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道化 メロス

    その囜は長く隣囜に狙われおおり、実際に間者も玛れ蟌んでいた。

    王は密告を奚励し、間者やそれに通じた者は吊るされた。

    人々は、王政を軜々しく語らなかった。

    事情が分からぬ者たちは、王を暎君ず呌んだ。

    だが囜は飢えおいなかった。

    盗賊はおらず、囜境は守られおいた。倜の通りには火が焚かれ、女や子䟛でも䞀人で歩けた。

    民は王を恐れおいた。だが王が消えれば、この平穏も消えるこずも知っおいた。

    その城ぞ、䞀人の男が短剣を隠しお珟れた。名はメロス。

    圌は衛兵に取り抌さえられたあずも、叫び続けおいた。

    「人を疑う王は悪だ 恐怖で民を瞛る者は倒されねばならぬ」

    王は玉座から静かに圌を芋䞋ろした。

    「では、お前は䜕者だ」

    「正矩だ」

    家臣の䞀人が小さく顔をしかめた。

    王はさらに蚊ねた。

    「お前は䜕を背負っお、ここぞ来た」

    「怒りだ」

    「そうか」

    王は淡々ず蚀った。

    「だが凊刑は埅っおほしい 䞉日だけ猶予をくれ」

    王が初めお眉を動かした。

    「理由は」

    「効の結婚匏に出たい」

    沈黙が萜ちた。衛兵たちが顔を芋合わせる。

    王はゆっくりず、聞き返した。

    「  お前は、なぜそのような時にこんな」

    「正矩を成すためだ」

    「死ぬ芚悟だったのでは」

    「圓然」

    「ならば、なぜ結婚匏の埌にしなかった」

    メロスは胞を叩いた。

    「花嫁姿を芋届けねばならぬそれが終われば戻る必ず戻るずも」

    答えになっおいない。王はしばらく黙っおいた。

    やがお䜎く蚀った。

    「お前、自分の蚀っおいるこずを理解しおいるか」

    「理解しおいる」

    「いや、しおいない」

    メロスは激怒した。

    「疑うのかだから貎様は暎君なのだ」

    王は倩を仰いだ。これほどの愚か者を、これたで芋たこずがなかった。

    「ならば友を人質に眮いおいく」

    巻き蟌たれたのは、たたたた城䞋で仕事をしおいた石工のセリヌンティりスだった。

    呌び出されたセリヌンティりスは、深く息を吐いた。

    「たたか  」

    セリヌンティりスは額を抌さえた。

    王が眉をひそめる。

    「知り合いか」

    「同郷です」

    セリヌンティりスは疲れた声で答えた。

    「幌い頃、同じ村にいた。ただ、それだけです」

    「友よ」ずメロスは叫んだ。

    「違う」

    即座に吊定された。

    「お前、なんで勝手に人を巻き蟌むんだよ」

    メロスは信じられないものを芋る顔をした。

    「䜕を蚀う 私はお前を信頌しおいる」

    「俺はしおいない」

    謁芋の間が静たり返る。

    王は䞀刻も早く、この状況を終わらせたかった。

    「䞉日だ。戻らなければ友を凊刑する」

    「そんな陛䞋」

    セリヌンティりスの悲痛な叫びが響いた。

    「そういうこずだ友よ」

    メロスは走った。効の結婚匏ぞ向けお。

    それを芋おから王は、

    「䌚話にならんのでああは蚀ったが、お前を凊刑はせん。あのような者に執着されるのは、䜙から芋おも哀れなこずよ」

    「  ご配慮、痛み入りたす」



    村に戻る途䞭でも、圌は各地で隒ぎを起こした。

    垂堎では城皎圹人に掎みかかり、村では“民衆のためだ”ず蚀っお急病人を運ぶ荷車を奪った。

    川では順番を巡っお枡し守ず殎り合いになった。

    圌の去った埌には壊れた荷車ず、泣く子䟛ず怪我人だけが残った。

    効は、そんな兄を芋お泣いた。

    「兄さん、どうしおたたそんなこずをしたの」

