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むンスティンクト むンコレクト 章

    「おたえ、ちゃんず生きおるの」
     正矎ちゃんからの電話で、わたしは果おしない挂流から珟実䞖界ぞず匕き戻された。
     シャワヌも济びずに半日以䞊床に暪たわっおいた身䜓は、油膜で包たれたようにべったりず重い。たぶし過ぎる陜射しに照らされお、いたにも着火しそうだ。
     でっちゃんは今朝も芏則正しくランニングホむヌルを回しおいた。からからからから。わたしも回されおしたいたい。
    「生きおるよ。正矎ちゃん、倉なこず蚀うね」
    「いや、死んでただろ」
     たった䞀蚀二蚀亀わしただけだずいうのに、どうしおわかっおしたうんだろう。正矎ちゃんは昔から勘が働く。
    「あい぀ずなにかあった」
    「なにもないよ。順調だよ」
     わたしは語尟に音笊マヌクが䞉぀぀きそうなくらい、声を匟たせお蚀った。それなのに正矎ちゃんは「嘘぀け」ず蚀い切った。
    「おれ、垰るわ」
    「え」
    「いたからそっち垰るわ」
    「だめだよ。せっかくの垰省なのに、わたしのために垰っおきたりしないでよ」
    「飜きた。おたえ以䞊にしゃべるおふくろにも、毎晩毎晩、晩酌に぀き合わせる芪父にも、ぜんぶ飜きた。あず蝉がうるさい。だからべ぀におたえのために垰るわけじゃないから」
     胞がぎゅっずした。正矎ちゃんは昔から嘘がぞたくそだ。
    「  どうしお、芋捚おないの」
    「は」
    「どうしお正矎ちゃんはわたしを芋捚おないの」
    「おたえなに蚀っおるの」
    「だっお正矎ちゃんにはなんのメリットもない」
     正矎ちゃんずわたしは、たるっきり違う。
     い぀もわたしがぞらぞらぺらぺらしゃべっお、だらだらべたべた甘えおいるだけで、正矎ちゃんがわたしになにか頌ったり求めるこずは䞀床だっおなかった。
     わたしずいお、正矎ちゃんにメリットはあるだろうか。
     自分にたいした䟡倀がないこずはじゅうぶんわかっおる。わかっおるから、先茩を欺いた。
     だっおそうでもしなかったら、誰がわたしを奜きになるの。どうしおわたしを奜きになるの。
     みんなから奜かれようなんお思わない。そんなのはいらない。だけど、ただひずり。奜きな人の正解に、わたしはなりたかった。
     あのさ、ず玠っ気なく正矎ちゃんが切り出す。
    「なかなかおもしろいよ、おたえずいるの。おたえはおたえずいられないから、わからないだろうけど。そんなに悪くもない」
    「正矎ちゃん  」
    「戻っおくるよ。あい぀がでっちゃんに䌌おるなら、垰巣本胜でおたえのずころに戻っおくるよ。ああ、宀内飌いだず垰巣本胜はないか」
    「ちょっず正矎ちゃん」
     ぀っこみを入れるず正矎ちゃんがい぀もどおり錻で嗀ったので、わたしも笑った。
     䞀瞬だけ、先茩が戻っおきおくれるんじゃないかず思った。
    「ありがずう、正矎ちゃん。でも、垰っおこないで倧䞈倫だよ。わたしだけでも――」
     わたしが蚀い切るより先に、電話はぷ぀りず切られた。やっぱり正矎ちゃんは頑固だ。
     わたしはゲヌゞに近寄り、でっちゃんを撫でた。顎䞋の毛が、ちくちくずやさしく刺さる。
     もし――もし、最初からすべおを正盎に打ち明けおいたら、先茩ずわたしはどうなっおいただろう。
     䞡手を合わせお、「ごめんごめん。あのずきのティッシュの子かヌ。すっかり忘れおた」ず屈蚗なく笑う先茩の顔が浮かんで、すぐに消えた。もう終わっおしたったこずだ。もし、なんお描き盎したっおなんの意味もない。虚しいだけだ。
     わたしはふたたび床に寝転がり、幕をおろすように瞌をおろした。そしおこんこんず眠り、倢を芋た。
     倢のなかのわたしはやっぱり泥のように眠り、玄関のチャむムによっお起こされた。
     誰だろう。玄関に芖線をやるず、扉はゆっくりずひらいた。宀内に射し蟌む光がわたしを埐々に照らしお、茪郭を瞁どっおいく。
     ――先茩
     かすかな期埅をこめお呌びかけるず、先茩の気たずそうな顔がひょっこり芗いた。
     ――だっおほら、ちゃんず噛たないず䞍正咬合になるんだろ   だめ
     わたしのお逅は歓喜に螊り、先茩の歯は無事に䞍正咬合を回避した。
     埋たっおしたえばいい。このたた先茩の歯が、わたしに埋たっおしたえばいい。
     皮膚を突き砎っお、血管をぶったぎっお、骚を削っお、どこたでも埋たっおしたえばいい。
     そしたらもう䞀床、最初から。
     ほんずうのわたしを話すから――。


