
小学生時代、双子の姉とピアノ演奏デスマッチさせられた話
私と姉は双子である。姉の名前は仮にアネクマとしよう。
双子というのは常にお互いが理解者なので心強い反面、我々の地元は田舎だったので億劫な面も多々あった。
一番辟易したのは、大半の人たちは私たちの見分けがつかないし、別人格とも認識していないことだ。周りの苦労も察するが、少なくとも私はこれで地味にメンタルを削られていた。
例えば母が、「アネクマはこれが良いの?じゃあこれにしよう!」と言えば、私には自動的に同じか色違いのものが与えられた。
そんなことが日常茶飯時だったわけだが、その中でも断トツに人格を無視された事件が起きた。
ある年、我々の小学校に新しい音楽の先生が赴任してきた。
名前をM川先生といった。
面倒なのでもうM川としよう。
彼女は卒業シーズンになると、授業中に突然「んスマイラゲンッッスマイラゲンッッわらぁってみせてぇええ〜」と涙ぐみながら弾き語ったりしていた。
また当時、「女子十二楽坊」という中国の伝統楽器を演奏するユニットが大流行していたのだが、いきなりお気に入りの生徒を集めて、「君たちは今日から、『男女リコーダー楽坊』でぇえす!」なんて言い出したこともある。
何でも、放課後に集まって練習し、定期的に演奏を披露するクラブ活動のようなものを発足させたかったらしい。
もちろん部員は5秒で全員脱退した。
小学生だって、友達と遊んだり、ゲームや漫画を嗜んだり、はたまたお昼寝をしたり、大変多忙なのである。
ちなみに、その後M川は校長に「勝手なことをしないで下さいっ💢」とお叱りを受けたそうだ。当たり前である。
そんなM川の魔の手が、ついに我々にも及ぶことになる。
我々は幼少期からピアノを習っていて、二人ともそこそこ腕が良かった。
腕がそこそこのピアノの弾き手は珍しくなかったはずだが、我々は腕がそこそこの、しかも双子だったので、無暗に存在を知られてしまっていた。
そのため、M川が目をつけたのもある種必然だったかもしれない。
ある日、M川は我々双子を呼び出してこう言った。
「二人とも!今度の校内のイベントでピアノを弾く人を決めたいから、練習してきてもらえない?」
課題曲は、魔女の宅急便の挿入曲の「仕事はじめ」だった。
今思うと私も鈍いのだが、どういう風に決めるのかな?と思いながら、二人とも何となく普段の練習のついでに「仕事はじめ」も練習した。
ほどなくして、M川にまた呼び出されたので音楽室に向かったところ、今度はこう言われた。
「はい!じゃあ弾いてみて!」
???
とりあえず二人で順番に弾いてみた。
演奏が終わると、M川は我々にこう言った。
「演奏はアネクマさんにしよう!あ、イコクマさんは帰って良いよ!お疲れ様☆」
当時の私の心情をお分かり頂けるだろうか。
そりゃ、デスマッチ(オーディション)だったのだから、努力が実らないこともあるだろう。
でも、私はほんの10歳で、しかも勝手に指名されて練習して来いと言われ、急にもう来なくて良いと言われたのだ。
M川からすると「双子のうち一人受からせたしプラマイゼロでしょ☆」かもしれないが、落とされた方は当然そんな風には思わない。
姉は選ばれて残されたので、仕方なく一人でトボトボと帰った。デスマッチのせいで遅くなり、友達も帰ってしまっていた。
涙が勝手に出てきた。
いつもより薄暗くなってしまった田んぼ道も、冷え切った風も、音楽室から追い出された私を受け入れる気は無いようだった。
…が、このまま泣き寝入りで終わったのかと言うとそうではない。それを許さなかった人物がいた。
母である。
最初に触れた通り、母も私と姉をひとまとめに扱っていた。だが、ひとまとめだったからこそ、勝手に我が子同士でデスマッチさせられ、一人は演奏者に抜擢されたとて、もう一人は落とされたとなると、マイナスが勝ったのだろう。
ちなみに彼女はフルタイムで働いていて、いつも帰りが遅かったため、この日に初めて事態を知ることになったと記憶している。
なお、それまでに私が泣いて帰ってきたのは、小学一年生の頃に評判の悪い同級生がふざけてぶん投げた石が頭に直撃した日だけである。母からしたら、そんな我が子が三年ぶり二度目に泣いて帰ってきたのだから、只事ではないと思ったらしい。
彼女の剣幕はそれはそれは凄いものだった。
学校への電話に向かって「qあwせdrftgyふじこlp💢💢💢!!!」と、何語か分からないほどにとにかく怒鳴り散らしていた。
私はもう一度泣いた。
翌日、死んだ目のM川から「…イコクマさん、昨日はごめんね。あの、『仕事はじめ』のベースラインを担当してもらえるかな…。」と言われた。
正直、M川にもう関わりたくなかったし、お情けだしベースラインなんて面白くもないな…と思ったが、せっかくの母の心意気なので受け取らないのも野暮である。私は引き受けることにした。
当日は演奏も無事済んで万々歳だったが、未だにあの「仕事はじめ」の朗らかなヘ長調の旋律が聴こえてくると、M川と母の狂気がフラッシュバックしてきて何とも言えない気持ちになるのだった。
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