けてくれて、

    「そうなの〜」ってやりとりしながら、2人でなんとなくめざましテレビをつけてた。

    のんびりした朝の光景に、私はどこか現実感がなかった。


    急に、
    ウンチが出てきたような感覚があった。
    ズズッて感じ。

    嫌な予感がして、
    再度、病院に電話した。

    「ウンチかもしれないんですけど、赤ちゃんかもしれないと思って......
    こんなこと、ありますか?」

    「気になるなら一度診ましょう。すぐに来てください。」

    病院までは車で10分かからないくらいの距離。

    車まで、
    ゆっくり、ゆっくり移動した。

    出勤時間の渋滞や信号待ちで、いつもより少し時間がかかっていて、

    運転する旦那さんがイライラする車の中、
    私は、裂けるような痛みを感じていた。

    今思えば、あのときが“出産のピーク”だったのかもしれない。

    「出産は鼻からスイカが出るようだ」
    なんて例えがあるけど、ほんと、そんな感じで。

    出口に向かっておはなが押し出される感覚に、
    ただただ必死だった。

    でも、現実感がなさすぎて、
    頭はまったくついてこない。


    病院に着いたとき、
    車椅子を持った助産師さんが緊迫した空気で待っていた。

    電話では「念のため、診てみましょうか?」と言われていたから、

    その真逆ともいえるピリッとした空気に、
    私は言葉にできない違和感を覚えた。

    (え、やっぱり、おはななのかな? 
    でも、もしウンチだったらどうしよう……)

    痛みは確かにすごかったけど、
    私はまだ“出産”っていう現実を受け入れきれてなかった。


    ただただ、混乱してた。


    そのまま分娩室へ。

    「早く脱ぎなさい!」って言われて
    ズボンを脱いだ瞬間、
    視界に飛び込んできたのは、おはなの頭。

    「ぎゃー!」って心の中で叫んだ。

    ほんとに叫びたくなるくらい、
    信じられない光景だった。

    すぐにベッドへ移動したら、
    おはなは、つるんと出てきてくれた。

    何十時間も苦しむ陣痛を想像してた私にとって、あまりにも一瞬の出来事で。

    「え?もう?」って、
    拍子抜けするくらいだった。


    でも、
    おはなが泣かなかった。


    その異常に、私はすぐに気づいた。


    体の震えが止まらなくなった。


    頭はやけに冷静で、

    「なんか…取り返しのつかないことになったかもしれない」って、
    どこか他人事みたいな感覚で思った。


    旦那さん、
    お母さん、
    おばあちゃん......

    楽しみに待っててくれている人たちの顔がよぎった。


    おはなは息をふき返すと信じてた。


    「大丈夫だからね」って声を掛けてもらったり、


    産後処置をしてくれた顔馴染みの先生が
    「早期剥離だね」って言ったのが聞こえた。


    状況がバタバタしている中、
    「15分」って聞こえた時に、
    おはなに障害が残る心配も出てきて怖くなった。


    それから少し経った後に、


    助産師さんのすすり泣く声が聞こえてきて、
    カーテンが閉められた。


    ダメだったんだって、
    このタイミングで理解した。


    旦那さんが来てくれた。


    おはなを抱っこした。


    おはなの顔が穏やかですごくかわいかった。


    3人で写真も撮ってもらった。


    あっという間に、過ぎた時間だった。


    でもそれは、
    私の人生でいちばん濃くて、
    いちばん切なかった⸻

    命との時間だった。


     
     

    heteru

     
     
    死産を経験し、おはなとの物語を書いた先で、 私自身がどう生きていきたいのかを模索しています。 家族との時間も、社会とのつながりも、 自分の表現も。 どれも諦めずに生きていく、 その途中を綴っています。 娘・おはなとの物語 「私とあなたとおはなちゃん」も公開中。

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