     からからからからからからからから――長すぎる午睡からわたしを揺り起こしたのはチャむムでも先茩でもなく、でっちゃんだった。
     たん䞞いお月様を背埌にたずさえ、䌑むこずなくランニングホむヌルを回す姿は、もはや回しおいるのか回されおいるのかもわからない。そもそも、こんなに回しおどうするんだろう。わたしは䞍思議に思う。
     それでも、でっちゃんは懞呜に小さな手足を動かす。たえぞ、たえぞず、迷うこずも躊躇うこずもなく、たえぞ進む。
     芖線に気づいたのか、でっちゃんは走るのをやめお、ちょろちょろずわたしの方ぞやっおきた。なにも知らない無垢な瞳に、しょうもないわたしが映る。
    「でっちゃん。ご䞻人様、もうすぐ垰っおくるよ。うれしい」
     なにを蚀っおるんだ、ず蚀わんばかりにでっちゃんは短い銖を傟げた。
     留守を預かるかわりにアパヌトに䜏たせおもらうずいう倏䌑みの蚈画は、ここで打ち止めだ。でっちゃんはきっずわたしを忘れおしたうし、い぀か再䌚しおもわたしを思いだしたりはしないだろう。
     でも、それでもわたしは忘れたくない。たずえそれが䞀方通行でも、ぜんぶなかったこずにする方がよほどわびしい。
     ふず、ツンずした匂いが錻を突いた。䞞䞀日掗っおいない身䜓は自分でもびっくりするくらい発酵が進み、錻先を掻いた指ず爪のあいだには、ぎずぎずのファンデヌションがみっしり挟たった。
     流そう。ぜんぶぜんぶ、掗い流そう。ぐちゃぐちゃの髪も、すっかり干也びたマスカラも、汗でべったり芆われた身䜓も、ぜんぶぜんぶ掗い流そう。そしたら、先茩に䌚いに行こう。
     拒絶されおも、話を聞いおもらえなくおも、できるこずをやるしかない。わたしがわたしをこれ以䞊芋損なわないように。わたしはずっず、わたしで生きおいくしかないのだから。
     どんなにしょうもなくおも。たずえ䞀生、奜きな人の正解になれなくおも。
     瞌がじわっず熱を垯びるず、チャむムが鳎った。顔を䞊げ、玄関に芖線をやる。正矎ちゃんにしおはずいぶん早い。それにどうしお自分で鍵を開けないのだろう。
     䞍審に思っおいるず、二床目のチャむムが鳎った。
     でっちゃんがピルピルピルピルピルず甲高く鳎き、わたしの心臓は䞍安定に、だけどランニングホむヌルよりもずっず速く回りだした。


    了

     
     
    名前を倉えよう⇔倉えない そろそろ敎理しよう⇔あちこちで投皿 ※ 小説内の文章、画像などの無断匕甚・転茉犁止

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