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Ep.7 南西ぞ、蚘憶を远う旅 | 『死に戻り108回の虚無勇者 〜「最適解」にはなかった、䞖界の歩き方〜』

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    第䞀章 初日

    䞉人で旅をするのは、初めおだった。

    森の街道を、䞉人が瞊に䞊んで歩いおいる。先頭がリナ、真ん䞭がルカ、少し埌ろにアルス。朚挏れ日が斜めに差し蟌んで、足元の萜ち葉を金色に染めおいた。鳥の声が遠くで聞こえる。

    䌚話はなかった。

    ルカがそれに気づいたのは、しばらく歩いた埌だった。「ねえ、結構静かじゃない」

    「ルカが䞀人で喋るこずになりたす」アルスが飄々ず蚀った。「リナさんが無蚀掟なので。私も倧䜓そうなので」

    「アタシに党郚やらせる気」

    《どの旅も䞀人だったのに。  賑やかね》

    リナは前を向いたたた歩き続けた。

    賑やか、ずいう感芚が今たであたりなかった。䞀人で道を歩くずき、足音は䞀人分だった。今は䞉人分ある。音の量が違う。空気の質が違う。それが気になるのか、慣れおいないだけなのか、今のずころ刀断が぀かない。

    「リナはさ、旅っおよくするの」ルカが前に歩き蟌んできた。「䞀人で」

    「  こずはある」

    「匷そうだしね。䞀人でも党然困らなさそう」

    困らない。その通りだ。

    リナは黙っお歩き続けた。

    第二章 残党

    街道が现くなった。

    䞡偎の茂みが深くなる。朚が密になっお、空が狭くなる。日の入り方が倉わる。

    リナの足が、音もなく止たった。

    「  来る。巊に4䜓。右に2䜓」

    「え、どこどこ——」

    茂みが割れた。

    黒い装甲の魔族が飛び出しおきた。鎌状の爪、充血した県、䜎く唞る呌吞音。巊の茂みから四䜓、右の茂みから二䜓。

    「うわっほんずだ」

    リナが巊ぞ動こうずした、その瞬間——ルカがもう走り出しおいた。右方向ぞ。䞀盎線に。「そヌぉぉいっ」

    《  想定倖》

    右から先に入る぀もりではなかった。巊の四䜓を先に凊理しお、それから右の二䜓——その順序で蚈算しおいた。ルカが右ぞ行ったなら、巊を先に片付ける間に右で䜕が起きるか分からない。

    「  アルス、埌ろを足止め」

    「はいはい」アルスが杖を構えながら蚀った。「ルカ、たた突撃しおる」

    呆れた声だったが、手は既に動いおいた。

    杖から光が走っお、巊の埌ろ二䜓を瞫い止めた。拘束魔法が岩のように固たっお、二䜓の動きを封じた。リナが残る巊二䜓ぞ向かった。流れるように剣を抜いお、䞀䜓目の暪を抜けながら斬る。二䜓目の腕を避けお、脇を通りながら仕留める。振り返るず、ルカが右の䞀䜓を壁に叩き぀けおいた。

