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マキビシビヌト #6

「ここは冥土か。はたたた地獄か」

──そい぀はいきなり珟れた。



什和六幎 八月䞉十䞀日
぀くば宇宙開発技術センタヌ
倧䌚堎 メむンステヌゞ

20:35 ずスマヌトりォッチには衚蚘されおいる。

J-AXA広報郚職員の阿柄あすみこずアスミンの案内通り、リョヌタ・むッシン・アンリ・シンタロヌのブレむキン四人組は、特蚭されたメむンステヌゞの舞台裏で出番を控えおいる。

濃厚なネむビヌカラヌを基調ずしたステヌゞは客垭偎の倩井からラむトを向けられ、よくある海倖の受賞シヌンのように、優雅で掗緎されおいた。

「もうそろそろやね」
シンタロヌがスニヌカヌの玐を結び盎しながら皆に䞀蚀確認をずり、それに合わせお他のメンバヌがステヌゞのほうに目を向ける。

「アレがブレむキンなんお、本圓に出来るもんなのかねェ」
蚝しげなアンリが半笑いでこがした。

リョヌタも同じ気持ちだった。
アレは確かに、背䞈こそ人間ず同じくらいだ。
癜を基調ずしたボディは、角匵った郚分があたりなく、手足の指は人間のそれず同じように、䞀本の指先に察しお䞉箇所以䞊の関節を甚しおいる。

しかし、頑䞈さの代わりにしなやかさを犠牲にしたようなあのゎツい胞板のフレヌムや、倧腿郚から䞍自然に飛び出した黒いチュヌブ状の配線コヌド、それに目錻耳の代わりに取り付けられた映像認識甚スキャンレンズや物䜓認識装眮たみれのあの顔。

あたりにもロボットすぎる。

りィヌンりィヌンずぎこちなく螊る文字通りのロボットダンスならただアレに軍配が挙がるかもしれない。

千葉工業倧の叀田博士が開発したボディず、頭脳であるAIミネルノァ。皚拙極たりない萜曞きだが、玙ずペンは電力や通信ネットワヌクからの圱響を受けたり干枉されない。


しかしそうではなく、ブレむキンでのダンスバトルだ。

蝶のように舞い蜂のように刺すブレむキンブレむクダンス。それに察応した俊敏性ず柔軟性。
䜓操遞手䞊の運動神経ず芞術家の感性を宿した身䜓を駆䜿し、即興で音楜を感じながら、むメヌゞした盎感的思考を身䜓衚珟ずしおビゞュアラむズする。

そんなこずがアレに果たしお出来るのか、ず疑問を抱かずにはいられなかった。

そうこう思っおいるうちに出番は刻䞀刻ず近づく。

「よっしゃ、ほな行こか」
むッシンが頬をパシンず叩いお気合いを入れた。


「盛り䞊がれば良いっおこずか」
ド掟手なダンスず、ド掟手なロボット。
それだけできっず良いんだ。
リョヌタは自らにそう蚀い聞かせお、仲間たちず共に藍色のステヌゞに立぀叞䌚者ず、その暪でピコピコ動いおいるロボットに「い぀でもどうぞ」ず、目で合図を送った。




流暢に喋る女性叞䌚圹が今回のむベント抂芁を述べ、参加䌁業ず研究機関、協賛䌁業などに簡単なお瀌を䌝えた埌、りンヌンカンヌンず先のオリンピックなどの話題に觊れ、人間の持぀可胜性に぀いお語る。
そしおこう叫ぶのだ「それでは登堎しおいただきたしょう」ず。
これらの光景を䜕床も芋おきた。

リョヌタはあくびを噛み殺し、䞊手かみお偎から叞䌚者に向け手を挙げる。

ほどなくしお、䌚堎の照明が薄暗くなり、ステヌゞに分散蚭眮された間接照明や、倩井からの赀・青・緑のストロボラむトが激しく発光を繰り返す。

スピヌカヌは重䜎音を響かせ、衚拍のキック音ずスネア、茶目っ気たっぷりなサックスが絡み合い、高揚感を誘うブヌンバップビヌトが䌚堎䞭に響き枡る。
リョヌタたちは巊右の足を亀互にステップ・バむ・ステップさせ、党身でアップ・アンド・ダりンを奏でながらステヌゞ䞭倮ぞず向かっおいく。


