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月刊『ゆら健康通信』2026年7月号~夏は、心(しん)がいちばん働く季節〜冷やしすぎと、ほてりのあいだで〜

    こんにちは。ゆら院長です。

    暦の上では、7月7日ごろに小暑(しょうしょ)を迎え、7月22日ごろの大暑(たいしょ)へと、一年でいちばん暑い季節に入っていきます。梅雨が明けて、空気が一気にじっとりと重くなる。あの感じが、いよいよ始まりますね。

    先日、こんなことをおっしゃる方がいらっしゃいました。40代の女性で、慢性的な肩こりで通ってくださっている方です。

    「先生、冷房のきいたスーパーから炎天下に出た瞬間に、どっと疲れるんです。夜も、あんなにくたくたなのに、なぜか目が冴えて寝つけなくて。夏バテかな、気のせいかなって思うんですけど」

    この「気のせいかな」という一言に、私はいつも少し立ち止まります。というのも、夏の不調は、決して気のせいではないからです。

    今月は、「冷やしすぎとほてりのあいだで揺れる、真夏の身体の整え方」をお届けします。夏本番の身体を、一緒に整えていきましょう。

    猛暑の屋外と、冷房のきいた室内。この極端なあいだを行き来しながら、私たちの身体はずっと体温を調整し続けています。その調整をになう自律神経が、夏はいちばん働かされる。そして東洋医学では、この時期にもっとも働く臓を「心(しん)」と呼んできました。今日はそのお話です。

    簾と朝顔のある夏の朝の窓辺。レースのカーテンが風に揺れる情景

    🌡️ 特集① 熱がさばけない 〜夏の入り口が、いちばんバテる〜

    うちわであおぎ汗をぬぐう、かわいいキャラクターのイラスト

    まず、暑さそのものの話から。

    私たちの身体には、体温を一定に保つための、とてもよくできた冷却システムがあります。暑さを感じると、自律神経が皮膚の血管を広げて血液を体表に集め、汗をかいて、その汗が蒸発するときの気化熱で熱を逃がす。打ち水と同じ原理ですね。夏のあいだ、この仕組みはほとんど休みなく動いています。

    ところが、汗をたくさんかくと、水分と一緒に塩分(ナトリウムなどのミネラル)も失われていきます。すると身体の中の環境が乱れて、細胞がうまくエネルギーを作れなくなる。これが、夏バテ特有のあの「重だるさ」の正体のひとつです。

    ここで大事なことを、はっきりお伝えしておきます。夏のだるさは、気のせいでも、怠けでもありません。 あなたの身体は、汗をかき、血管を広げたり縮めたりしながら、文字どおり全力で暑さと闘っている。その働きぶんだけ、疲れているんです。

    汗と血管で身体の熱を外へ逃がすしくみを説明する図

    なぜ「夏の入り口」がいちばんきついのか

    意外に思われるかもしれませんが、真夏のピークよりも、梅雨明け直後のほうが体調を崩す方が多いんです。

    環境省の資料でも、梅雨の合間に急に気温が上がった日や、梅雨明けの蒸し暑い日に熱中症が増えるのは、身体の「暑さへの慣れ」が追いついていないことも影響している、と説明されています。この「暑さに慣れること」を、専門的には暑熱順化(しょねつじゅんか)と呼びます。

    身体が暑さに慣れてくると、汗をかき始めるタイミングが早くなって早めに冷却が始まり、しかも汗に含まれる塩分が減って、大事なミネラルを失いにくくなります。とても合理的な"夏仕様"への衣替えですね。でも、この衣替えには数日〜1週間ほどかかります。だから、梅雨が明けて急に暑くなる小暑のころは、まだ身体の夏支度が間に合っていない。ここがいちばん、バテやすいわけです。

    「危険」と「アラート」は別物

    外に出る目安として、暑さ指数(WBGT)という数字があります。気温だけでなく、湿度や日差しまで含めて「暑さの危険度」を表したものです。ざっくりとした運動の目安は——

    ■ WBGT 31以上 → 危険。運動は原則中止
    ■ WBGT 28〜31 → 厳重警戒。激しい運動は避け、こまめに休息
    ■ WBGT 25〜28 → 警戒。積極的に休息と水分を

    ひとつ、混同しやすいので添えておきます。ニュースで聞く「熱中症警戒アラート」は、日最高暑さ指数が33以上と予測されるときに発表される、別の基準です。「31=運動の目安」と「33=アラート」。数字が近いので、ごっちゃにならないようにしておくと安心です。