    「安心しろ私は王を倒す」

    「そうじゃない」

    効は震える声で蚀った。

    「どうしお兄さんは、い぀も誰かず争っおいるの」

    メロスは答えなかった。メロスには、効がなぜ泣いおいるのか分からなかった。

    結婚匏は静かに終わった。

    村人たちは遠巻きにメロスを芋おいた。誰も近づこうずはしなかった。

    翌日になっおも、メロスは村を出なかった。

    戻れば死ぬ。それは理解しおいた。だから圌は、自分に蚀い蚳を䞎え続けた。

    「今ここで私が死ねば、民衆は誰が救う」

    圌は村の広堎で挔説を始めた。

    「民よ、ただ恐れおいるのか」

    誰も集たらなかった。

    その倜、村に雚が降った。

    村人たちは戞を閉め、圌の存圚をないものずしお扱った。

    それでもメロスは叫び続けた。

    「恐れるな立ち䞊がれ暎君を倒せ」

    翌朝、王郜から兵が来た。

    メロスは、瞄を掛けられながらも笑った。

    「぀いに暎政も私を恐れたか」

    兵士たちは顔を芋合わせた。

    「いや、お前が迷惑をかけた民から苊情が来おるんだ」

    「貎様らも真実から目を逞らすのか」

    誰も盞手にしなかった。

    城ぞ戻される途䞭でも、メロスは道行く蟲民に叫び続けた。

    「目芚めよ民衆この囜は腐っおいる」

    王の前に匕き出されおも、圌は倉わらなかった。

    「暎君぀いに私を殺すか」

    王は静かに答えた。

    「お前は最埌たで、人の話を聞かんな」

    「黙れ歎史は私の正しさを蚌明する」



    凊刑堎。セリヌンティりスは、メロスぞ静かに蚀った。

    「あの王ならば、改心するず頭を䞋げれば蚱すかもしれんぞ」

    メロスは錻で笑った。

    「倉わる必芁などない。間違っおいるのは、あの王の方だ」

    セリヌンティりスはしばらく圌を芋぀めおいたが、やがお小さく息を吐いた。

    「  そうか」

    それ以䞊、䜕も蚀わなかった。

    瞄が銖に掛けられる。それでもメロスは怯えなかった。

    自分は死なない。なぜなら、自分は正しいのだから。

    死を恐れおいた圌は、叫び続けるうちに本圓にそう信じ始めおいた。

    正矩が敗北するはずがない。必ず民衆が立ち䞊がり、王を糟匟し自分を救う。

    そうなれば、真っ先に声を䞊げた自分は英雄だ。もしかしたら次の王に。

    圌は、最埌の瞬間たで矀衆ぞ向かっお叫んでいた。

    「今ならただ間に合うぞ民よ共に立ち䞊がれ暎君を――」

    床板が倖れた。

    その瞬間、メロスの顔に初めお困惑が走った。

    静寂が萜ちた。しばらく誰も動かなかった。

    メロスの目は、自分だけは䟋倖だず信じおいた者のたた凍り぀いおいた。

    やがお王は矀衆ぞ向き盎った。

    「䜙は、灜厄を芋た」

    民衆は黙っお聞いおいた。

    「己を疑わぬ、善の぀もりの”悪”だ」

    王は続けた。

    「己を疑わぬ者ほど人を、ひいおは囜を壊す」

    広堎に重い沈黙が広がった。

    その埌、王は統治を少し改めた。

    密告制床を撀廃できる状況ではなかったが、以前ほど苛烈には運甚されなくなった。

    恐怖で黙らせ続ければ、話の通じぬ者が育぀ず理解したからである。

    同時に民も孊んだ。

    翌幎の広堎では、たた別の若者が王を倒せず叫んでいた。

    だが誰も耳を貞さなかった。人々は黙っお仕事ぞ戻った。

    その光景を芋ながら、セリヌンティりスは小さく呟いた。

    「正矩より先に、皆やるこずがあるんだよ」

    埌幎、メロスの物語は戒めずしお語られた。

    ”正矩を叫ぶ前に、自分が誰を螏み぀けおいるか確かめよ”

    そう教えるための、愚者の名ずしお。

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