
【地方終活】第8回:挑戦できる自治体と、できない自治体の差
同じ制度の中で、なぜ結果が分かれるのか
1. 日本の中にも「動いている自治体」はあるのか
前回の記事では、海外では「終わること」が制度に組み込まれている一方、日本はそれを選ばなかったという前提の違いを整理しました。
では、日本の中には、少しずつでも前に進めている自治体はあるのでしょうか。
結論から言えば、確かに存在します。
ただし重要なのは、
それらは「成功している自治体」ではない
という点です。
2. 差を生むのは能力でも覚悟でもない
よくある説明は、
財政に余裕があるから
首長が優秀だから
職員の意識が高いから
といったものです。
しかし実際に見えてくる差は、もっと手前にあります。
失敗しても戻れないことを、どこまで受け入れているか。
これが、挑戦できるかどうかを分けています。
3. 小さく挑戦している自治体の実例
ここで、日本の中で実際に動いている自治体をいくつか見てみます。
いずれも問題を解決した自治体ではありません。問題を抱えたまま進んでいる自治体です。
北海道上士幌町
― 「全部は守れない」を先に認めた自治体

課題
人口は1955年のピーク時に13,608人。そこから半世紀以上にわたって減り続け、2014年末には4,884人まで落ち込みました。
2014年に「消滅可能性自治体」と指定され、若年女性人口が2010〜2040年にかけて68%減少すると推計されていました。
現在も高齢化率は34.2%と全国平均(約29%)を上回り、65歳以上1人を支える生産年齢人口は1.6人と、全国平均の2.1人を大きく下回ったままです。
取り組み
この状況に対し、町が選んだのは「回復を前提にしない設計」でした。
子育て支援に特化したふるさと納税の基金条例をいち早く設置し、認定こども園の保育料を10年間完全無料化。高校世代までの医療費も無料にしました。
移住・定住の促進では、お試し暮らし体験住宅の整備や賃貸住宅建設費補助制度を整え、道外からの転入者が道内を上回る年も出てきました。
結果として2016年以降は人口が増加に転じ、2024年の推計では若年女性人口の減少率が28%まで改善されています。
公共施設の面では、役場庁舎の老朽化・耐震問題に際し、完全新築ではなく「3階部分を解体して2階建てに改修する」減築方式を選択しました。
CO2排出量や費用対効果を理由に大学教授も交えて協議した結果であり、「元に戻す」前提を置かない設計思想が貫かれています。
廃校となった旧上音更小学校の跡地は、ドローン配送の拠点として転用しました。
重要なのは、元に戻る前提を置いていないという点です。人口回復に賭けず、縮小に耐える設計を選んでいます。
長野県小布施町
― 完璧な合意を目指さないという選択
課題
人口約1万1千人と長野県で最も小さな町です。2004年に周辺自治体との合併を選択せず「自立宣言」を行いましたが、それは財政健全化と行政改革を自力で進めるという選択でもありました。
2024年からは都市計画マスタープランの改定を開始。人口減少による空き家・空き地問題が顕著化し、土地利用が新たな局面を迎えているという認識が出発点になっています。
取り組み
小布施の特徴は、政策内容よりも合意形成の姿勢にあります。
「小布施まちづくり委員会」を設置し、町民・議会・行政が交流と対話を深める場を整えました。
可燃ごみの減量化や防災対策といった身近な課題から、福祉バス・デマンドバスの必要性や地域行政改革の手法まで、テーマごとに部会を設けて広く意見を集め、行政に提案する仕組みです。
この取り組みが目指しているのは、全員が納得する説明でも、正解の提示でもありません。
「住民の声が行政に届きにくい」「行政と住民の間に意識の隔たりがある」という構造的な課題を認めた上で、それを解消する場として委員会を位置づけています。
変化が続く社会では固定的な答えは持てないという前提を、行政と住民で共有しています。試しながら修正するプロセスそのものが、この町の「施策」になっています。
富山県(富山市)
― 「路線」を守らず、「目的」を守る
課題
コンパクトシティ政策の検討を始めた2003年当時、富山市は全国で最も人口密度が低い県庁所在都市であり、全国2位の自動車依存都市でした。
人口は平成22年をピークに減少に転じ、2030年には75歳以上の後期高齢化率が20%を超えると予測されています。
自動車を運転できなくなった高齢者が移動手段を失うという問題が、数字で見えていました。
取り組み
この課題に対し、富山市が立ち返ったのは「路線バスを守る」ではなく「移動手段を確保する」という目的でした。

