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【改良】『Shadow Disaster Agency』第一話 誰も見えない

    自分の目に見えているものが何なのかを知ったのは、あの都市伝説が騒がれ出した頃だった。

    あの都市伝説のスレッドが立てられるもっと前のこと。

    僕は中学生。成長期真っ只中。食べ盛りで、給食のおかわりジャンケンも参加しだした。
    そうやって、沢山食べたり、部活で運動をして汗を流したりしている内に、身長はどんどん伸びていった。一年たった頃には、親の背をとっくに越してしまっていた。
    今までキンキンと高かった声が、どんどん低くなっていった。あれから、合唱コンクールの歌の高い部分が歌えなくなった。僕は低い方の担当になった。でも、ほとんどの男子がそうなった。
    大人になっていく。
    僕は少し嬉しかった。
    こうやって、できなかったことができるようになっていくのだと、そう思っていた。
    だけど、僕の成長期はどうやら、成長しなくていい部分も成長してしまったみたいだった。

    それは目だった。

    僕の目は"見える"ようになってしまったのだと思う。
    学校での普段の生活、学校以外のプライベートな生活。
    そういう楽しい日常が、"見える"ことによって、楽しくなくなってしまった。

    それが原因で、僕は一時期、いわゆる不登校というやつになってしまったことがあった。
    親は心配して声をかけてくれた。でもその声は、あまり良く聞こえなかった。遮られていた。僕が引きこもって、何もかもが怖くなって、閉じこもっている部屋のドアのせいだった。
    階段を上ってくる親の足音、一段一段上るごとに発生するあの低く響いて、遠くにいる僕の耳まで入ってくる音を聞くたびに、また何か言われるのかもしれないと怖くなった。そして、その足音が僕の部屋に向かってくるものではないと分かったときには少しほっとした。
    もちろん、沢山説明した。化け物が怖いんだって言っても、信じてくれなかった。僕の家で一番やさしい母が理解してくれなかったんだから、父ももちろん、理解してくれなかった。
    二人は口を揃えて、「いつまでそんなにふざけたことを言っているんだ。」とか、「学校に行きなさい。」とか、「お前のためを思って言っているんだ。」とか、聞きたくもない言葉で僕を攻撃してきた。
    視覚情報とは違って、僕の部屋の壁とドアも、音に関しては、バリアが効かないみたいだった。二人の放つ言葉の矢は、部屋のドアを貫通して、僕の心へと突き刺さった。

    こういう日が、何日も、何日も、何日も続いていった。

    僕が嫌だったのは外に出ることだった。学校の中に何もいないんだったら、行きたかったし、喜んで勉強もしたはずだった。
    不登校に対しての申し訳なさはあったので、僕は勉強はしていた。
    中学で不登校になってしまって、高校に行けるのかすらも分からなかった。
    そういう不安に駆られていたから、勉強だけはしていたんだと思う。
    そんな不登校の期間は、1か月を経過することなく、終了した。

    なぜ、学校に行くことができたのか。
    それは、他にも"見える"人がいることが分かったからだった。


    【急募】これって、他にも見えてる人いないの??


    ネットの掲示板に立てられたこの一つのスレッドが、爆発的に広まった。


    1.期待の新星さん
    この動画の3:04ぐらいなんだけど、なんか黒い細い人?みたいなやつ見えない??

    2.期待の新星さん
    は、どこ??

    3.期待の新星さん
    見えん。


    こうして、最初の方はこのスレは、否定的な意見で溢れかえっていた。
    この初代のスレは、1000件まで達して閉鎖された。
    だけど、この初代に対する議論は広まっていった。


    【急募】2.これって、他にも見えてる人いないの?? 
    1.期待の新星さん
    いる......、よな?

    2.期待の新星さん
    何人か見えるっていうやつもいるみたいだな。ちなさっぱりわからん。

    3.期待の新星さん
    まっじでどこ??


    このスレは、僕の記憶が正しければ、30ほど続いていたと思う。
    見えない人がほとんどだった。だけど、僕にとっては、僕以外の誰かが、あの不気味な黒いやつがいると信じてくれて、少し勇気付けられた。

    僕は一人じゃない。

    トイレとご飯とお風呂以外で部屋のドアを開けて、一階に降りていく僕を見て、相当心に来たようで、母の方は、朝ごはんを作るのに忙しそうなところを、フライパンを持つのをやめ、こちらに駆け寄ってきた。父の方は、朝の支度で忙しそうなところを、咥えていた食パンを皿の上にゴトッっと音を立てて落として、抱き着いてきた。そのとき、二人は口を揃えて言ったんだ。

    「心配したんだ。」

    そのときの二人の言葉に、こちらを傷つけるような矢はなかった。今までの心の傷が全て言えていくような気さえした。僕はそのとき、親の愛の大きさを知った。

    だけどそのとき、僕は見逃さなかった。
    大きくて、深い愛のその後ろ。
    さっきまで父がご飯を食べていた食卓のもっと奥、大きなテレビの左側、大きな窓にそれがいた。

    黒い線がいくつもうごめいていて、そういう線がたくさん集まって、雑なアニメみたいに体を形作っている。
    人間みたいな形をしているけど、あばらが見えるぐらい細くて、骨が各所で浮かんで見えている。
    その気味の悪い人型の何かは、こちらをただ見つめてきている。
    だけど、感じる視線の源はどこにも見つからなかった。
    目がありそうな場所には黒いくぼみしかなかった。
    今は来てほしくない。
    今だけは。
    どこかに行ってほしい。
    心の中でそう念じると、それは窓に沈んでいった。



     
     
     

    Nora

     
     
    落ちたら、働くしかない。

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