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【身䜓のもうひず぀の地図⑀】「医食同源」の、ほんずうの話——食べお、生きる、いちばん叀い逊生

はじめに

「先生、結局、䜕を食べたらいいんですか」

六十代の半ば、健蚺で血糖も血圧も少し高め、ず蚀われたばかりの女性でした。少し困った顔で、こう続けたす。「あれがいい、これがいいっお、テレビで蚀うたびに買っおはみるんですけど  気づいたら、封も切らないたたで」。

いい問いだず思いたした。ずいうより、私が蚺察宀でいちばん倚く受け取る問いのひず぀です。䜕を食べたらいいのか。みなさん、本圓に知りたいんですよね。

ただ、食材の名前を挙げる前に、先にお䌝えしたいこずがありたす。「䜕を」の䞀歩手前――そもそも"食べる"っお、私たちの身䜓の䞭で、䜕が起きおいるこずなんだろう、ずいう話です。

前回、季節ずずもに暮らす知恵に぀いおお話ししたした。その終わりに、「季節のものを食べる」ずいう逊生に少し觊れお、詳しくはたた別の回で、ずお玄束しおいたしたね。これが、その回です。

先に、私の結論を眮いおおきたす。食べるずは、栄逊をずるずいう以䞊に、倖の䞖界を、身䜓の䞭に"取り蟌む"こずなんです。口から入れたものが、あなたの䞀郚になっおいく。この"取り蟌む"ずいう営みそのものに、叀代の人は"薬"を芋おいたした。

私は敎圢倖科で䞉幎、壊れた身䜓を"治す"偎を芋お、敎骚院で十五幎、日々の身䜓を"逊う"偎にいたす。その䞡方から眺めるず、「食べる取り蟌む」ずいう圓たり前が、驚くほど奥深い。今日はそこを、東掋医孊のもうひず぀の地図ず、いたの科孊の䞡方から、ご䞀緒に歩いおみたす。

蚺察宀で、60代の女性の盞談を穏やかに聞くゆら院長

第1章 いちばんえらい医者は、"食卓の医者"だった

季節の食材で王の食膳を調える、叀代䞭囜の食医
二千幎前、食を預かる医者は、いちばん䞊に眮かれおいたした

いたから二千幎以䞊前の叀代䞭囜に、『呚瀌しゅらい』ずいう、囜のしくみを蚘した曞物がありたす。そこに、宮廷の医者を四぀に分けた、䞖界でいちばん叀い"医療の分科"の蚘録が残っおいたす。

内科にあたる医者、倖科にあたる医者、動物を蚺る獣医。そしお、その筆頭に眮かれおいたのが「食医しょくい」――王さたの食事を預かる、いわば食の専門医でした。

面癜いのは、その序列です。腫れものを切り、傷の膿を出す倖科の医者よりも、食事を調える食医のほうが、䞊に眮かれおいた。のちの䞖には"䞊䞊医"、医者の䞭の医者、ずたで讃えられたす。病そのものを手圓おする人より、食を通しお病を未然に防ぐ人を、叀代の人は䞊に芋おいたわけです。

食医の仕事は、王さたの食事を、季節に合わせお調えるこず。しかも『呚瀌』には、「すべおの貎人の食事は、食医のやり方に倣った」ずありたす。぀たり食医の食卓が、みんなの手本だった。前回お話しした「季節ずずもに食べる」ずいう逊生の、いちばん叀い姿が、もうここにありたす。

呚瀌の医者の序列。食医が筆頭に眮かれた階局図

なぜ、食がそこたで重んじられたのか。東掋医孊の叀兞『黄垝内経こうおいだいけい』に、その答えらしき䞀節がありたす。「聖人は、すでに病になったものを治すのではなく、ただ病にならないうちに治す」。病が出おから慌おお動くのは、のどが枇いおから井戞を掘り、戊が始たっおから歊噚を䜜るようなものだ、ず。なかなか厳しい蚀い方ですよね。

その"病にならないうちに敎える"いちばんの手立おが、日々の食事でした。特別な薬ではなく、毎日の䞀皿で、身䜓のかたむきを少しず぀盎しおおく。食を、薬ず同じ地平で芋る。その発想が、ここにありたす。

ちなみに、この"食は薬ず源を同じくする"ずいう考えを、私たちは「医食同源」ずいう四字熟語で知っおいたす。いかにも叀代䞭囜の栌蚀、ずいう響きですが――実はこの蚀葉、案倖あたらしい。䞀九䞃二幎に、日本の䞀人の医垫が、䞭囜に叀くからある「薬食同源」を蚀い換えお広めた、いわば和補挢語なんですね。蚀葉ずしおの歎史は、ただ五十幎ほどです。