赤字路線だったJR富山港線を廃止せず、2006年に国内初の本格的LRTシステムとして転換。
バリアフリー化・ダイヤ改善・ICカード導入などで利便性を高め、利用者数は平日で開業前の約2.1倍、休日で約3.3倍まで増加しました。
沿線に住むよう規制するのではなく、沿線の魅力を高めることで居住誘導する「誘導的手法」を基本姿勢としました。
市長自ら住民説明会を120回以上こなし、「当初はドン・キホーテみたいだと笑われた」と振り返っています。
縮小を伴う選択を、現実的に実行したのがこの取り組みの本質です。
ただし、課題は残ります。郊外や中山間地域では政策の恩恵が実感されにくいという声が続いており、2025年には富山地方鉄道が鉄道路線の広範囲廃止意向を表明、バス16路線も一斉廃止されました。
コンパクトシティの取り組みが進んだ富山でさえ、移動手段の確保は解決されていません。「動いている」が「終わった」ではない、その典型です。
愛媛県西予市
― 計画を「減らす前提」で運用する
課題
2022年に愛媛県が発表した将来人口推計では、2060年の西予市人口は11,816人と試算されました。現在の約34,918人から66%減少する見通しです。
平成の合併によって旧5町の施設を抱えることになりましたが、それを維持するだけの人口・財政規模はもはや存在しません。
財政調整基金が枯渇に近づく中、「財政危機脱却プラン」の策定が迫られました。

取り組み
西予市が選んだのは、計画を「守る」ための議論ではなく、「減らす」ための議論でした。
公共施設等総合管理計画を実際に削減する方向で運用し、体育館など施設の再編に着手。
住民への説明の出発点を「全部は守れない」という前提に置きました。多くの自治体が「何とか維持します」から説明を始めるのと、構造が逆になっています。
また、2060年に人口が現在の3分の1になるという推計を受けて、63名の職員からなる「人口減少対策プロジェクトチーム」を発足。12部会が課題分析と対策を横断的に検討しています。
財政危機という「見える危機」が、議論を動かす起点になりました。
財政改革有識者会議(座長・愛媛大学教授)は答申の中で「市民参加と丁寧な説明」を求めました。
財政論だけでは住民を動かせないという認識が、専門家との間でも共有されています。
4. これらの自治体に共通する前提
共通しているのは、
成功事例を作ろうとしていない
正解を探していない
元に戻る前提を置いていない
という点です。
言い換えれば、
失うことが、すでに現実になっている自治体
です。
5. 動けない自治体が抱えている構造
一方で、なかなか動けない自治体には、
まだ大きな破綻が見えていない
今の生活は何とか回っている
今日困っていない
という状況があります。
その結果、
失敗=責任
失敗=批判
失敗=政治的リスク
となり、
何もしないことが最も安全
という構造が生まれます。
6. 「成功事例」が足かせになる理由
国や専門家は、成功事例の横展開を求めます。
しかし現場では、
条件が違いすぎて参考にならない
という声が多く聞かれます。
人口規模・地理条件・住民構成、少し違うだけで、同じ手法は通用しません。
結果として、成功事例は希望ではなく、プレッシャーになってしまいます。
7. 差を生む本当の理由
ここまで整理すると、差は明確です。
挑戦できる自治体とできない自治体の違いは、
能力の差でも
覚悟の差でもなく
「戻れない未来」をどこまで受け入れているか
という、前提の差です。
8. この差は、やがて消える
最後に、あえて厳しいことを言えば、この差は永続しません。
人口減少が進めば、どの自治体も、いずれ同じ問いに直面します。
違うのは、
早く向き合ったか まだ向き合っていないか
だけです。
次回予告
次回は、
人口動態から見た未来予測 ― いつまで「議論」で済ませられるのか
を扱います。
この問題が、あと何年先送りできるのかを、数字の視点から整理します。