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ポップス歌手によるクラシック音楽

私は昔から、デイブ・ブルーベックが弾くディズニーをテーマにしたジャズピアノアルバムや、冨田勲によるシンセサイザーのドビュッシー『月の光』などが大好きだ。既存の楽曲の新たな側面を引き出す演奏に、強く惹かれるのである。

そんな中で、クラシック音楽をポップス歌手が歌った名例もたくさんある。今回は、その中でも私のとっておきのお気に入りアルバムを3枚紹介しよう。どれも名盤として名高いし、今時は配信サービスでも聴けるのだろうが、ぜひ「アルバム単位」で通して聴いてみてほしい。



1. スティング:『ラビリンス』〜Songs From The Labyrinth

ロック界のレジェンドが、16世紀のエリザベス朝時代に生きたリュート奏者・作曲家ジョン・ダウランドの世界へと没入したアコースティック・プロジェクト。古楽リュートの第一人者エディン・カラマーゾフとともに、ダウランドの繊細で憂いを帯びた旋律を現代に蘇らせました。曲間には作曲家ジョン・ダウランド自身が1593年に書いた「手紙」の朗読が挿入されており、単なる「古い歌曲のカバー集」ではなく、「400年前の孤独な音楽家(ダウランド)の人生を追体験する、一枚の音のロードムービー(あるいはオーディオドラマ)」のような立体的な作品に仕上がっています。


2. ヘンリク・グレツキ:『交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」』

(ベス・ギボンズ、クシシュトフ・ペンデレツキ指揮/ポーランド国立放送交響楽団)

英国の至宝「Portishead」のボーカル、ベス・ギボンズとオーケストラが挑んだ奇跡のコラボレーション。伝統的なソプラノ歌手の歌唱法ではなく、ベス・ギボンズが持つ唯一無二の、魂を削り取るような地声のアプローチでグレツキの祈りと哀悼を表現。ポーランドの巨匠ペンデレツキの指揮が、その危ういほどの美しさを支えます。長いオーケストラの演奏のあと彼女の声が出てくる様は鳥肌もの。深い静寂の中から湧き上がる、個人の深い精神性に深くコミットした圧倒的な名演です。そういえばベス・ギボンズ、去年来日してたんですよね。行きたかったな……!


3. 矢野顕子:『BROOCH』

シューベルト、ドビュッシー、ウェーベルン、高橋悠治といった珠玉の作品を矢野顕子が唯一無二の声で歌う傑作アルバム。作品のチョイスも素晴らしい。クラシックの難曲をあっさりと自分のものにし軽やかにこなす矢野顕子の底力を感じます。しかも高橋悠治と坂本龍一がピアノ伴奏を務めています。結構好き勝手な伴奏なところも好印象。矢野顕子は言語にこだわらず英語と日本語で音楽を紡いでいますが、それでも確実に作曲家の書き記したものがそこここに溢れています。私としてはウェーベルンの調性時代の小品「Fromm」が本当に美しくて一聴の価値ありです。

以上、さくさく更新しましたがこの3枚のアルバムは私の歌手としての在り方に大きく影響を与えました。西洋音楽を何か「正しく」演奏することだけが、その魅力を伝える手段ではないことを教えてくれました。21世紀に生きる日本人である私が西洋音楽に魅力を感じ歌おうとする、歌う意味のかけらがこういう演奏に眠っている気もするのです。


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