
もう会えない貴方へ
多分どうしようもなかった。別れることは決まっていた。この日、私たちは別れるために新宿のとある喫茶店へ来ていた。思い出話をすると涙が溢れそうでやめた。声が詰まりそうで、無理に笑った。
私たちは、これまでのこととこれからのことをいろいろ話した。そして毎日一緒にいるのは難しいという結論に至った。
其方が決めたくせに号泣したとか言わないでほしかった。また出掛けようよ、まだ好きだよ、なんて言われても苦笑するしかなかった。そんなの駄目だよとはっきり言うこともできずに、少しだけ嬉しくなって、その自分の中の嬉しい気持ちに気づいてしまって悲しくなった。
貴方が他の誰かと進むことを想像した時の気持ちは何と呼べば良いのだろう。暫くは一人でいて欲しいと願っても、きっとそんなことはしないのだろう。早く幸せになってね。早く幸せにならないでね。私のことなんて早く忘れてね。一生忘れないでね。
私は氷が溶けて少し薄くなったアイスコーヒーをいつまでもちびちびと飲んでいた。話すことは話した。少しでもこの時間を長引かせたかっただけだ。彼はホットコーヒーを飲み干して水をちびちびと飲んでいた。
お会計の時、最後くらい割り勘にしたくて半分出そうとしたが受け取らなかった。そりゃそうか。
帰り道、新宿のダンジョンを彷徨い、ついに改札へ。本当の別れが来た。私は最後に「好きだったよ」と言うんだと言い聞かせる。暫く口をもにょもにょさせて、小さな声で絞り出した。言えた。俺の方はまだ思ってるのに、なんて言われて想いが溢れそうだったけど、頑張って抑えてバイバイした。一瞬だけ振り返って、だけどすぐにホームへ向かった。
電車の中では泣かなかった。何も考えないようにしていた。そして電車を降りて家へと向かう途中、花屋に目が留まり、私の好きなお花を一輪買った。私と貴方の門出を一人で祝うためだった。
家に帰って、お花を生けた。
涙が溢れた。
心の中で餞を贈った。