
僕の居場所
日本人でありながら、イギリスで生まれ育った僕は、子供の頃から自分が
少し変わっていることに気づいていた。これは見た目だけの話ではなく、
考え方や感じ方がなんとなく、みんなとは違うような気がしていた。
それで理解されなかったり、いじめられることもあったけど、それでも
こんな変わり者の自分が好きだった。
大学を卒業して、しばらくバイトをしながら仕事を探し、ようやく就職が
決まった。しかも自分のルーツともなる日本で。
初めての日本暮らしと、社会人としての第一歩を踏み出そうとしていた僕は、ピカピカの一年生と同じぐらい夢と希望で溢れていた。
入社してからはとにかく、愛想を振りまき、仕事には積極的に取り組み、
仕事終わりの飲み会だって、なるべく参加するようにした。新しい環境で「いい印象を与えたい!」、「成果を出したい!」という気持ちが大きかったのだろう。
しかし、この調子で数年が経ち、僕はうまく馴染めないでいた。
社内の人間関係や働き方、社会の暗黙のルールについていけず、
叱られたり、冷たい目で見られたりもした。イギリスにいた頃とは違って、
見た目は似ていても、強いアウェイ感を覚えずにはいられなかった。
その上、人の顔色ばかりを気にして、自分らしさというものが徐々に薄れていくような感じがした。何度も否定されるうちに自分にどんどん自信が持てなくなって、やがて、
「自分に価値なんてない。」
そう思うようになり、深く暗い、誰もいない海の底へと沈んでいった。
周りは静かで、僕は捨てられたネコのように怯えていて、弱気だった。でもここで初めて、自分の心の声を素直に聞いてあげることができた。
「これはもうやりたくない」「もう頑張りたくない」
こうして弱音を吐き切ると、今度は逆に
「じゃあ、自分は何がしたいんだろう?」と考えるようになった。

子供の頃に好きだったことや、心から喜びを感じた瞬間。
そんな思い出と一緒にいろんなアイディアが浮かび始めた。
勇気や希望のようなものもぷくぷくと湧いてくると、
少しずつ上に向かって泳ごうと決心する。
足をバタバタして泳いでいると、何かが邪魔しようとしてくるのが分かる。
サメか?それとも人魚か?
いや、違う。
それは、過去に傷ついた僕たちだった。
「もう二度と同じ思いはしたくない」と嘆いていた。
「このままでいるしかない」と諦めてもいた。
そんな彼らを無視して上に進むことはできなかった。
一人ひとりの話を聞いて、時間をかけて向き合い、
「よしよし」と安心させる必要があったのだ。
僕はそこで、過去の自分たちを守ってあげられなかったことを悔やみ、
素直な気持ちを伝えていった。
彼らは僕のことをじっと見つめ、やがて優しい表情で微笑んだ。
その笑顔はまるで、「向き合ってくれてありがとう」と言っているかのようで、それだけで僕は救われた気持ちになった。
心が安心したのか、今まで押さえ込んでいた感情が突然込み上げてきて、
気づけば大粒の涙をダラダラと流していた。
「こんなに泣いたのはいつぶりだろう。」
久しぶりの出来事に戸惑いながらも、心の傷が少しずつ癒やされているような気がした。
胸をきつく締め付けていたものがさあっと消えて、
軽くなった体は少しずつ水面へと浮上していく。
「ああ、上からなんだか温かい光を感じるなー。」
「あともう少しだ。」
勢いよく水面を突き破り、
僕は久しぶりに外の空気を腹いっぱい吸って、深呼吸をした。
上を見上げると、どこまでも続く青空が懐かしさを帯びながら広がっていた。
「ここが僕の居場所なんだ。」
ずっと忘れてしまっていた大切なものを再び見つけたかのように、
すっきりした表情で、青い天井を眺めた。
海底の息苦しさや重圧を経験してきたから、こう感じられるのかもしれない。
そう思うと、自分に深い愛情と感謝の気持ちが込み上げてきた。