    暑さ指数の目安を示すメーター図。31以上が危険、33以上で警戒アラート

    🌀 特集② 冷えと、眠れなさ 〜自律神経は、真冬と真夏を往復している〜

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    さて、夏の不調は「暑さ」だけではありません。むしろ現代の夏は、冷房による冷えと、その温度差が、身体を静かに削っていきます。

    たとえば冷房のきいた室内が25度前後、一歩外に出れば35度。その差は10度にもなります。私たちの自律神経は、この落差を、一日に何度も乗り越えなければなりません。血管を縮めたり広げたりを、そのたびに繰り返す。5月号で自律神経を「調光スイッチ」にたとえましたが、夏はそのスイッチを、真冬と真夏のあいだで一日じゅう切り替えさせられているようなものです。

    これが積み重なると、自律神経の調整そのものが疲れてきます。「夏なのに手足が冷える」「なんとなくだるい」——こうした不調は、決して大げさなものではなく、この往復疲れとして説明できるんです。思い過ごしではなく、身体が実際に消耗しているサインなんです。

    猛暑と冷房のあいだを行き来して疲れる自律神経を表した図

    ぐったりなのに、目が冴える

    そしてもうひとつ、夏の大きな悩みが睡眠です。

    質のよい眠りに入るには、身体の芯の温度(深部体温)が、すーっと下がっていく必要があります。眠くなると手足がぽかぽかするのは、そこから熱を逃がして芯を冷ましているサインなんですね。

    ところが熱帯夜で室温も湿度も高いままだと、この熱がうまく逃げず、芯の温度が下がりきりません。すると、身体はへとへとに疲れているのに、神経は高ぶったまま。「ぐったりなのに、目が冴える」という、あのつらい状態に陥りやすくなります。寝つけない、夜中に何度も目が覚める。そしてその睡眠不足が、また自律神経の乱れにつながっていく。夏の負のループです。

    眠れる夜と眠れない夜を比べたイラスト。芯の温度が下がると眠りやすいことを示す図

    🌿 特集③ 夏の臓"心"を、手首で落ち着ける

    ここからは、東洋医学の視点で夏を眺めてみましょう。

    東洋医学では、季節を五つの性質(五行)に分けて考えます。夏はそのなかで「火」の性質を持ち、五臓では「心(しん)」と深く結びつくとされてきました。

    この「心」は、西洋医学でいう心臓とはすこし違います。血液を全身にめぐらせる働き(血脈)だけでなく、意識や感情、そして眠りといった精神の働き(神明)まで統べる、いわば身体と心の司令塔。だから東洋医学では「心は神明を主(つかさど)る」と表現します。気分そのものではなく、それを支える"おおもと"だと考えると近いかもしれません。

    夏はこの「心」がもっとも活発に働く季節。裏を返せば、暑さで過剰に高ぶりやすく、乱れやすい季節でもあります。イライラ、動悸、寝つきの悪さ——東洋医学は、こうした夏の不調を古くから「心の乱れ」として見てきました。

    木・火・土・金・水の五行図。夏は火、臓は心にあたることを示す図
    東洋医学では、夏に最も働く臓を「心(しん)」と考えます

    昔の観察と、今の身体は"重なる"

    面白いのはここからです。東洋医学が「夏に心が乱れる」と見てきた状態と、特集①②でお話しした自律神経の疲れ。この二つは、同じ身体で起きていることを、別の言葉で指しているように、私には見えるんです。

    古典『黄帝内経(こうていだいけい)』の「四気調神大論(しきちょうしんたいろん)」という章には、夏の過ごし方としてこう記されています。

    夜臥早起、無厭於日、使志無怒(夜は遅めに寝て早く起き、日の長さを厭わず、気持ちに怒りをためない)

    そして「これに逆らうと心を傷める」と続きます。二千年前の養生訓が、"夏は心をおだやかに保ちなさい"と言っている。現代の私たちが「自律神経を休ませましょう」と言うのと、不思議なほど重なります。昔の人の観察と今の医学が重なるこういう瞬間には、何度出会っても唸らされます。

    高ぶった心をなだめる、手首の"門"

    その「心」を落ち着けるツボが、神門(しんもん)です。手の少陰心経という経絡の7番目、記号ではHT7と呼ばれます。

    ■ 場所:手首の内側のシワを、小指側へなぞっていきます。すると小指のつけ根の下あたりで、小さな骨の出っぱりの手前で指が止まります。そのくぼみが神門です。(正確には、手関節のシワの上、尺側手根屈筋腱という腱の親指側のきわ)
    ■ 働き:気持ちを落ち着かせる「安神(あんじん)」の代表的なツボ。不眠や動悸、不安感を鎮める目的で、古くから使われてきました

