
根を持たぬ旅人-「旅をする木」と僕のこれから
もし、あなたが人生で一番美しい景色を一人で見たとしたら。
そのときの気持ちを愛する人にどういう風に伝えるだろうか…。
ある人はこう言った。
「自分が変わっていくことだ」って…
星野道夫さんの『旅をする木』を読んで、1文字1文字が放つ自然の美しさに、心が深く引き込まれていった。
たとえばこんなお話。
アラスカで、孤独と共に生きた男:ジム・ハスクロフの話。彼はビジネスで3回の成功を収めた後、事業が失敗。すべてを失った彼がたどり着いた場所こそ、アラスカの孤島だった。彼は人生後半の22年間を、アラスカの自然とともにひとりで過ごした。一年に一度だけ町に降りて、去年の新聞を一年分手に入れ、また静かに海を渡って自分の島に戻る。
彼にとって世界は、1年前の出来事でできていた。
時間の流れさえも、自分の生きるリズムに合わせていた。
「ひとり」とは、「孤独」とは。
「寒いことが、人の気持ちを暖める。離れていることが、人と人を近づける。」
この言葉は、今の僕にとって、旅の理由そのものだった。
僕は将来、自転車で世界をまわるつもりだ。
道に迷っても、国境で止められても、
たぶんそのとき出会う景色や人が、
僕を変えていくのだと思う。
星野さんの死と「旅をする木」
風に吹かれながら、一本の木が旅をしていた。
それは、アラスカのツンドラ地帯に生まれたトウヒの木。
氷河の時代に、風が種を運び、たどり着いたこの場所で、
根を下ろし、静かに、長く、ただそこに生きていた。
やがてトウヒは氷河に削られ、川を下り、ベーリング海に放たれ、植物の存在しない北の海辺に流れ着いた。キツネが巣としてマーキングし、終いにはストーブにくべる薪として燃やされる。
動かないはずの木が、旅をしている。
大地と共に、風と共に、時の流れと共に、遠くまで。
一方、星野さんの人生もまた、旅だった。
アラスカに魅せられ、動物を、風景を、人々を記録し、
そのひとつひとつの出会いに、深く根を張って生きた人。
けれど彼の人生は、ある日突然、ヒグマとの遭遇によって終わりを迎える。
しかし、不思議だった。
終わってしまったはずの彼の旅が、まだどこかで続いているように感じる。
それはきっと、彼が言葉を遺したからだ。
あの風景を、あの静けさを、誰かに伝えたいという祈りのような言葉たちが、僕ら読者の中で、また新しい旅を始めるのだ。
燃やされたトウヒも、灰となって大気を周り、どこかの大地に根を下ろす。木は死んだ後もなお、旅をし続ける。
僕の中に生きる、星野道夫の旅。
僕は今、自転車で世界をめぐる旅を計画している。
まだ根の浅い若者。けど、星野さんが見た景色や、
トウヒの木が耐え抜いた旅を思うと、
旅とはただ移動することではなく、
「何かに深く触れること」なのだと思えてくる。
もしかしたら僕は、動く木になりたいのかもしれない。
風に乗って世界を巡りながら、
どこかの瞬間、誰かの心に根をおろせるような――
そんな旅を続けていきたい。
『旅をする木』は、そういう生き方があるのだと教えてくれた。
そして、星野さんとトウヒの旅は、
僕の旅の道しるべになった。
星野さんは、ヒグマの事故で命を落とした。
だけど彼が見つめた風景、彼の声に耳を傾けた無数の人たちは、
今も、彼の旅の続きを生きている。
そしてその旅は、僕にも少しだけ受け継がれているような気がした。
ひとりで、風を切って進む旅。
だけど、孤独のなかに、いちばん大きなつながりが生まれるのだと、
この本が教えてくれた。
いつか、アラスカの大地で、あの一本のトウヒの木に会いたい。
「旅をする木」――その木のそばに立ったとき、
僕もまた、誰かに伝えたい風景を見ているのだろう。
終わりに
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「旅をする木」。ほんとうに美しかったです。
これからも、心が動いた本の感想や旅の記録など、コツコツ投稿を続けていきます。他の記事も、お暇だったら読んでみてくれると嬉しいです。どうぞ、応援よろしくお願いします。
それではまた。アディオス!