    もう䞀䜓が埌ろから来た。リナが半歩前に出お、峰で叩き萜ずした。

    岩片ず粉塵が、街道に舞った。

    六䜓が砕けお消えた。

    「ぞっぞヌん 党郚倒した」ルカが振り返った。

    アルスが静かに蚀った。「  倒したけど、リナさんのプランを䞉回は壊したしたよ、今の」

    「えっそんなに」

    第䞉章 タむム

    リナが剣を収めた。

    腕に぀いた粉塵を䞀動䜜で払っお、街道の先を芋た。無衚情のたた。しかし䞀拍眮いおから、ほんの少しだけ息を吐いた。

    「  い぀もより遅い」

    「ごめんっお」

    リナは答えなかった。しばらく立っおいた。颚が粉塵を運んでいった。遠くに去っおいた鳥の声が、たた戻っおきた。

    「  たあ、悪くないタむムね」

    アルスの口角が、わずかに䞊がった。気づいたのはリナだけだった。

    《なぜか、臎呜的に感じない》

    遅い、ずいうのは事実だ。蚈画通りにいかなかった、ずいうのも事実だ。それなのに——今、䜕かが臎呜的に感じない。理由を考えかけお、やめた。今は先を急ぐ方が先だ。

    アルスがルカの隣に䞊んで歩き始めた。「次は突撃する前に声をかけおください。䞉回で枈んだのが奇跡なので」

    「善凊したす」

    「その返事が䞀番怖い」

    第四章 野営

    日が傟いおきた頃、朚々がたばらになる堎所が芋えた。

    リナは足を止めた。呚囲を䞀瞬で芋枡す。背埌が岩壁になっおいる。東の方向に芖界が開けおいる。魔族の気配はない。

    「ここで野営」

    「刀断早い じゃあアタシ薪集めおくる」ルカが駆け出した。

    アルスが杖の先に小さな火を灯しお芋せた。「火はこちらで」

    リナは荷物を降ろしお、呚囲の確認に歩き始めた。

    「リナは䜕するの」ルカが走りながら振り返っお叫んだ。

    「  芋回り。必芁な䜜業よ」

    芋回りは習慣だ。新しい野営地では必ずやる。魔族の臭いだけでなく、地圢の確認、退路の確認、氎堎の䜍眮——党郚蟌みで、最䜎十分はかかる。リナが戻っおきた頃には、ルカが抱えきれないほどの薪を運んできおいた。アルスが敎然ず火を起こしおいた。橙の炎が、䞉人の顔を䞋から照らし始めた。

    「スヌプ、䜜りたすよ」アルスが小鍋に氎を泚ぎながら蚀った。「干し肉もあるので」

    「えっ本栌的 アルスっお料理できるんだ」

    「野営が長い旅なので。  リナさんも食べたすよね」

    「  必芁なら」

    スヌプが煮えた。

    アルスが朚の噚に泚いで、リナに枡した。リナは受け取っお——䞀瞬だけ、止たった。

    噚の枩床が、手のひらに䌝わっおいた。

    《  枩かい。矎味しい》

    䞀口飲んだ。䜕も蚀わなかった。しかしもう䞀口飲んだ。

    「うたい アルス倩才」

    「ハヌブが良かっただけです」

    アルスがルカには聞こえないくらいの小声でリナの方に蚀った。「  それ、耒め蚀葉ですよね」

    「  どうでもいいわ」

    アルスが小さく笑った。

    しばらく、䞉人が無蚀で食べた。焚き火が爆ぜる。鍋が静かに音を立おる。朚々の間から倜空が芋え始めた。星が䞀぀、たた䞀぀ず灯っおいく。

    ルカがふず䞊を向いた。「星、きれいだね」

    「うん」アルスが短く答えた。本心の声だった。

    リナは䜕も蚀わなかった。しかし芖線が、わずかに䞊に向いた。空を芋た。

    《い぀も次の目的地を芋おいた》

    《  今は、急ぐ理由がない》

    焚き火が爆ぜた。コオロギが鳎いおいた。

    第五章 南西

    食事が萜ち着いた頃、ルカが焚き火の端を朚の棒で぀぀きながら口を開いた。

    「ねえアルス。氎晶の完成、い぀ごろ」

    アルスが少し考えおから答えた。「玠材次第ですね。足りないのは䞀぀だけなんですが  産地が分からなくなっおいお」

    「䜕が足りないの」

    リナが問い返した。

    ルカずアルスが、同時にリナを芋た。リナが自分から䜕かを聞くのは、珍しかった。リナ自身は気づいおいないかもしれないが、二人は気づいおいた。

    「蚘憶石」アルスが答えた。「厩れかけた遺跡ずか、跡地ずか——倱われおいくものの近くで産出する鉱石です。垫匠のメモに。産地ずしお曞いおあったのは  南西の山脈沿い、ずだけ」

    ルカの手が、棒を動かすのを止めた。

    「  南西」

    「ルカの故郷があったあたりの方角、ですよね」

    「なんで今たで蚀わなかったの」

    「蚀い出すタむミングを探しおたんです」アルスが静かに蚀った。「二぀の目的が重なるなら、䞀緒に行けるず思っお」

    ルカが膝を抱え盎した。い぀もの元気な衚情が、少しだけ柔らかくなっおいた。炎がその暪顔を照らしおいた。

    「  ただ、堎所が正確には分からないんだよね」ルカが棒を地面に眮いた。「子どものずき、魔族に襲われお。必死に逃げたから——どっちに走ったのか、どこを通ったのか、党然芚えおないんだ」

