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[過去の800字コラム] より良い世界

    【初出】n-mizuno.com 2017年11月11日付
    http://n-mizuno.com/7737/

    勤務先の以前のスローガンに”…for a better world”という文言があった。今はもう別の文言に変わったんだけど…

    2年前、業界の展示会に説明員として駆り出された時のこと。
    会場では、お客様に製品をデモしたり説明をしたりと、昼食を取り忘れるほど慌ただしかったんだけど、そんな時不意に白髪の男性に肩を叩かれ
    「ちょっと聞きたいんだけど」
    会社の看板の前まで連れて来られて曰く
    「この”a better world”っていうのは”the better world”の間違いだろう」

    ハァ?

    「いいえ、間違いではございません」
    「いやぁ、間違いだよ”the better world”だよ」
    「これはまだ見ることのない未来の世界を指しておりますので定冠詞ではなく不定冠詞になっております。間違いではございません」
    「いやぁ、”the”だろう」
    「い い え 間 違 い で は ご ざ い ま せ ん っ」

    語気を強めて伝えると、男性はブツブツ言いながら消えていった。

    「世界は唯一つしかないから定冠詞」というのは受験英語的な定形表現なのかも知れないが、それは正に馬鹿の一つ覚えというべきで、僕はフランス語を習う過程で、将来の未確定なものには不定冠詞が必須と叩き込まれているから、”a”はむしろしっくりくる。

    このオッサンのアホな質問のせいで製品説明には穴が開き、集中力も途切れてしまい迷惑千万だったけれど、お客様はお客様なので「うるせー馬鹿」などと言うわけにもゆくまい。

    僕はたった1週間の説明要員だったけど、朝から晩まで立ちん坊で絶えずお客さんを迎え、礼儀正しく振る舞うのはしんどかったし緊張もした。

    日頃接客業をしている人たちは、毎日どれだけのプレッシャーと戦いながら働いているんだろうと思うし、僕が経験したレベルを遥かに超える言いがかりにも対応させられるのだろう。

    自分が客として接する相手であっても、現場の苦しみを斟酌し、労るこころが必要だと自戒している。

     
     
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