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『聖書を読む』創世記 第10章― 世界は、どのように広がっていったのか ―

    創世記第10章は、正直に言うと、読み飛ばされがちな章です。

    人名がずらりと並び、劇的な出来事も起こりません。

    しかし、
    この章は、聖書全体の流れを考えるうえで、
    とても重要な位置にあります。

    なぜならここで、
    「世界がどのように分かれ、広がっていったのか」
    が初めて語られるからです。

    民族表と呼ばれる章

    創世記10章は、
    「民族表(Table of Nations)」と呼ばれています。

    ノアの三人の息子、

    セム
    ハム
    ヤフェト


    それぞれの子孫が、どの土地に住み、どの民族になったのかが記されています。

    これは現代的な意味での歴史書や人類学ではありません。

    古代イスラエルの人々が理解していた「世界の見取り図」だと考えられています。

    ヤフェトの系統 ― 広がっていく世界

    ヤフェトの子孫は、

    海沿いの地域、
    小アジア、
    エーゲ海周辺、

    などへ広がったとされています。
    聖書はこう語ります。

    「これらから、国々の島々が、それぞれの土地、それぞれの言語、それぞれの氏族、それぞれの国に分かれた。」

    ここで注目したいのは、
    土地・言語・民族がセットで語られている点です。

    世界はすでに、多様であることを前提として描かれています。

    ハムの系統 ― 文明と力の影

    ハムの子孫として挙げられるのは、

    クシュ、
    エジプト、
    カナン。

    など、古代文明の中心地です。

    ここで登場するのが、ニムロドという人物です。

    「彼は地上で最初の勇士であった」、

    ニムロドは、狩人であり、都市を築いた存在として描かれます。

    この描写には、文明の始まりに対する畏れと警戒の両方がにじんでいます。

    文明は人を豊かにする一方で、
    力や支配とも結びついていく。
    その気配が、すでにこの章にあります。

    セムの系統 ― 聖書の物語の中心へ

    セムの系統は、後の聖書物語の中心になります。

    ここから、
    アブラハム
    ヘブライ人
    イスラエルの歴史

    へと物語が続いていきます。

    また、「セム語」という言葉もここに由来します。

    ヘブライ語、アラム語、アラビア語などは、
    セムの子孫と考えられた民族が用いた言語群として、後世の学問によって分類されました。

    しかし、セム本人が話していた言語、という意味ではありません。

    分かれることは、罪なのか

    創世記10章で繰り返されるのは、

    それぞれの土地
    それぞれの言語
    それぞれの民族

    という表現です。

    ここでは、
    分かれること自体は否定されていません。

    問題として描かれるのは、
    次の11章バベルの塔の物語です。

    つまり聖書は、
    「違いがあること」ではなく、
    「一つになろうとしすぎること」に、
    問いを投げかけているようにも読めます。

    現代への問いかけ

    私たちはしばしば、分断は悪いこと、
    違いはなくすべきものだと考えがちです。

    しかし創世記10章は、
    違いを前提とした世界を淡々と描いています。

    問題は、違うことそのものではなく、
    違いを力や支配に変えてしまうことなのかもしれません。

    おわりに

    創世記第10章は、静かな章です。

    ですがここには、
    世界の多様性、
    文明の始まりへのまなざし、
    物語が歴史へ移行する節目、
    が、確かに刻まれています。

    この章を読むと、
    次のバベルの塔の物語が、
    とても自然な流れとして立ち上がってくるはずです。


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