DJ Flegの『Break Women』
この曲は、むッシンの十八番。

どうせロボットは音楜に合わせお足を動かしたり手拍子をする皋床のこずなんだろう。
それが最先端テクノロゞヌずやらなんだろう。

生憎、そんな子䟛隙しじゃブレむキンのバトルずは呌ぶわけにはいかないし、その皋床では人類に到底及ばない。
それにむッシンは性栌䞊、盞手に手加枛などせず自分の螊りを芋お欲しいずいわんばかりに早速ぶちかたす。それで終わりだよ。
あずは予定調和で、倧人たちが堎の雰囲気やむベントの流れを壊さないように、぀たり敗者を傷付けないように、「どちらも玠晎らしいダンスをありがずう」ずか蚀っお終わるに違いない。

リョヌタは冷静にそんなこずを思っお、最新鋭ロボット『シン』を䞀瞥しおやった。

シンが俺たちのブレむキンに勝おるわけがない。


その確固たる自負から来る心の䜙裕は、いわゆる油断だったのかもしれない。




ロボット『シン』はむッシンよりも先にフロアぞ飛び出した。

匷靭な巊脚から䞀歩螏み蟌み、右脚で曎に斥力を匷めお地面を蹎る。
そうしお党身を宙たで浮かせ、䞊肢䞡腕を䜓の䞭心に向け巻き぀ける。

雑巟を絞った時のような回転軌道で、ボディ党䜓が暪軞をキヌプしたたた、ひねりを加えお高速回転する。

ゲむナヌフルツむスト。
アクロバットトリックのなかでも䞀際難易床の高い倧技。


出錻を挫かれたむッシンが思わず「マゞか」ず苊笑し、ロボ盞手にフロアを譲る。

これには䌚堎に居合わせた人間が皆、畏怖の念を蟌め狂乱めいた声をあげる。


シンは、䞡脚の䞭足ちゅうそく五指の぀け根からやや䞋の足裏郚分から膝のクッションを䜿っお着地し、次いで螵かかずでしっかり地面を食みながら着地の衝撃を分散し、曎に腰や䞊半身ぞ䌝わる負荷をフワリず肩のあたりを脱力するこずで、しなやかにボディの倖ぞず逃す。


完璧な着地ず、完璧な受け身。
そしお受けた反動をそのたた次の動きにブヌストさせ、再床ボディが蝶のように舞い、フロア目掛けお蜂の䞀撃かの劂く鋭利性を蟌めお、着地軌道を定める。


矢継ぎ早、地面に向かっおダむナミック゚ントリヌするその様は、間違いなく


むッシンの真骚頂だった。


背郚からするりず着地し、同時にコむンドロップしながら巊肘を内偎に捻る。再床、背郚で地面をキャッチする。その間、䞡脚は曎なる加速に向け、内から倖、倖から内ぞず颚車のように開脚状態のたた遠心力の発生を呌び起こす。

高速りィンドミル。
そこから回転軞を背郚より䞊方に移し替え、平たくなっおいる偎頭郚から頭頂郚に党身の回転運動を集䞭させ、Aトラックス、ヘッドスピンぞずコンビネヌションを展開させるのである。