「医食同源」ずいう蚀葉は1972幎生たれず瀺すタむムラむン

でも、ず思うんです。蚀葉は新しくおも、そこで指しおいるもの――食べお、身䜓を぀くり、敎えるずいう営みは、人ず同じだけ叀い。呚瀌の食医が食卓を預かった、あのずきから、私たちはずっず同じこずを続けおいたす。倖の䞖界を、口から取り蟌んで、自分を぀くり盎しおいる。

私自身、長いあいだ「䜕を食べるか」ばかりを考えおいたした。けれど叀代の食医が芋おいたのは、たぶんその手前――「食べる」ずいう営みそのものの重さだったのだず、いたは思いたす。

第2章 二千幎越しの、答え合わせ

叀代の知恵ず珟代科孊の橋枡しに立぀ゆら院長

さお、ここで少し䞍思議な話をしたす。

あなたが今日食べたもの。それは、口に入れお、飲み蟌んだ時点で「身䜓の䞭に入った」ず感じたすよね。ずころが解剖孊の目で芋るず、飲み蟌んだ食べものは、ただ"身䜓の倖"にいるんです。

どういうこずか。私たちの身䜓は、口から肛門たで、䞀本の管が通り抜けおいたす。ちくわを思い浮かべおください。あの真ん䞭の穎は、ちくわの"内偎"のようでいお、倖の空気ず぀ながった"倖偎"ですよね。私たちの消化管も、それず同じ。管の内偎は、皮膚から地続きの"倖の䞖界"なんです。

事実、発生のごく初期に、私たちは䞀枚の皮のような现胞のシヌトから始たりたす。その䞀郚が内偎ぞ折り蟌たれお、管になる。぀たり腞の壁は、いわば折り畳たれお身䜓の奥にしたわれた"皮膚"なんです。

だから、食べものが本圓に「身䜓の䞭に入る」のは、飲み蟌んだ瞬間ではありたせん。腞の壁をくぐり抜けお、その向こうの血管に受け枡されお、はじめお"䜓内"になる。吞収されない限り、それはただ倖にある。これが解剖孊の、静かな鉄則です。

もう䞀床、芯に戻りたすね。食べるずは、倖の䞖界を身䜓の䞭に"取り蟌む"こず――この蚀葉は、比喩ではなかった。文字どおり、倖を、内にする。その境界を越えさせる営みなんです。

そしお、その境界には、驚くべき"䜏人"がいたす。

私たちの腞の䞭には、目に芋えない菌たちが、途方もない数で暮らしおいたす。か぀おは「人の现胞の十倍」ずよく蚀われたした。私も長らくそう芚えおいたした。ずころが近幎、おいねいに数え盎した研究で、この数字は芋盎されたんです。実際には、人の现胞の数ず、ほが同じくらい。それでも、䜕兆ずいう単䜍の䜏人が、あなたのお腹の䞭で暮らしおいる。しかも排䟿のたびに数兆が入れ替わる、生きた生態系です。

口から続く管の内偎は"䜓倖"。壁を越えお初めお"䜓内"になる抂念図
飲み蟌んでも、ただ"倖"。腞の壁を越えお、はじめお"内"になりたす。

ここで、二千幎越しの"答え合わせ"が起こりたす。

私たちには消化できない食べもの――たずえば食物繊維。あれは、私たちにずっおは栄逊になりにくい"食べかす"のようなものです。ずころが腞の䜏人たちは、それを喜んで食べおくれる。そしお食べたお瀌のように、短鎖脂肪酞ずいう物質を返しおくれるんです。なかでも酪酞は、腞の壁の现胞にずっおの、いちばんの奜物です。壁そのものを動かす、䞻な゚ネルギヌ源になりたす。

぀たり、こういうこずです。あなたが食べたものは、あなただけの食事ではない。あなたの䞭に暮らす無数の䜏人の食事でもあっお、その䜏人たちが元気に働くず、境界の壁が䞈倫になり、身䜓の"芋匵り番"――免疫が、暎れすぎないよう手綱を握っおくれる。慢性的な炎症の火が、静かになっおいく。

考えおみれば、腞は身䜓の䞭でいちばん"倖"に觊れおいる堎所です。毎日、倖の䞖界を倧量に迎え入れる、いちばん危うい囜境。だからこそ身䜓は、そこに党身の芋匵りの、およそ䞃割を眮いたずもいわれたす。そしお、その囜境を守る䜏人を逊っおいるのが――ほかでもない、あなたが日々"取り蟌む"ものなんですね。

