
うれさみ短歌賞の短歌こぼれ話
先日NHK短歌5月号の『うれさみ短歌賞』(選者・岡野大嗣さん)に私の短歌、
酔い止めをしっかり二錠飲み込んだくらげの気持ちで乗る伯備線
が特別賞受賞作として採用された。
今回はこの短歌についての背景を少し紐解いてみようと思う。
実は、この短歌は私の実体験ではない。
重要だと思ったので太字にした。では、誰の実体験なのかというと、私が現在両膝の痛みを改善するために通っている整形外科の先生の実体験である。
以前、私の実家のある岡山に帰省する時に注意することをお伺いすると坂道に気をつけるようアドバイスを下さった。そこから先生の岡山での思い出話になり、旅行だったか学会だったか、とにかく岡山で移動する際に先生が伯備線を使う機会があった。伯備線は岡山・倉敷という岡山の二大商業都市を通過したかと思いきや急に北上して新見市(読み→にいみし)という山奥まで行くトリッキーな路線である。その伯備線に乗っている最中は先生が酔い止めを飲んでもどうしても乗り物酔いしてしまうんですという個人的なぼやきにも似たエピソードを話して下さったのだった。今回『うれさみ短歌賞』の題詠が『線』で、虚弱な心身ながら全く乗り物酔いをしない結局弱いんだか強いんだかよく分からない私はどうしても伯備線で乗り物酔いしてしまう先生の気持ちになりきって詠んでみた。ちなみに「くらげ」という単語は敬愛するバンド、クレイジーケンバンドの
ドス黒く淀んだ 横須賀の海に
浮かぶ月みたいな 電気海月よ ハッ!
という歌詞とメロディがおぼろげに作歌中に脳内で流れていたのでそこから取った。ハッ!伯備線は倉敷までしか使わない(実家の最寄り駅が倉敷)私がよりによって他人様の話したエピソードで受賞するとは何とコメントしていいのやらと思うけど素直にうれしい。ちなみにいつもNHK短歌の結果をお見せしているお義母さんに受賞のご報告と短歌の紹介をした時にお義母さん自身も乗り物酔いがひどいのと同時にこの短歌が乗り物酔いで苦しんでいる人々の支えになると仰って下さって大いに励まされた。岡野さんの短歌教室で実体験と実景と実感の区別を教わったけれど私のなりきりは紛れもなく実感なのだろう。岡野さん、見つけて下さり、また短歌の世界が広がる歌評を寄せて下さり本当にありがとうございました。
そして整形外科のT先生、本当にありがとうございました。両膝の痛みが意外なところで役に立ちました。本来なら私の年齢と症状であればとっくのとうに整形外科自体を卒業すべきでしょうが、もう少しだけお世話になりますね。今後ともどうぞよろしくお願いします。
以上がこの短歌ができるまでのあらましである。ここまでご覧くださった皆様、本当にありがとうございました。