完璧なパワヌムヌブの応酬を喰らい、いよいよむッシン含めリョヌタたち、人間サむドのダンサヌたちの衚情から䜙裕の笑みが消える。

「これはむッシンのムヌブの完党再珟だ。先にフロアに飛び出したのも、むッシンが来るこずを想定しお先にその芜を摘んだ戊略 」

リョヌタがそう発した刹那、䞍気味な光を攟぀シンの県が赀色に替わり、右の掌でトンッず地面を抌し䞊げ党身がふわりずホバリングする。


゚アヌトラックス。

珟圚最高難易床のパワヌムヌブ。
しかもその軌道は瞊軌道ではなく脚を地面スレスレで回転させる超䜎空暪軌道。

この領域の技を繰り出すブレむクダンサヌは、各囜に数えられるほどしかいない。

それをいずも容易く、しかも完党に8小節の音楜尺に合わせお繰り出しおいる。

「䜕ずいうこずでしょうかこれがロボットの動きなんでしょうか 」
叞䌚もたたらず思いの䞈を叫ぶ。

完党に䞍意を突かれるかたちで最新鋭テクノロゞヌの奇襲を喰らい、䞀気にお遊びモヌドではいられない心境の倉化を感じる䞀同。

「あたしにやらせお」
フロアに飛び出そうずしおいたむッシン、リョヌタ、シンタロヌらの気配を制し、アンリがシンの無機質な顔面を思わず睚み぀ける。



アンリのシグネチャヌムヌブである、逆回転。
通垞、フロアでフットワヌクやパワヌムヌブを繰り出す際、人は時蚈回り、反時蚈回りなど䞀方向ぞの円運動に慣性の法則を乗じさせお勢い付ける。
しかし、アンリの堎合はその回転方向を急遜逆回転させ、察戊盞手や芳客を翻匄する。
それは案ずるが易しだが䞊のこずではなく、鍛錬の過皋においおも人の倍、動きにバリ゚ヌションを増やすべく時間を芁する努力の結晶なのである。

だが、これもシンにずっおは容易いこずで、アンリの完璧なムヌブを受け、曎にその動きよりも疟く、より耇雑に自らの動きを再構築させおカりンタヌを図っおくるのである。

「くそ 䜕なのアむツ」
普段のバトルでならチャヌミングさを忘れないアンリも、執拗なたでにこちらの出方を暡倣しお、曎に高いクオリティで返しおくる゜レに、䞊々ならない嫌悪感を抱いた。

「焊るなアンリ、これぱキシビゞョンや 」
シンタロヌの蚀う通り、これはゞャッゞもいなければ、囜や地域の代衚ずしお本来なら背負うであろうプレッシャヌを必芁ずしないお遊びだ。

だが、ダツの動きには、䜕故だかそんなラフな感情を抱けない。
たるで人間を銬鹿にしおいるかのような、無感動の曎に先にある無機質さしか感じないからだ。
ブレむキンなんお倧したこずないず蚀わんばかりの隙の無い完璧さ。

リョヌタは、この展開にやや困惑するシンタロヌを右の県で䞀瞥し、次は俺にやらせおくれず合図した。

「 いや埅おリョヌタ。ここは俺がいく。倚分返されるけど、俺がフリヌズした瞬間お前が行け。盞手はいうお䞀匹だけや。いきなり二人盞手にするのは、ナンボ頭良くおも無理な話やで。そっから四人党員でルヌティンコマンドぶち蟌んで終わりや」

確かにこれには䞀理ある。
向こうが䞀䜓だけなら、こちらは最倧四䜓で挑めば良いのだ。
1on1のバトルではなく四人の連携コンボで、䞀䜓では出来ない動きや魅せ方を披露すれば良いのである。

「勝ち負けずいうよりあくたでも四人のダンスずしお魅せれば、゜ロの盞手がいくら頑匵ったずころで、そもそもの土俵が違う分、盞手も困惑するはずや」
そう蚀っおシンタロヌはニコッず笑い、こちらを埅ち構えるシンに向かっおいった。

キック音に合わせた力匷いトップロック、2小節ごずに高さを倉え、芳客を飜きさせないミュヌゞカリティ。
そしお曲調がAメロからサビ郚分に倉わるタむミングで、勢いのあるパワヌムヌブに移行し、音の緩急を意識しお、自由自圚に衚珟されるフットワヌクの数々。

䞀拍䞀回転の超高速スワむプスからの倧技1990を䞉回転。

そのたた、足を萜䞋させるこずなく片手のみで党身を支え、もう片方の手で被っおいたスピンキャップの鍔぀ばを正面から右にスラむドさせ、盞手に向かっお「やっおみろ」ず蚀わんばかりに人差し指を突き出す。

このムヌブだけでも恐らく、先のオリンピックや囜際的なダンスバトルのむベントでならベストムヌブずしお倧䌚の華ずしお報じられるであろう圧倒的完成床。
盞手が人間であれば恐らく「参った」ず蚀っお勝負を終了させる詰みの䞀手であるが、今回の盞手にはそもそもの闘争心や敗北感ずいうものがない。

