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こっちの日本昔ばなし #8 曽根崎心中

    のえのえぷー

    徳兵衛とお初は、すっかり評判を落としてしまった。
    「名誉も信用も地に落ちた。もう生きていけぬ」
    「いっそ心中しましょう」
    二人は手を取り、曽根崎の森へ向かった。

    森の奥には、古びた祠がある。
    そこにいる神主は、嫌な予感を感じつつも、イメージダウンを
    避けるべくどうしても引き止めなければならない理由があった。

    「神主さま、どうか最後に見届けてください」
    徳兵衛が言うと、神主は書類の束をめくりながらため息をついた。

    「はいストップ。心中は事前申請が必要です」
    「えっ」
    「最近はね、無断心中が多くて。うちのイメージダウンなんですよ」

    神主は、さらに分厚い冊子を取り出した。
    表紙には『SOSガイドライン2026年度版』と書かれている。

    「まず“名誉と信用を失った”という理由ですが、
    これは“自己申告”扱いになりますので、第三者証明が必要です」
    「第三者…」
    「はい。上司、親族、あるいはSNSでの炎上記録でも可」

    お初は困った顔をした。
    「そんな…炎上まではしてません」

    「では証明不足ですね。心中は不許可です」

    徳兵衛は思わず声を荒げた。
    「では我々はどうすれば!」

    神主は淡々と答えた。
    「名誉と信用を失ったなら、再取得すればよいでしょう。ポイント制です」

    「ポイント…?」

    「はい。地域清掃で+5、落とし物を届けて+3、悪口を言わなければ毎日+1。100ポイントで“名誉回復証”が発行されます」

    お初は小声で徳兵衛に囁いた。
    「なんだか、心中より大変そうね…」
    「うむ…」

    神主はさらに続けた。
    「ちなみに、心中をやめた場合は“更生ボーナス”で+20ポイントつきます。お得ですよ」

    二人は顔を見合わせた。
    「……やめましょうか」
    「……そうしましょう」

    神主は満足げに頷いた。
    「はい、心中中止届にサインを。控えはPDFで送りますね」

    こうして二人は、森を後にした。
    名誉と信用は失ったままだったが、
    代わりに“ポイント”という、よくわからない希望を手に入れたのだった。

    そして引きとめポイントを手に入れた神主は、ニヤリとほくそ笑んだ。

     
     
     
    野球(オリックス)と映画とゲームとドラマと音楽と投資と美味しいもの探しと温泉とお酒を趣味にのらりくらりと生活してます。 システムエンジニア兼ネットワークエンジニアやってます。最近はAIに振り回されてます。 ここではショートショートだけ残すようにしてます。

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