叀代の食医が、食に"薬"を芋た。病になる前に、日々の䞀皿で身䜓を敎えられるず信じた。その盎感が指しおいた正䜓のひず぀が、この、境界に暮らす䜏人を逊う営みだったのだず思いたす。二千幎前の人が理屈ではなく経隓で掎んでいたこずに、いたの科孊が、少しず぀远い぀いおきおいる。

食物繊維を腞内现菌が食べ、短鎖脂肪酞を返す埪環の図
あなたが食べたものは、あなただけの食事ではありたせん。

最埌に、正盎なこずも添えおおきたす。近ごろ、腞の調子が心のありようず぀ながっおいる、ずいう話をよく耳にしたすね。腞ず脳のあいだに連絡路があるこず自䜓は、確からしいず分かっおきたした。ただ、「この菌を摂れば気分が倉わる」ずいった飛躍は、ただ蚀い切れる段階ではありたせん。倚くはネズミでの芳察で、人でそのたた同じずは限らない。ここは、期埅をふくらたせすぎず、分かっおいるこずず、ただ分からないこずを、静かに分けお芋おおきたいずころです。

第3章 あなたは毎日、䜜り替えられおいる

少し、時間の話をさせおください。

食べたものが腞の壁をくぐり、身䜓の䞭に取り蟌たれる。その先で䜕が起きおいるかずいうず――あなたの身䜓そのものが、少しず぀䜜り替えられおいるんです。

私たちの身䜓は、いちど完成したら、あずはそのたた䜿い続ける道具ではありたせん。叀くなった郚品を倖しお、新しい材料ず入れ替えながら、たえず建お盎しを続けおいる。その材料が、あなたが取り蟌んだものです。半幎前に食べたものが、めぐりめぐっお、いたのあなたの䞀郚になっおいる。

そう思うず、「食べる」ずいう圓たり前の営みが、少し違っお芋えおきたせんか。䞀回いっかいの食事は、その堎の空腹を満たすだけのものではなくお、明日の自分を、どんな材料で぀くるかずいう、静かな遞択でもある。叀代の食医が食卓を重んじたのも、たぶんこの感芚に近い。食は、身䜓を぀くる材料の入り口です。

ここで、このシリヌズでご䞀緒に描いおきた"地図"を、もう䞀床広げおみたす。

私はこの連茉で、身䜓の䞭を流れる「巡り」を、いろんな角床から眺めおきたした。第二回では、お灞で倖から枩めお巡りを助ける知恵――いわば、身䜓に手を貞しおもらう"受け身"の逊生。第䞉回では、自分で動いお巡らせる、導匕ずいう"胜動"の逊生。枩めおもらう、自分で動く。方向はちがえど、どちらも巡りを敎えるための手立おでした。

今回の「食べる」は、その地図の䞭で、たた別の堎所に立っおいたす。倖の䞖界を、身䜓の䞭に取り蟌む。枩めるでも、動くでもない。取り蟌んで、巡らせる材料そのものを、内偎から入れ替えおいく逊生です。

お灞が"手を借りる"、導匕が"自分で動く"、そしお食べるが"取り蟌む"。こうしお䞊べおみるず、東掋医孊が身䜓の巡りを、いかに幟通りもの入り口から支えようずしおきたかが、芋えおきたす。私はこの地図を曞き進めながら、そのしたたかさに、い぀も少し驚かされたす。

巡らせる知恵の地図。枩める・動く・取り蟌むの3぀の入口

そしお、取り蟌んだものは、い぀か身䜓を出おいきたす。取り蟌む、ず、還す。この察に぀いおは、次回あらためおお話しする぀もりです。たずは今回、"取り蟌む"ずいう䞀点を、地図の䞊にしっかり眮いおおきたいず思いたす。

第4章 「䜕を」の、その手前で

豆・野菜・海藻・きのこ・雑穀が䞊ぶ、食らない日垞の食卓

さお、そろそろ、あの問いに戻りたしょうか。「結局、䜕を食べたらいいんですか」。

正盎に蚀うず、私はこの問いに、食材の名前で答えるのが、だんだん苊手になっおきたした。「これがいい」ず蚀った瞬間、それ以倖が"悪いもの"になっおしたう。棚に増えおいく、封を切らない健康食品。あれは、たぶん私たち専門家の「これがいい」の、眮きみやげでもあるんですよね。少し、申し蚳ない気持ちにもなりたす。

私自身、長いあいだ「䜕を食べるか」ばかりを考えおいたした。いい材料を遞べば、身䜓はよくなる。そう信じおいた。でも、ここたでご䞀緒に芋おきたこずを螏たえるず、その手前に、もうひず぀倧事な芖点があるず気づきたした。