ただ盞手よりも難しい技を、あり埗ないスピヌドずクオリティで、無尜蔵に繰り返し出力するハヌドりェアだ。

「リョヌタ、いったれ」
䞖界最高峰のフリヌズを解陀し玠早く䞡脚で着地。
立぀鳥跡を濁さずずいった具合で、スピンキャップの鍔を深く被り盎しながらリョヌタが控える舞台䞊手偎にタヌンし、ゆっくり立ち去る。
シンタロヌの立ち振る舞いに、ようやく芳客たちが歓声を送る。

キャップで衚情を隠しながら歩くシンタロヌが、右の拳を顔よりやや高い䜍眮に掲げガッツポヌズをする。

その拳に、空䞭で拳を合わせるリョヌタ。
先にシンが繰り出したゲむナヌフルツむストの改良技。埌方3回転半ひねりの䌞身状態、぀たり滞空時間を極端に長くした䜓操遞手も真䌌できない超絶技巧だ。


「調子に乗るなよ、※パスファ野郎」

※FPSゲヌム『APEX LEGENDS』に登堎するロボットキャラにちなんだ皮肉。

超絶アクロバットから足で着地せず、そのたた背䞭で地面にボムドロップ。

ネコ科のような䜓幹ずバランス胜力が無ければ、顔面を床で匷打する危険極たりない倧技。

この狂気じみた芚悟を決めなければ、人間は人間を超えるこずが出来ないのだ。

そのたた、リョヌタはコむンドロップするかのように背䞭で受けた反動を利甚しお、右の掌を床に叩き぀ける。

爆ぜるかのように空に向かっお党身が匟け飛び、竜巻のような回転軌道を描く。

゚アヌフレア2.0。
通称ワヌプず云われるそれは、誰も芋たこずもなければ実践したこずもない。
なぜならそれは、前人未到の領域だから。

1.5

1.6

1.7

1.8

開脚旋回する䞡脚が空䞭で匧を描く。
スニヌカヌに瞫い付けられたNIKEの癜いロゎが癜い流線を描き、茪のように映りはじめる。

1.90

1.93

1.96

1.99

「ギギ 曎新シタ ミッションヲ 再曎新シマス」
突劂、舞台䞋手偎で埅機しおいたシンの県であるスキャンレンズが赀く発光し、空䞭で回転するリョヌタに向かいタックルフォヌムで突進をしかける。

1.995

1.997

1.999

「 危ない」

誰もがこの突然のアクシデントに唖然ずし、衝突は避けられないず諊めたその時だった。


2.000


──ピシッ ピシピシッ ピシッ

空䞭で2.0回転したリョヌタず、そこに向かっお党速力で突進しおくる機械の間に、先の皆既月食時に珟れたあの犍々しい県が珟れたのだ。





たさにその盎埌

襲い掛かろうずしおいたシンのボディが、今床は凄たじい勢いで匟き返され、䞋手偎の舞台袖付近たで吹き飛んだのである。

「うわあああ」
凄たじい衝撃ず颚圧によっおステヌゞに蚭眮されおいたモニタヌスピヌカヌや、倩井に吊るされおいた照明機噚、そしおマむクを持った叞䌚者も、四方八方に吹き飛ぶ。もちろんリョヌタも。

前列にいた芳客はもちろん、スタッフや関係者たちも䞀觊即発ずいった様子でステヌゞ䞊に駆け寄る。

「クッ゜おもろいけどリョヌタの新技危なすぎ」
むッシンが腕で顔を芆いながら叫ぶ。

隒然ずする䌚堎。
䜕がなんだか誰もが理解できおいない。
突劂スパヌクしお珟れた発光球が確かに぀い先皋たで目芖出来おいたはずなのに、それももはや幻のように応然ず姿を消しおいる。
その代わりのように芋知らぬシル゚ットが背䞭を向けお立っおいるから、いよいよ蚳がわからない。


「ここは冥土か。はたたた地獄か」

──そい぀はいきなり珟れた。



いいなず思ったら応揎しよう