    この神門、鍼灸の世界では心経の「原穴(げんけつ)」という特別な位置づけを持っています。原穴は、その経絡のいちばんの要になるツボ。神門を刺激すると心拍のゆらぎ(自律神経のバランスの指標)が整う、という探索的な研究報告もあります。ただし効果はあくまで刺激しているあいだが中心で、ずっと続くものではない、という慎重な但し書きつきです。過度な期待はせず、"寝る前のちょっとした習慣"くらいの気持ちで取り入れるのがちょうどいいと思います。

    なお、耳にも同じ「神門」という名前のツボがありますが、あれは別のもの。今日ご紹介しているのは、あくまで手首の神門です。

    手首の内側にある神門というツボの位置を示す図
    手首の内側、小指側の腱のきわ。寝る前にここを、じんわり3〜5秒

    🍵 養生 がんばらない、夏の整え方3つ

    むずかしく考えず、できるところからで大丈夫です。

    ① 寝る前に、手首の神門をやさしく押す 布団に入って、反対の手の親指で神門を3〜5秒ほど、じんわり押します。ぐりぐり強く押さなくて大丈夫。深い呼吸を3回、そえるように。高ぶった神経をなだめて、眠りへの助走にしてあげましょう。

    ② 冷房と、一枚の羽織りで「温度差」を減らす 冷房は26〜28度を目安に、風が直接身体に当たらないように。そのうえで、冷えた室内では薄手のカーディガンを一枚。設定温度を下げすぎるより、羽織りで調整するほうが、あの往復の負担をやわらげてくれます。

    ③ のどが渇く前に、水分と塩分を 「渇いた」と感じたときには、もう不足が始まっています。目安として、汗を多くかく日は、100mlあたりナトリウム40〜80mg(食塩相当量で0.1〜0.2g)ほどを含む飲料が、水分とミネラルを両方補うのに向いています。冷たいものばかりだと胃腸が疲れるので、温かい味噌汁やスープで塩分をとるのも、じつは理にかなっているんです。

    夏の養生3つ。ツボ押し・羽織り・水分と塩分を実演するイラスト
    どれも、できるひとつだけで大丈夫。がんばらないのが、夏の養生です

    ✏️ コラム 夏の身体は、全力で闘っている

    これまで多くの身体を見てきましたが、夏バテを「怠けている身体」だと感じたことは、ひとつもありません。

    暑さのなかで汗をかき、血管を広げ、冷房との往復に耐えながら、あなたの自律神経は、一秒も休まずに体温と血圧を守り続けている。夏に動けなくなるのは、サボっているからではなくて、それだけ全力で闘った結果なんです。

    だから、夏にペースが落ちる自分を、どうか責めないでください。休むことは、次の季節へ体力を残しておくための、賢い選択です。「気のせい」でも「甘え」でもない。それだけ、今日もよく働いてくれた身体なのだと思います。

    夏の朝に深呼吸する女性。身体をいたわる穏やかな情景
    動けない日は、身体がサボっているんじゃなくて、全力で闘った日

    📅 来月予告

    大暑を越えると、暦はやがて晩夏へ。東洋医学でいう「長夏(ちょうか)」、湿気と消化の季節に移っていきます。夏の疲れが残る身体を、秋に向けてどう立て直すか——8月号は「夏の疲れの、店じまい」をテーマにお届けする予定です。

    それでは、どうかご自愛なさってください。

    ゆら院長

    8月号予告。晩夏の窓辺で微笑む青年医療者とタイトル「夏の疲れの、店じまい」

    🔗 あわせて読みたい

    夏のだるさも、肩こりがすぐ戻ってしまうのも、おおもとは同じ「細胞のエネルギー不足」かもしれません。その正体を、栄養の側から掘り下げた回はこちらです。

    📮 月刊『ゆら健康通信』は、毎月の身体の"揺れ"に寄り添う便りです。よろしければマガジンのフォローを。

    ⚠️ この記事について この記事は、身体のしくみを一般的に理解していただくためのもので、医師の診察や治療に代わるものではありません。強い頭痛・吐き気・めまい・意識のもうろうなど、熱中症が疑われる症状があるときや、つらい不調が続くときは、我慢せず医療機関にご相談ください。ツボのセルフケアは心地よい範囲で行い、体調のすぐれないときは無理をなさらないでください。

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    柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師として整形外科3年、整骨院院長15年、現役。施術後の「あ、楽になった」という笑顔に、私の方が救われてきました。情報の正解ではなく「あなたの体の正解」を見つけるヒントを。不調に振り回されず、自分らしく歩き出すためのお手伝いをさせてください。

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