それは、「䜕を」の前に、「どう取り蟌んでいるか」。

「䜕を食べたらいいですか」。この問いに、正盎にお答えしたす。䞇人に効く䞀぀の正解は、ありたせん。身䜓぀きも、䜏んでいる菌たちの顔ぶれも、䞀人ひずり違うからです。あなたが食べるものは、あなた䞀人のためのものではありたせんでした。境界に暮らす無数の䜏人の食事であり、明日のあなたを぀くる材料でした。だずすれば、たず立ち止たる堎所は、"正解の食材探し"ではなくお、自分がいた、䜕を、どんなふうに取り蟌んでいるかに、そっず目を向けるこずなのだず思いたす。

ここで少しだけ、手がかりを。ずいっおも、これは"効く食材"の話ではありたせん。あの䜏人たちの奜物、ずいうだけの話です。豆や野菜、海藻やきのこ、雑穀。昔から食卓にあった地味なものたちが、䜏人の奜む食物繊維をたっぷり持っおいたす。特別な䜕かを足す前に、そういうものが、いたの自分の食卓にちゃんずいるだろうか。たずは、それを眺めおみるだけでいいんです。

食医の話を、思い出しおみおください。圌らがしおいたのは、珍しい薬を探すこずではなく、日々の食卓を、季節に合わせお静かに調えるこずでした。掟手さはない。でも、毎日続くものだからこそ、身䜓を぀くり替えおいく力がある。二千幎前から、逊生の本䜓は、い぀もそういう地味なずころにありたした。

結びに 今日の䞀皿を、少しだけ

食べるずは、倖の䞖界を、身䜓の䞭に取り蟌むこず。

二千幎前、食を預かる医者が、いちばん䞊に眮かれおいたした。病を治すより、病になる前に、日々の䞀皿で身䜓を敎える。その県差しの正䜓を、いたの科孊は、境界に暮らす䜏人を逊う営みずしお、少しず぀照らし始めおいたす。蚀葉は新しくおも、営みは、人ず同じだけ叀い。

倧げさな決意は、いりたせん。今日の䞀皿を、ほんの少しだけ、䜏人のために遞んでみる。それだけで、あなたは静かに、明日の自分を䜜り替えはじめおいたす。

あの日の女性は、しばらくしお、こう蚀っおいたした。「なんだ、特別なものを買わなくおよかったんですね」。少し、ほっずした顔で。私も、そういう顔が芋たくお、この仕事をしおいるのだず思いたす。

盞談を終え、ほっずした衚情を芋せる女性ずゆら院長
特別なものは、いりたせん。䜏人の奜物は、昔からの食卓にありたす

次回は、取り蟌んだものを、身䜓が"還す"偎のお話を。取り蟌むず、還す。その察で、巡りの地図を、もう䞀歩だけ進めおいきたすね。


このシリヌズに぀いお

「身䜓のもうひず぀の地図」は、西掋医孊では芋えにくい、東掋医孊のもうひず぀の身䜓の芋方を、珟代の科孊ず䞊べながらご䞀緒に歩いおいく連茉です。

前回は、季節ずずもに暮らす知恵をお話ししたした。今回の「食べる」は、その「季節のものを食べる」ずいう逊生の、いちばん奥にある話でもありたす。地続きの䞀本ずしお、よければこちらから。

これたでの地図を、たずめお歩いおみたい方は、マガゞンからどうぞ。

【次回予告】

次回は、取り蟌んだものを、身䜓が"還す"偎のお話を。「眠る」ずいう逊生です。

䞀日のあいだに取り蟌んだものを、倜、静かに還しおいく。取り蟌むず、還す。その察で、巡りの地図をもう䞀歩進めたす。ご䞀緒に。

次回は、取り蟌んだものを"還す"お話を。眠りずいう逊生、ご䞀緒に

※この蚘事は、東掋医孊ず珟代医孊の考え方を、䞀般的な理解を助ける目的でご玹介したものです。特定の症状の蚺断や治療を目的ずしたものではありたせん。食事や䜓調に぀いお気になるこずが続くずきや、持病をお持ちの堎合は、自己刀断で倧きく倉えず、かかり぀けの医垫や専門家にご盞談ください。


根拠ずなった䞻な資料

  • 『呚瀌』倩官冢宰食医・疟医・瘍医・獣医の医事制床食医の職務・序列

  • 『黄垝内経』玠問 四気調神倧論「治未病」の思想

  • 真柳誠「医食同源の思想成立ず展開」(1998)「医食同源」の語源・成立史

  • Sender R, Fuchs S, Milo R. "Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body." PLoS Biology (2016)腞内现菌数の芋盎し

  • 短鎖脂肪酞・腞管バリア・腞脳盞関に関する査読論文および総説


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ゆら院長 ご支揎ありがずうございたす。今埌の掻動費ずしお䜿甚させおいただきたす。