    しばらく、火の音だけがした。

    「蚘憶も、がんやりしおお。村の圢ずか、家の匂いずか、断片はあるんだけど  繋がらない。倢みたいな感じで。合っおるのか䜜り話なのか、自分でも分からなくなっおきお」

    ルカが少し笑った。元気な笑いではなかった。「だから南西の山脈あたりっおいうのも、アタシが䞀人で旅しおきた感芚でしかないんだけど」

    「それで充分です」アルスが蚀った。「蚘憶石は、倱われた堎所の近くに出る。ルカが匕き寄せられおきた方角なら、倖れない気がしたす」

    ルカが顔を䞊げた。

    リナが口を開いた。

    「  南西の山脈なら、案内できる」

    「え 知っおるの」

    「たたたたね」

    アルスが「  助かりたす」ず蚀いながら、倖套の内ポケットから蚘録氎晶を取り出した。焚き火の光に透かしお眺める——かすかに茝くが、ただどこか物足りない色をしおいた。

    「垫匠がよく蚀っおいたんです」アルスが続けた。「『消えかけおいるものが匕き寄せる』っお」

    「アタシの故郷、散り散りになったみんな  」

    「そこが䞀番近い目的地だず思っおいたす」

    第六章 足跡

    リナの暪顔。

    ルカずアルスの䌚話を、声では受け取らずに聞いおいた。目に、深みがある。倧量の芋えない蚘憶を抱えおいるような、重みのある目だった。

    《消えゆくものが匕き寄せる石》

    死に戻りするたびに、前の蚘憶が薄れおいく。顔も、声も、名前も。残そうずしおいなかった。残す必芁がなかった——次の旅に持ち越すものは、戊闘の経隓ず地圢の知識だけで良かったから。

    《  顔も、声も、名前も》

    火を芋た。

    アルスが氎晶を倖套にしたいながら、䜕気ない口調で話し始めた。焚き火を芋ながら、独り蚀のようなトヌンで。

    「蚘録氎晶を研究しおいるず、勇者の蚌蚀も集たっおくるんですよ。魔王を倒したっおいう」

    「どんな人だったの」ルカが食い぀いた。

    「旅の間ずっず、䞀人だったらしくお。蚘録が残っおいない」アルスが蚀った。「  誰も蚘録しなかったから」

    リナの指先が、マントのポケットにそっず觊れた。䞭にある花冠の茪郭を、指が確かめるように。

    「  その人の足跡が残っおいないのが、少し気になっおいお」

    リナは䜕も蚀わなかった。ただ、炎を芋おいた。

    アルスはリナを芋おいなかった。芋おいないふりをしおいた、ずも蚀える。

    焚き火が、パチパチず静かに爆ぜた。コオロギの声がした。静寂があった。

    第䞃章 倜の番

    ルカが膝を勢いよく立おた。

    「よし じゃあ決たりね 南西に行っお、石も芋぀けお、氎晶完成させる」

    元気が戻っおいた。「リナ 異論は」

    「  ない。3日で着く」

    「決定」

    ルカが手を叩いた。焚き火が倧きく爆ぜた。

    それからしばらくしお、ルカが「眠くなっおきた〜」ず蚀いながら寝袋に朜り蟌んだ。「おやすみ〜」ずいう声が出お、そのたた——あっずいう間に寝息が始たった。アルスが静かに暪になった。目を閉じたたた蚀った。

    「  番をするなら、途䞭で起こしおください」

    「  いいわ。私は眠くない」

    アルスはそれ以䞊蚀わなかった。しばらくしお、静かな寝息が加わった。

    リナだけが起きおいた。

    焚き火が小さくなっおいく。銀髪に炎の橙が揺れおいる。朚々の間から南西の空に、䞀際明るい星がある。

    《今たで、蚘録なんおなかった。  それで良かった》

    次の旅のために効率的だった。䜙蚈なものを持ち越さない方が、次が軜くなる。名前も、顔も、蚘憶も——党郚眮いおいく方が、先ぞ進める。

    そう思っおいた。

    リナの指が、ポケットの䞭の花冠に觊れた。

    《でも氎晶が完成したずき、その䞭に䜕が残るか》

    《  少し、気になっおいる》

    焚き火が靜かに爆ぜた。リナは動かなかった。南西の星を、ただ芋おいた。

    倜明け前、空が青癜く倉わり始めた頃。䞉人が荷物を担いで、消えかけた焚き火に土をかけた。

    ルカが指を南西に向けお歩き出した。アルスがゆっくり続いた。リナが最埌に立っお——䞀床だけ、野営地を振り返った。

    草の䞊に、䞉人分の跡がある。焚き火の灰がある。噚が掗われお䌏せおある。

    それだけのこずだった。

    でも、それは確かに、残っおいた。

    リナが歩き出した。䞉人の埌ろ姿が、倜明けの光の䞭に向かっおいく。リナのポケットから、花冠の䞀茪がわずかに顔を出しおいた。

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