ー王子ごっこで遊ぼうー 『アパート時荘へようこそ』番外編(UMAふたたび)
「カモメロンバが、俺を呼んでいる」
その夜、アカオキスケは、時荘六号室の布団で静かに眠っていた。
窓の外では、風が古い木造アパートの軒先を撫でている。
いつもと変わらない夜だった。
少なくとも、夢が始まるまでは。
夢の中で、キスケは何もない場所に立っていた。
地面もなければ、空もない。
ただ、どこまでも深い暗闇が広がっている。
やがて、その向こうから金色の光が近づいてきた。
第一の夢――金運召喚

光の中から現れたのは、一匹の猫だった。
丸いトマトの体。
頭の上にも、赤く熟した小さなトマト。
緑色の海苔の蝶ネクタイを整えたその姿を、キスケが見間違えるはずはない。
「トマトノリネコ……」
以前出会った、不思議なUMAだった。
だが、今夜のトマトノリネコは、いつもとは少し様子が違う。
かわいらしい顔立ちはそのままなのに、その眼差しには王侯貴族のような気品がある。
自信に満ちた微笑み。
闇の中に浮かび上がる金色の輪郭。
ずいぶんとキマっていた。
そして、その左側に、太い金色の筆文字が現れた。
金運召喚
キスケは腕を組む代わりに、黙ってその四文字を見つめた。
「やはり、お前だったのか」
トマトノリネコと出会って以来、キスケは不思議とお金に困らなくなっていた。
大金を手にしたわけではない。
必要なときに小銭が見つかる。
食事代を払おうとすると、すでに誰かが払っている。
探していた品物が、なぜか格安で手に入る。
それだけのことだった。
しかし振り返れば、確かに困っていない。
「だが、“召喚”というほどのことなのか?」
トマトノリネコは答えなかった。
当然のような顔で微笑むと、金色の光とともに暗闇へ消えていった。
第二の夢――令和

入れ替わるように、暗闇の奥から大きな影が近づいてきた。
緑色の丸い体には、濃い緑の縞模様。
頭の左右からは、立派なバナナが角のように伸びている。
「スイカバナナ……」
それは、キスケをこの時代へ飛ばしたUMAだった。
スイカバナナもまた、今夜は途方もなくキマっている。
まるで、自分が歴史を動かしたことを確信しているような顔だ。
その左側に、再び金色の文字が現れた。
令和
キスケは、しばらく二文字を見つめた。
「それは、お前の名前ではないだろう」
スイカバナナは何も答えない。
ただ、わずかに微笑んでいる。
確かにキスケは、このUMAによって令和の世界へ飛ばされた。
だが、スイカバナナが令和を作ったわけではない。
おそらく。
「なぜ、お前がそんなに誇らしげなんだ」
もちろん返事はない。
スイカバナナは重大な使命を果たした偉人のような表情を崩さないまま、ゆっくりと闇へ溶けていった。
第三の夢――まだ見ぬUMA

暗闇に静けさが戻った。
夢は終わったのだろうか。
そう思ったとき、遠くから鳥の羽ばたく音が聞こえた。
続いて、甘く熟した果物の香り。
最後に、小さな蹄が地面を打つような音が近づいてくる。
もっとも、この場所に地面はないはずだった。
金色の光が集まり、その中心に一体の生き物が姿を現した。
カモメの翼。
メロンの丸い体と網目模様。
そして、ロバの顔と耳。
キスケは目を細めた。
これまで一度も会ったことのない生き物だった。
見たこともなければ、名前を聞いたこともない。
それなのに、その名は最初からキスケの頭の中にあった。
左側に、金色の筆文字が浮かび上がる。
カモメロンバ
「カモメと、メロンと、ロバ……」
あまりにも、そのままだった。
しかし口に出してみると、なぜか遠い土地の名のように響く。
海の向こうにある失われた王国。
古い地図の端に、誰にも読まれない文字で記された場所。
そんな響きだった。
カモメロンバは何も話さなかった。
翼を広げることもなく、ただ静かにキスケを見つめている。
その顔には、不思議な自信と気品があった。
そして、ほんの少しだけ微笑んだ。
―ここまで来い。ー
声は聞こえなかった。
それでもキスケには、そう告げられたような気がした。
朝飯だけは食べていきな
キスケは目を覚ました。
時荘六号室。
窓の外は、まだ夜明け前だった。
耳の奥には、カモメの鳴き声が残っている。
部屋の空気には、熟したメロンの甘い香りが混じっているような気もした。
だが、見回しても羽根一枚落ちていない。
メロンもない。
ロバは、そもそも六号室には入れないだろう。
キスケは布団の上で、しばらく黙っていた。
やがて立ち上がると、必要なものを鞄へ詰め始めた。
廊下から足音が聞こえ、少し開いた襖の向こうから楠木時が顔をのぞかせた。
「こんな朝早くから、どこへ行くんだい」
「分からない」
「分からないのに、旅支度をしているのかい」
「ああ。だが、行かなければならない気がする」
「目的地は?」
「それも分からない」
時は六号室へ入り、黙々と荷物を詰めるキスケを眺めた。
「じゃあ、何を探すんだい」
キスケの手が止まった。
夢の中で自分を見つめていた、まだ見ぬUMAの顔が浮かぶ。
「カモメロンバだ」
時は聞き返さなかった。
驚きもしなかった。
ただ一度うなずくと、台所の方へ歩きだした。
「そうかい。朝飯だけは食べていきな」
時荘では、これくらいの話は、もう珍しくない。
トマトノリネコは、金運を連れてきた。
スイカバナナは、キスケを令和へ運んだ。
ならば、カモメロンバは何を連れてくるのだろう。
それはまだ、キスケにも分からない。
カモメロンバと本当に出会えるのか。
どこへ行けば会えるのか。
そもそも、夢の外に存在するのか。
何一つ分からなかった。
ただ一つ確かなのは――。
その朝、キスケが無性に旅へ出たくなったことだけだった。
※「王子ごっこ」で遊んでみました
今回の3枚は、note企画「王子ごっこ」の画像生成プロンプトを使って制作しました。
圧倒的にキマった格好いい顔に、なぜその言葉を選んだのか、よく分からない短い言葉を添える企画です。
「金運召喚」
「令和」
「カモメロンバ」
不思議なUMAが登場する『アパート時荘へようこそ』の世界と、思いがけないほど相性のよい企画でした。
今回使用した画像生成プロンプトは、ネロ🌙|王子さんの記事からお借りしました。
ネロ🌙|王子さん、すてきな企画と画像生成プロンプトを提供してくださり、ありがとうございました🌙
詳しい遊び方はこちらです。
〖王子の初企画〗王子ごっこで遊ぼう🌙
